一般生菌数の測定は、米国(AOAC方式 、35°C48時間 )とEU(ISO方式、30 °C 72時間)に2分されています。ISO方式では米国の方式よりも培養温度を低くして長い時間を培養しています。その理由として、低温細菌をできるだけ拾いたい背景があるからだと別記事で述べました。しかし ISO方式 でも低温細菌は検出には不十分です。 ISO方式 の一般生菌数測定法では、低温細菌や変敗・腐敗乳酸菌を果たしてどれくらい測定できているのでしょうか?
ISO方式、30 °C という培養温度でも、温度が高すぎて増殖できない低温細菌が存在します。これまでにも個別の食品でそのような事例は多数報告されていました。しかし、EUで実際に市販されているチルド食品中で、どのくらいの割合で、このような低温細菌が存在するかについての包括的な調査研究はほとんど行われていませんでした。
そこで、ベルギーのゲント大学のポカソス博士らは、 ベルギーでチルド食品として流通している様々な食品中で ISO方式、30 °C という培養温度でどれぐらいの微生物が検出できていないかを調べることにしました。博士らは、86種類の様々な包装(空気、真空、ガス置換包装)されたチルド保存された小売食品の賞味期限終了時の腐敗関連現象に乳酸菌がどの程度関わっているかを明らかにすることを目的として研究を行いました。
調査対象としたのは Ready to eat food、野菜サラダ,新鮮な生肉,調理済み食肉製品,複合食品など,広範囲にわたる86の食品サンプルです。 これらの食品について、30℃(72時間培養)で培養したプレート上の生菌数と22℃(5日培養)で培養したプレート上の生菌数を比較しました。
なお、低温細菌の測定法としは、7℃、10日などの培養条件で実施する研究論文も多いのですが、なぜ22°C という温度を選択したのかについては、 ポカソス博士たちのこれまでの経験で、この温度帯ならばヨーロッパで流通しているチルド食品の低温最近の大半を測定できると判断してのことのようです。この点については、日本で流通している食品を測定してきた私の経験からも、ほぼ同じような判断をしています。このことについて詳しく記した記事は下記の通りです。
博士らの研究の結果、現行の、ISOでの一般生菌数測定法では、実際の微生物細菌数を過小評価が行われていることが明確となりました。
結果の要約は以下の通りです。
- 調べたサンプルのうち38%のサンプルで、30°Cで培養したプレートカウントよりもよりも22℃で培養したプレートカウントの方がの方が有意に高い値(0.5~3 log cfu/g)を示しました。
- 30℃では増殖できない乳酸菌が合計154株分離されました。
博士の研究によって,チルド食品の保存期間パラメータとしてISO方式の30 °C、 72時間の測定では,保存期間終了時の汚染レベルを過小評価する可能性があることを明らになりました。
なお日本においては、食品衛生検査指針において記載されている一般生菌数は、35°C、48時間(=米国、AOAC方式 )です。EU よりもさらに温度が5℃高いので、チルド食品での低温腐敗細菌の検出を見落としている可能性はさらに高くなります。実際、日本で流通している鮮魚などでの計測では、二桁以上の差が出ます。このことについて述べた記事は下記の通りですのでご確認ください。
読者の皆様も自分の会社で扱っているチルド食品での賞味期限などの実験で、日本での一般生菌数の公定法35°C、48時間と22°C(20℃、あるいは25℃ でも構わない)5日間の比較を行ってみると実態が把握できると思います。
Total mesophilic counts underestimate in many cases the contamination levels of psychrotrophic lactic acid bacteria (LAB) in chilled-stored food products at the end of their shelf-life
Food Microbiol., 32(2):437-43 (2012)
※ 世界の一般生菌数の測定 の基礎事項を確認されたい方は下記記事をご覧ください。
食品の一般生菌数の検査方法の国際的な違い