本記事では水分活性とは?水分との違いは?について、わかりやすく解説する。結合水や自由水の理解、食品の水分活性の測定方法(求め方)の原理、塩蔵など、水分活性を下げることによって保存性を高めている食品、水分活性と細菌やカビなどの微生物の増殖との関係、水分活性で覚えておくと便利な値も説明する。

水分活性とは?

 では、水分活性とは何か?簡単に説明すれば、微生物が利用できる水の程度を示した数字ということになる。干ししいたけには、そもそも絶対量としての水が不足している。漬物とジャムは、それぞれ、塩と糖が大量に溶け込んでいるため、それらが溶媒である水を奪ってしまい、微生物の利用可能な水(自由水)が不足している。たとえば、塩水では塩は溶けてナトリウムイオンと塩化物イオンになっている。このイオンの周りに水分子は集まってトラップされた状態になっている。つまり、これらイオンが溶けていない水に比べると、自由に動ける水分子(自由水)が減った状態になっている。

塩を加えても水分は同じ

極性の水分子
結合水
自由水

 このように微生物の増殖にとって最も重要な物質である水の利用しやすさを左右する浸透圧は、食品分野では水分活性(water activity、Aw)という概念で表されており、食品の保存法としては塩漬けや砂糖漬けなどとして応用されている。

微生物は結合水を利用できない

水分活性を下げる食品

 水分活性という基準がなぜ食品の微生物制御において便利な単位であるかについては、例えば次のような例を考えてみると良い。今、食パンとイチゴジャムが置いてあるとする。水分量だけで見れば、食パンの方が乾いた状態である。ジャムにはたっぷりの水分が入っている。
 さてここで微生物はどちらの方で増殖しやすいかということである。実際は食パンにはカビが生える。しかしイチゴジャムにはカビはほとんど生えてこない注)。つまり水がたっぷり含まれているイチゴジャムの方が微生物の腐敗が起きにくい。水分活性という概念で両者を比べてみると、 食パンの水分活性は0.96である。一方イチゴジャムの水分活性は0.76である。イチゴジャムの方が水分活性が明らかに低いので、微生物的な腐敗が起きにくいことがわかる。

注)カビを例にここでは説明しているが、厳密には、後述するように水分活性0.75付近で増殖できるカビも一部存在する。しかし、ここでは、水分活性の概念を説明するために、パンとジャムを用いて、あえて視覚的に理解しやすいカビを用いて説明した。下図をカビではなく、細菌に置き換えて理解してもよい。

ジャムは水分たくさん含むが水分活性が低い

水分活性の測定方法

 水分活性は、次のように定義される。

  • 食品を入れた一定温度の密閉容器内の蒸気圧(P)と、その温度における最大蒸気圧(P0)との比 P/P0=AW 

 例えば、水分活性0.9という数字の意味は、次のとおりである。

  • 「塩や砂糖を溶かしたコップの水を箱の中にいれて測定した飽和蒸気圧」÷「純水の入ったコップを箱の中に入れて測定した飽和蒸気圧(湿度100%)」=0.9

一定時間あたりで測定すると、塩や砂糖の溶けた水からの水分の蒸発量は、純水からの蒸発量にくらべると低くなるので、水分活性は1.0(=純水)以下の値になる。

 なお、水分活性の測定は通常 25℃で行う。水分活性測定装置では、測定レンジ15~35℃の範囲のものが多い。

水分活性と蒸発
水分活性測定法

 水分活性に関係する、結合水と自由水についてまとめると次のようになる。

1.化学的な性質: 結合水は化学物質の溶媒として使用されている水のことである。自由水は化学物質の溶媒として使用されない水のことである。

2.物理的な性質:結合水は蒸発しない。自由水は蒸発する。

3.微生物に対しての性質: 結合水を微生物は利用できない。自由水は微生物が利用できる 。

水分活性まとめ

微生物の増殖と水分活性


 一般に、カビ、酵母、細菌の順に水分活性に耐える力がある。乾いた餅を長く放置するとカビが生える。また、塩分が高い漬物や糖分の高いジャムでは、カビや酵母による変敗がおきやすいのはこのためである。微生物の増殖に必要な最低の水分活性は細菌で0.90、酵母で0.88~0.60、カビ0.80~0.60注)の範囲にある。ただし、このように水分活性ということの概念や数字を大学で習って理解はしていても、実践となると役立てることが出来ない場合がある。実例を紹介しよう。

注)教科書的に水分活性で見た場合には、0.80~0.60であるが、後述するように、多くの食品で問題を起こすカビについては水分活性0.75が限界と理解しておけばよい。

 1990年代後半に大規模な大腸菌 O157集団食中毒事件が世間を賑わせていた頃、卒業生から電話がかかってきた。彼の説明によると、彼の会社が販売しているお菓子で大腸菌 O 157の食中毒が起きるか心配だということだった。そこで、私はこの卒業生に聞いた。「君の会社が販売しているお菓子の水分活性はいくつ?」その卒業生は即座に水分活性を回答できなかった。確かに大学で水分活性を習った記憶はあるが、自分の会社の製品の水分活性との関係を即座には理解できていなかったようだ。翌日電話があり、水分活性は0.8であるとのことであった。「それならば大腸菌 O 157の食中毒何か心配いらないよ。君は2日間の貴重な労働時間を無駄にしたね」と私は回答した。

食品で微生物の増殖が心配

 以上の話は、水分活性については、頭で理解するだけでなく、実戦的な数字を身に着けておくことを読者に理解してもらうためだ。実践的に役に立つ2つの数字を理解していただくと良い。一つは0.85、もう一つは0.7である。

水分活性で覚えておくべき数字

水分活性0.85以下では食中毒細菌の心配はいらない

 ではまず0.85から説明しよう。0.85以下であれば、食中毒細菌の増殖は起きない。なぜか?なぜならば食中毒細菌の中で最強に低水分活性に強いと考えられている黄色ブドウ球菌の最低発育の水分活性 が0.86付近であるからである。従って水分活性が0.85の製品であれば、少なくとも細菌性食中毒の心配はしなくてよい。
 付け加えると、黄色ブドウ球菌は細菌の中でも、特に低い水分活性に強い細菌である。感染型食中毒菌のほとんどのグラム陰性菌や、その他の一般的なグラム陽性菌は、水分活性0.9以下ではほとんど増殖できないということも理解しておくとよいだろう。

水分活性0.85以下なら大丈夫
水分活性0・86で細菌は増殖できない
水分活性0.85
代表的細菌のっ最低増殖水分活性値

米国薬局方(USP)資料から抜粋

水分活性0.70以下ではカビも生えない

 次に覚えておくと便利な数字は水分活性0.70である。水分活性0.70以下の製品であればカビの増殖も起きないと考えて良い。 なぜならば食品で問題となる一般的なカビの増殖限界が0.75だからである注)

注)教科書的に水分活性で見た場合には、0.75より低い水分活性、すなわち0.6程度、もしくはそれ以下でも増殖できるカビも存在するが、これらは一般的に多くの食品で問題を起こすカビではない。多くの食品で問題を起こすカビについては水分活性0.75が限界と理解しておいたほうが、実践的である。

このようにに水分活性については、教科書的な数字だけではなく、実戦的な値を頭の中で整理しておくと便利である。

 

食品でカビの増殖が心配

水分活性0.7以下ならカビの心配不要
水分活性0.75

塩蔵も乾燥も冷凍も「微生物の利用できる水を奪う」点で共通

 以上のように水分活性を理解すると、伝統的な食品の保存の原理が共通原理として理解できる。漬物のような塩蔵、ジャムのような糖蔵、及び干物のような乾燥食品は、いずれにしても 食品から自由水を奪うという点で共通である。 すなわち水分活性を低下させるという共通の原理である。

 また、意外に思われるかもしれないが、冷凍保存も「微生物が自由に使える水を奪う」という点では、水分活性による微生物増殖抑制と同じ考え方で整理できるかもしれない注)

 注)ただし、水分活性は、上述したように、食品業界では、非凍結下(一般的には15~35℃)でのみ用いられている概念である。冷凍食品の水分活性を測定できる装置は、そもそも食品業界では必要性もなく、販売もされていない。仮に測定した場合、理論的には、冷凍食品では、水分活性の測定の分母である純水も凍結し、水蒸気圧が下がるので、結果として、冷凍食品の水分活性値は1.0に近づくと想定される。したがって、冷凍食品に水分活性を直接当てはめて考えることはできない。ただし、ここでは、冷凍保存も、凍結の過程で、「微生物が自由に使える水が奪われる」という点の共通性を理解していただく目的で、このように述べた。

※冷凍による微生物の増殖制御や損傷に関しての基礎事項は下記の記事もご覧ください。

冷凍と微生物の死滅

 以上、乾燥した干ししいたけが腐らないのも、塩を加えた漬物が腐らないのも、砂糖を加えたジャムが腐らないのも、あるいは、冷凍した食品が腐らないのも注)、微生物学的には同じ現象であり、微生物から自由水を奪うという原理、水分活性の考え方で理解できる。

注)冷凍の場合は、塩蔵、乾燥、糖蔵と異なり、自由水を奪うだけではなく、「低温」(詳しくは下記記事参照)の要素も付け加わる。

温度管理による微生物増殖制御

水分活性は冷凍、乾燥、塩蔵なども同じ原理

その他、微生物の増殖と温度、 pHなどの環境要因との関係に関する基礎事項については、本ブログの基礎記事の目次からご確認ください。