食品殺菌の理論について混乱する入門者の皆様、その心配はもう不要である。D値、Z値、そしてF値という専門用語がややこしく感じるかもしれないが、今回の記事ではF0値を超簡単に理解できるように説明する。殺菌理論が苦手という人ほど、この記事は役に立つだろう。さらに、具体的な応用例として、日本のレトルト殺菌法(120°Cで4分間)が国際基準のF0値にどのように換算され、ボツリヌス菌に対する安全性(F0=3)が保証されているかも一緒に探求する。この記事を通じて、殺菌理論の基本が理解でき、実践的な知識が得られるだろう。 

高度な殺菌理論に困惑する受講生。

まずは肩慣らしに、115°CでF=4を確保するために必要な殺菌時間を計算してみよう

 この記事はD値やZ値が理解できていることが前提で、F値を説明する記事である。D値やZ値ってどういうことだったっけ?と思う初心者は、まず下記の記事で理解していただきたい。

食品加熱殺菌:パスツール殺菌とD値、Z値の実践的活用法

120度以外のレトルト殺菌をした場合に何分かければ良いのか迷う品質管理担当者。

 上記の記事の【Z値を使って、63℃30分と75°C1分の関係を、計算で確認する】の節では、任意の温度で殺菌する場合、63℃30分相当の殺菌時間が何分になるかをZ値という概念を用いて解説している。上記記事ではパスツール殺菌(63℃30分)を基準の殺菌条件として設定しているが、この記事で取り上げるレトルト殺菌(120℃4分)は、設定温度(63°Cから120°Cへ)と時間(30分から4分へ)の変更だけであり、基本的な考え方は先述の記事と全く同じである。それゆえ、本記事を読む前に、是非、上記の記事の該当部分を一読いただければと思う。それにより理解がさらに深まるだろう。 

 さて、式は下記のとおりである(なぜこのような式になるのかについては、上記記事上記項目について詳しく説明したので、そちらをご覧いただきたい)

求める殺菌時間(分)=4分×10(120℃ー入力温度)/Z

上記でZは、100°C以上のレトルト殺菌温度領域なので、Z=10で考えればよい。

では実際に115°Cを入力してみよう。下記の式のようになる。

求める殺菌時間(分)=4分×10(120℃ー115℃)/10 =4分×105/10 =4分×100.5

10の0.5乗という数字が出てきた。これはエクセルで行わないと計算ができない。

Z値が理解出来ていれば簡単に計算できると助言する同僚。

エクセル表の作り方については、下記のビデオで説明する。

以上、

求める殺菌時間(分) =4分×100.512.6分

ということになる。

F値ってなんなの?F0値と違いは?

では次に本記事のテーマであるF0値の説明に入ろう。

 食品殺菌における「F値」は熱処理の効果を表す指標で、特定の温度での熱処理時間を基準として他の条件下での熱処理時間を予測することができる。

F値:特定の温度での処理時間

とはいっても、特定温度とはほとんどの場合121.1℃をさす。したがって、つぎのように理解しておけばよい。

F0値=1:「121.1℃で1分殺菌」という意味

つまり、F0値が1ということは、121.1℃で1分間加熱したときの滅菌効果と同等である、ということである。同様に、F0値が4であれば、121.1℃で4分間加熱したときの滅菌効果と同等であるという意味になる。

F0値の定義

 これらはF0値の定義に関する説明であるが、「それでは、具体的にこれが何を意味するのか?」「どのようにこれを利用すればいいのか?」と疑問を持つ方も多いだろう。そのため、以下ではF0値を実際にどのように使用するかについて、わかりやすく説明する。

F値を具体的にどのように使うのかがわからない品質管理担当者。

121°Cより高い殺菌温度(T)でt分殺菌した場合、F0値はいくつになるか計算してみよう

125度4分のF0値はいくつかわからない品質管理担当者。

 F0値を用いる場面はどんなときか?例えば、レトルト殺菌を行う場面を考えてみよう。通常、日本の食品衛生法ではレトルト殺菌は120°Cで4分と定められている。しかし、仮に120°Cではなく125°Cで4分間殺菌を行った場合、そのF0値はいったいどの程度になるか?

 この計算を行うには、まずF値の計算方法を理解する必要がある。F値の計算式は以下の通りである。

F0値を求める式

 この式を初めて見ると何のことかさっぱり分からないかもしれない。まずは、F0値=1が121.1°Cで1分間加熱相当であることを思い出していただきたい。この上記式のT°Cは、任意の希望設定温度なので、今、仮に121.1°Cに設定してしまおう。するとこれは暗算で、答えが1にならなきゃいけない。なぜなら、F0値の定義はあくまでも121.1°Cで 1分間加熱相当なのだから。やってみよう。上記式に121.1を代入してみる。また、上記式のtの部分は 1分としてみよう。したがってtの部分に1を代入する。そうすると下式のようになる。

F0計算式1

 ここで、分母の【Z分の0】は何を意味するか?高校で学んだ数学の知識を呼び起こしてみていただきたい。どんな数でも分子が0であれば答えは0である。2分の0でも、3分の0でも、100分の0でも、答えは0である。これは数学の基本原理である。

F0計算式2

それでは、10の0乗というのは何を意味するか?10の1乗は10、10の2乗は100、10を3回かけると1000、となる。では、10を0回かけるとどうなるのかというと、答えは1となる。すなわち、どんな数の0乗でも答えは1となる。これもまた数学の基本原理である。

F0計算式3

 以上の話を踏まえると、F0値の計算式で10の0乗は1となる。つまり、121.1°Cで1分間加熱するとF0値は1となる、これは、すなわち、F0値の定義そのものである。

 したがって、F0値の算出式については、これだけ理解しておけば、後はこの式を覚えるのでも良いし、忘れてしまっても大丈夫だ。大切なことはこの式を使えることである。

 それでは、具体的に125°Cで4分間レトルト殺菌をした場合のF0値はいくつになるのか?このときのTは125°C、tは4分である。また、レトルト殺菌の場合、すなわち100°C以上の場合は、Z値=10で良いとされている。したがって、Zの値としては10を代入する。

 Tに125°Cを代入すると分母は125-121.1=3.9となる。つまり、10の0.39乗を計算する必要がある。

F0計算式4

 理屈を理解してもらうためにステップ・バイ・ステップで計算してきたが、実際には、ExcelにF0値の式を入力し、希望の温度と時間を入力することでF0値を求められる。

F0値の計算方法は簡単だよと助言する。同僚の品質管理担当者。

エクセル表の作り方については、文字で説明していると複雑になりすぎるので、本記事末尾でまとめて、ビデオで説明をする。

日本のレトルト食品(120°C4分)と国際基準のボツリヌス調理のF0値比較

次に日本の食品衛生法におけるレトルト殺菌の120°C4分を、国際的な基準F0値で換算した場合にどのような殺菌力になっているかを検証してみよう。

日本の食品衛生法上のレトルト殺菌レベルが国際的なF0値に換算するとどうなるか?

 国際的には、ボツリヌス調理、つまりボツリヌス菌を12D殺菌は次のように定められている。

  • 121.1°C、3分(F0=3)

そもそも、なぜこのような基準が国際的に設定されているかについては、下記の記事でわかりやすく説明しているので、ご覧いただきたい。

食品の加熱殺菌(レトルト殺菌)

 一方、日本ではつぎのように食品衛生法でさだめられている。

  • 120°C、4分

 つまり、国際的なボツリヌス調理は121.1°C、3分と定められているが日本の法律は120°C、4分となっており、条件に差異がある。日本の方が1.1°Cほど温度が低いけど、4分間と1分間長く殺菌しているので、たぶん12D殺菌は担保されているだろうと、なんとなく考えている人も多いかもしれない。しかし、実際にここで正確に日本の120°C、4分は国際基準のF0=3を担保できているかどうかを計算してみよう。

この計算も、上の 125°Cのところで述べたことと、全く同じことをやればよい。125°Cではなく、ここでは120°Cを代入して計算すれば良いだけの話だ。

F0計算式5

4×10-0.11=3.1となる。つまり日本のレトルト食品の食品衛生法における条件、120°C4分は国際的な基準であるF0に換算すると3.1となり、ボツリヌス調理のF0値=3.0をクリアしていることになる。

上記をエクセル計算をするためにビデオを作ったので、下記のビデオで確認していただけると良いと思う。

まとめ

 まとめると、F0値は、121.1°C以外で殺菌を行った場合に、それが121.1°Cで何分相当の殺菌時間になるのかを求めるための便利な指標ということになる。

 実際の業界では、このような計算を手作業で行う機会はあまり多くないかもしれない。なぜなら、現行のレトルト殺菌装置のゲージは、すでに自動的に積分値としてF0値をリアルタイムで計算し、算出した値をグラフや数値として表示する機能が備わっているからである。そのため、具体的に手計算をする必要がある状況はほとんどないかもしれない。しかしながら、F0値がどのような基準で設定され、どのような計算により算出されているのかを理解しておくと、より深い理解が得られると思う。これが、私が本記事を執筆した理由である。

F0値の実践的な使いかたが理解できて満足する受講者。