米国ではこのたびすべての生鶏肉のサルモネラの規格基準が導入されることになりました。米国農務省は7月29日に鶏肉におけるサルモネラ規格基準に関する新たな取り組みと案を発表しました。すでに2024年4月、農務省は、生のパン粉をまぶした鶏肉のぬいぐるみ製品で初めてサルモネラ菌を規制する規則を最終決定していましたが、今回の発表において、小麦粉製品だけに限らず、すべての鶏肉において特定のサルモネラ血清型について規格基準を設定するという流れになります。

7月29日、米国農務省は今後米国において生の鶏肉(枝肉、もも肉、胸肉、ささみなど全て)に対して特定の血清型サルモネラの検出が認められないという微生物基準を設定することを発表しました。

店頭でびっくりする鶏肉屋の店員

パン粉付き鶏肉に続く新基準の詳細

 2024年4月に提案されたパン粉をまぶした鶏肉製品に限定されたサルモネラの微生物基準が2025年5月から施行されることが決まっていましたが(下記記事をご覧ください)、今回の新基準は生の鶏肉全体に適用されるものです。

新基準!米国でパン粉をまぶした生鶏肉にサルモネラ菌の微生物規格設定

店頭で口論するFDA職員と販売員

具体的な基準は以下の通りです。

  • サルモネラ菌の数が10コロニー形成単位(cfu)/mLまたはグラム(g)以上含まれている
  • 公衆衛生上問題となる特定の血清型サルモネラ菌の型が検出される

この「公衆衛生上問題となるサルモネラ菌の血清型注)とは、次のものを指します

  • 生鶏肉(枝肉、もも肉、胸肉、ささみなどの部位、および、ミンチ):Enteritidis, Typhimurium,  および、 I,4,[5],12:I:- の3血清型
  • 生七面鳥ミンチHadar, Typhimurium, および Muenchen の3血清型

注)これらのサルモネラ菌の型は、FSISのリスク評価によって、特に病原性が高く、公衆衛生上問題となる可能性が高い血清型と判断されています。

 これらの基準に違反する鶏肉や七面鳥は、微生物規格基準違反(「粗悪品(adulterated)」とみなされ、販売が違法)として扱われ、リコールの対象となります。

 なお、今回発行された文書は素案であり、施行日はまだ決まっていません。米国農務省ははパブリックコメントを募集しており、収集された各業界等からの意見を含めて必要に応じて修正し、最終的に発表・施行される流れです。

背景と影響

 この基準が制定される背景には、米国で毎年サルモネラ菌が約130万人の感染、26,500人の入院、420人の死亡を引き起こしており、その23%以上が鶏肉と七面鳥の摂取によるものであることが挙げられます。サルモネラ食中毒の20%が鶏肉由来であり、これまでのサルモネラ食中毒減少の目標が達成されていないことも一因です。

 消費者団体からは生の鶏肉にサルモネラの基準を設ける強い要望が出されており、昨年、パン粉付き鶏肉製品に対する基準が制定された際にも、将来的には生の鶏肉全体に基準を拡大する方針が示されていました。今回の発表はその流れを受けたものです。

鶏肉の前でご不満な老夫婦

欧州連合(EU)の先行事例

 なお、以前の記事でも説明しているように、生の鶏肉の規格基準については、EUが先行しており、2011年に既に生の鶏肉に対する基準が制定されていました。したがって、今回の米国の基準制定の動きは、いよいよ米国においても、EU同様に生の鶏肉にサルモネラの規格基準が設定されるという動きとなります。

 生の鶏肉に関しては、EUは、すでに、厳格な微生物規格基準を設定しています。 EUも2010年までは、鶏肉に微生物規格基準が設定されていませんでしたが、 2011年12月に特定の血清型(Salmonella EnteritidisとSalmonella Typhimurium)については25g当たり検出されてはならない(検査試料数n=5)という基準が食品安全基準に組み込まれました。

EC. No.1086: Amending Annex II to Regulation (EC) No 2160/2003 of the European Parliament and of the Council and Annex I to Commission Regulation (EC) No 2073/2005 as regards salmonella in fresh poultry meat 

EUの鶏肉に関するサルモレラ規格

業界の反応と今後の展開

 消費者団体は今回の米国農務省の方針に基本的に賛同の声をあげています。ただし、サルモネラ菌の血清型であるInfantisが含まれていないことで、対象とする血清型が不十分であるとしています。

 鶏肉業界は、基準制定により生産コストの増加や価格の高騰を懸念しており注)、インフレの影響下でさらに価格が上昇する可能性があると指摘しています。しかし、米国農務省はこれまでの反対意見を却下しており、今回の基準も予定通り施行される見込みです。

注)「The National Chicken Council concerns」などのキーワードで検索すれば関連記事が出てきますので、興味ある方はご覧ください。

抗議活動をする鳥肉団体

まとめ

 今回の米国の動きにより、生鶏肉全体に対するサルモネラの規格基準が制定されることとなりました。日本においては、生の鶏肉を含む生鮮食品に対して微生物の規格基準は一部を除いて存在していませんが、米国やEUの動きを受けて、将来的には日本でも同様の基準を制定する議論が必要になってくるかもしれません。

鶏肉を見ながら悩む日本の役人

 特に日本では焼き鳥の生焼けによる食中毒が多発しているため、消費者の安全性を確保するための対策が求められています。また、インバウンド需要により多くの外国人が日本の食文化を楽しんでいる現状を考えると、日本の鶏肉に関する安全性の確保は重要な課題となるでしょう。

焼き鳥を楽しむインバウンド外国人観光客