グラム陽性菌と陰性菌の違いー概略の理解

 グラム陽性菌とは何か。グラム陰性菌とは何か。グラム染色の目的・意義、グラム染色でわかること、グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い、種類、細胞壁の構造の違いについて、これから数記事で説明していく。これらの基本を理解しておくと、食品微生物学において、毒素型食中毒菌、感染型食中毒菌の違い、食品製造工場での生残や2次汚染のしやすさ、化学的薬剤への感受性などがドミノ倒しのように理解できるようになる。

グラム染色の原理と方法、手順

 はじめにグラム染色の原理とその手順や方法について簡単に説明しておく。

注)本ブログは、食品微生物学の初心者向けにアウトラインの理解を提供するものであり、詳細な実験マニュアルを提供するものではない。従って実験手法については、細部の手順を一部省略している。

 グラム染色は食品微生物に限らず、細菌学においては基本中の基本の染色法である。 その原理は細菌の細胞壁の厚さの違いによって細菌を二つに分けるということである。一連の染色と脱色のステップを行うことによってこの両者を区別することができる。

 まず細菌をクリスタルバイオレットという紫色の染色剤で染めることによって細胞壁が染まる。染まった細胞壁は紫色になる。 この時点ではグラム陽性菌とグラム陰性菌もどちらも紫色に染まる。ただし後述するように、グラム陰性菌の方は細胞壁が薄い。また細胞壁の外側にリン脂質二重膜と多糖類でできた外膜が被っている。従ってクリスタルバイオレットの染色の程度が弱い。なお、下の図では省略しているが、クリスタルバイオレット色素液をルゴール液(ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液)で洗い流す。ルゴール液をかぶせたまま約1分巻末。ルゴール液によって クリスタルバイオレット色素が不溶化して細胞壁に定着する。

グラム染色液(クリスタルバイオレット)

 次に、クリスタルバイオレット染色をアルコールで脱色する。グラム陽性菌はクリスタルバイオレットが分厚い細胞壁に強固に浸透しているので脱色されにくい。一方グラム陰性菌はもともと強くクリスタルバイオレットに染まっているわけではないので、比較的簡単に脱色される。この時点で顕微鏡を除けば、脱色されていないグラム陽性菌と、脱色されているグラム陰性菌の区別をすることは可能である。しかしこれだけでは目視観察で分かりにくい。

グラム染色(アルコール脱色)

 そこで両者の区別をより明確にするために、ピンク色の染色液(サフラニン)で両者を上塗りする。

グラム染色(後染色、サフラニン)

 ここで絵具での塗り絵を思い出していただければ分かるが、 紫色の絵の上にピンク色の絵の具を塗ってもほとんど色は変わらない紫のままである。一方を白色のキャンパスにピンク色の絵の具を塗った場合には鮮やかなピンク色に染まる。グラム染色もこれと同じ原理である。すなわち、クリスタルバイオレット が脱色されているグラム陰性菌には、ピンク色の染色液によって ピンク色に染まる。しかし脱色されていない紫色のグラム陽性菌はピンク色の染色液で染めても紫色のままである。

グラム染色(蒸留水洗浄)

結果としてグラム陽性菌は紫色に、グラム陰性菌はピンク色に染まる。以上が、グラム染色の原理と方法と手順である。

グラム染色(顕微鏡)

概略(イメージ)の理解

 梅雨期にはあちらこちらで水たまりができる。雨滴の中は、塵や埃が混ざっていなければ基本的には菌は存在しない。しかし、地上に落ちて水たまりとなると急激に細菌が増殖する。ブログ運営者が梅雨期に空き瓶にたまった細菌数を調べたところ2×105cfu(coloniy forming unitの略、平板培養法で求める微生物の生菌数の単位)/mlの菌が検出された。ビンの壁面に微量に付着する有機物を利用して細菌が増殖したものと考えられる。このように梅雨時には、テラス、道路の路肩、草木の表面、あるいはビルの陰など、日の差しにくいところに水たまりができ、そこでは本来乾燥土壌や草木表面には存在しにくい多くの細菌が繁殖する。このように湿ったところを好む水生型菌をグラム陰性菌と呼ぶ。

雨の日と水たまり

 大腸菌やサルモネラ菌などもグラム陰性菌の仲間であり、トイレから出たあとの靴底などに付着して運ばれてきたこれらの菌は梅雨期には湿った土壌や水たまり中などでは、乾燥した固定表面に比べると生存率がぐんと高まっていると考えられる。したがって、梅雨時にはこれらグラム陰性菌の食中毒菌が身の回りに存在して、食品への二次汚染のチャンスが高いといえる。また、例えば、食品工場の液汁や飲料などの吹きこぼれや洗浄後の水溜りなどではシュードモナスや大腸菌群といったグラム陰性菌が旺盛に増殖する。

グラム染色と微生物の諸性質の連動

 一方、陸上にはグラム陽性菌と呼ばれる細胞壁の厚い菌が多い。海の潮間帯で誕生したと考えられる生命は海洋生物と陸上生物に分岐・進化し、細菌も同じように海洋細菌と陸上細菌に進化したと考えられている。陸に上陸し、乾燥や急激な温度変化のある陸上での生活に適応したのはグラム陽性菌である。例えば、動植物の表皮に生息する黄色ブドウ球菌や、ミクロコッカス属などは乾燥に強い。特に、バチルス属(枯草菌や納豆菌など)とクロストリジウム属(ボツリヌス菌など)の2属は耐熱胞子を作り、乾燥した陸上へ最もうまく適応進化した究極の陸上型進化菌といえる。

グラム陰性菌と陽性菌の棲家