前記事では、日本で広く用いられている保存料や日持向上剤について記した。本記事では、ソルビン酸やしらこなどのように、日本では保存料表示義務のある食品添加物のナイシンについて解説する。ナイシンは、乳酸菌同士の抗菌作用として用いられる天然抗菌剤のバクテリオシンの一つである。ポリカチオンペプチドの一つであり、体への影響や体に悪いというデータはなく、過去40年間にわたり食品の保存の目的で全世界で広く使用されている。
ナイシンとは
ナイシンが世界で初めて発見されたのは1928年である。 発酵乳から発見された。英国において1953年に抗菌剤として初めての販売が行われた。1969年には、FAO/WHOが安全な食品添加物として承認した。 1988年に 米国ではFDA がナイシンを認可し、プロセスチーズでの使用が認められた。また、EU においては、ナイシンの安全性は、食品添加物、香料、加工助剤、および食品と接触する材料に関するEFSAパネルによって2006年に評価され、あらためてその安全性が確認されている。
現在、ナイシンは現在50カ国以上で、様々な食品に用いることができる天然の抗菌剤として幅広く使用されている。米国の食品医薬品局(FDA)はナイシンをGRAS(Generally Recognised as Safe)と分類している。
また、前記事で説明した、しらこやポリリジン同様に、アミノ酸が30個程度結合した低分子のポリペプチドなので熱に安定性であり、この点でも、食品の添加物としては優れている。
また、前記事でも述べたように、ナイシンやポリリジンなどのポリカチオンの抗菌ペプチドは、細菌から植物無脊椎動物哺乳類を含む全ての生物での生体防御システムとして重要な役割を果たしている。動物などでは泌尿器系や消化器系の上皮細胞やリンパ細胞などで細菌のポリサッカライドに反応してポリペプチドが抗菌物質として産生されることが知られている。例えばヒトの体内では病原微生物が炎症を引き起こす前に人の腸内にあるパネス細胞が抗菌ペプチドを分泌して侵入者の侵入を防ぐ役割を担っている。
また植物においても葉、根、花、種子、 茎など複数の期間で抗菌ペプチドの産生が知られている。両生類でも抗菌ペプチドが免疫に機能していることが分かっている。また、無脊椎動物の蜘蛛とかあさりやエビなどでも抗菌ペプチドが細菌からの感染を防ぐ役割として機能していることが分かっている。
このように抗菌ペプチドは生物が傷ついたり感染したりする際に産生される天然の抗菌システムと言える。ナイシンもそのような抗菌ペプチドの一つと整理できる。
参考)
ナイシンを含む抗菌ペプチドに関しては、1990年代にその抗菌性に注目が集まり、基本的な情報をデータベースに集約する重要性が世界的に高まった。 その結果2003年にオンラインでの抗菌ペプチドのデータベース(antimicrobial data base, APD)が ネブラスカ大学によって設立された。 このサイトでは、動物、植物、細菌、原生生物、古細菌となどほぼすべての生物源から2600種類以上の抗菌ペプチドが取り上げられている。生理活性ペプチドのあらゆる機能についてのデータベースが一覧表として収載されている興味のある方は是非覗いていただくとよい。
ナイシンの構造
ナイシンは、前記事で紹介した、 しらこやポリリジンと同様カチオン性の抗菌ペプチドである。34個のアミノ酸から構成されるカチオン性ペプチドである。
ナイシンには様々なバリエーションが存在するが、その中でもナイシンAは最も広く研究されている。ナイシンAは乳製品でよく分離されるラクトコッカス・ラクティスで最初に発見された。またナイシンAに最も近いバリエーションであるバクテリアシンのナイシンZもラクトバチルス・ラクティスから同様に分離されている。 ナイシンZは 27位のアミノ酸残基が一つヒスチジンの代わりにアスパラギンである点でナイシンAと異なる。 どちらも抗菌剤として優れているが、ナイシンZのほうが拡散速度と中性 pH 条件下での溶解性に優れていると言われている。
ナイシンも含めて一般に、抗菌性ペプチドは、前記事で説明したポリリジンなども含めて、通常10から50のアミノ酸で構成されており、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどのカチオン性のアミノ酸を若干多く含むために、ペプチド全体が陽イオンに架電、すなわちカチオン性を有しているのが特徴である。
特にナイシンが 属する抗菌ペプチドはランチ ビオティックと呼ばれる。このグループの抗菌ペプチドの特徴は、ペプチドに特有のアミノ酸を含んでいる点である。具体的には、疎水性のアミノ酸のセリンやスレオニンを含んでおり、また、5つのランチオン環状を形作るチオエーテル受け結合をしたアミノ酸が含まれている。
このように電荷を帯びたカチオン性の性質と疎水性アミノ酸を含む性質が、両親媒性の性質をあたえている。この性質が後述するナイシンの抗菌性メカニズムに大きく寄与する。
ナイシンの抗菌メカニズム
ナイシンを含めて抗菌ペプチドが微生物の増殖をどのようなメカニズムで抑制するのかということに関してはまだ十分に解明されているわけではない。ナイシンに関して、これまで最も広く受け入れられてきた作用メカニズムとしては、ナイシンが微生物の細胞膜に作用して、細胞膜に穴を開けるというメカニズムである。 また最近数多く出版されている論文の中には核酸やタンパク質の合成阻害などのメカニズムも提唱されている。
しかし、別記事で記載したように、薬剤が微生物の増殖を阻害する場合の最初の攻撃箇所は細胞膜になる。
※殺菌メカニズムについての基本的な事項については下記の記事をご覧ください。
食品工場-殺菌剤メカニズムで重要な共通理解
- 第一段階
どのような作用メカニズムであれ、まず第一段階としては、ペプチドと標的細胞との間の引力が重要な要素となる。すなわち、これらのペプチドの持っている塩基性アミノ酸残基の陽性に荷電した部分と、微生物細胞表層の陰性に荷電した部分との引力がポイントとなる。
※微生物の細胞表層の荷電についての基礎事項を確認したい人は下記の記事をご覧ください。
食品工場-第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム)
一方このようなプラスに架電したカチオン系のペプタイドは宿主である真核生物の細胞膜へは静電的な吸引が行われない。その理由としては真核細胞の細胞膜をの荷電が細菌と異なり、マイナス荷電をしていない点が挙げられる。この点についても別記事で説明した。
※細菌細胞と真核細胞膜の荷電の違いの基礎事項を確認したい方は下記記事の該当箇所をご覧ください。
有機酸以外の保存料、日持ち向上剤について
→目次:生物の防御作用として広く用いられている抗菌ペプチド
- 第2段階
第2のステップは、ペプチドのもつ疎水性アミノ残基が微生物の細胞膜の疎水性部分との相互作用を持ち、細胞膜をを攪乱するメカニズムである。
ナイシンによる細胞膜の撹乱のメカニズムに関しては完全なコンセンサスが得られていない。共通の考え方としてはペプチドが低濃度の場合は、ペプチドはリン脂質二重膜に横たわる形で接着する。しかしペプチドの濃度が上がってきた場合、次の二つの考え方がモデルとして提案されている。
- ペプチドの立体 配向によるリン脂質二重膜への貫通モデル
ペプチドの濃度が高くなるとペプチドは脂質二重膜と平面的に横たわるような形で接するのではなく、縦向きに配向し、結果としてリン脂質二重膜に穴を開けるような形で貫通する。
- カーペットモデル
ペプチド濃度が高くなるとペプチドはリン脂質二重膜の上にカーペットのように大量に横たわる。その結果細胞膜のリン脂質二重膜はミセルを形成し結果として細胞膜に穴が空く。
いずれにせよ、これらのモデルに関しては、実際の細胞を使った実験ではなく、in vitro、すなわち人工的な細胞膜を使った実験系での実験に よって示されている。したがって、現時点では、実際の微生物細胞でも提唱しているメカニズムが起きているかに関しては結論が得られていない。
いずれにしても、ナイシンの抗菌メカニズムとしては上に述べたように細胞への吸着吸引及び細胞膜の攪乱と言った大まかな理解をしておくだけで良いだろう。
ナイシンの抗菌効果に及ぼすpHの影響
これまでの研究によると、pHが低下すると、ナイシンの抗菌効果は増加することが示されている。これは他の食中毒菌でも観察されている。たとえば、セレウス菌に対する抗菌効果を調べた研究では、ナイシンは30℃においてpH値6.30および5.75では、H7.0の場合より強い抗菌効果を示すことが報告されている。また、リステリア菌と黄色ブドウ球菌に対しての研究でも、pHの低下(pH7.92と5の間)はナイシンの抗菌効果を高めることが報告されている。
このように、ナイシンの抗菌効果は、一般に中性域より弱酸性域で高まる理由については、明確な推論をしている論文はブログ著者の知る限り見当たらないが、ナイシンが低いpH値で、より高い溶解度と安定性を持つことが原因ではないかと推察している場合が多い。
そこで、以下は、このメカニズムに関するブログ著者の推論である。
弱酸性で高い抗菌効果を示す理由は、ナイシンが弱酸性環境下では、プラス荷電に傾くから考える。ナイシンのペプチド鎖はアミノ酸から構成されており、各アミノ酸はアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)を持っている。ここからは、アミノ酸の等電点と同じ原理で、弱酸性条件下では環境にH+イオンが過剰なために、それを解消するために、アミノ基はNH2+H+→NH3+の反応によりプラス荷電へと傾くが、カルボキシル基は-COOHの状態にとどまる(COO+ + H+ の状態へは解離しない)。すなわち、ナイシンは弱酸性下では、全体としてプラス荷電になりやすい。
プラス荷電物質は、細菌に対して強い抗菌性を持つ。なぜなら、上に述べたように、細菌表層はマイナス荷電であり、プラスとマイナスの引き合いにより、ナイシンが細菌細胞に突き刺さりやすくなるからと推察できる。
世界の食品業界でのナイシンでの扱われ方
上述したように、現在、ナイシンは現在50カ国以上で、様々な食品に用いることができる天然の抗菌剤として幅広く使用されている。米国の食品医薬品局(FDA)はナイシンをGRAS(Generally Recognised as Safe)と分類している。 特に、乳製品、ジュース肉野菜製品などにおいて幅広く天然の抗菌剤としてその用途が拡大している。
最近では、ナノテクノロジーを用いて、抗菌物質をナノ粒子にカプセル化封入することによって抗菌性の機能向上を目指す研究が盛んである。ナイシンを高い面積を持つナノ粒子にカプセル化することによって徐放性を改善する。
また、最近食品包装の世界では、抗菌物質を包装材に組み込んだアクティブパッケージング(抗菌包装)の研究開発も盛んである。包材の中に抗菌物質を組み込む際に、熱加工が加わるために組み込む抗菌材の耐熱性が重要となる。上述したように、ナイシンや前記事で紹介したポリリジンなどのなどの抗菌性のペプチドは、タンパク質と異なり熱変成を受けにくい。このことからも抗菌性ポリペプチドはポリマー樹脂への組み込みが可能なため、抗菌フィルムへの応用面で有望視されている。
薬剤耐性菌問題の対策用の抗菌薬として医療分野で注目を集めるナイシン
上記のようにナイシンは過去数十年にわたり食品の保存の目的で広く使用されてきたが、2000年代に入り医療分野でもナイシンは注目されている。その背景にあるのは、急速に出現してきた薬剤耐性菌問題である。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は世界中の病院で深刻な医療問題を引き起こしている。この二つの薬剤耐性菌は最近院内感染症や尿路感染症の主要な原因である。例えば MRSA 感染症は、集中治療室における黄色ブドウ球菌の感染症の全体の70%も占めている。これらの薬剤耐性菌は医療現場においての敗血症や肺炎術後感染症として大きな問題を引き起こしている。
そこで MRSA に対して抗菌活性をもつナイシンについて研究が進められている。 MRSA に対してもナイシンが抗菌作用があり 、 抗生物質の代替として使えるのではないかという研究報告もされている。 同様にグラム陽性菌である VRE に対してもナイシンの効果が認められている。
具体的な効能事例として、ナイシンは、 現在、病院で用いられる 医療器具で形成されるバイオフィルムの除去に他の薬剤と併用することによって相乗的な効果があると考えられている。食品業界でバイオフィルムといえば工場の製造ラインの洗浄しにくいところなどにすみついて食品に二次汚染をする元凶と考えられている。
※食品業界でバイオフィルム の基礎を確認したい方はこちらの記事をご覧ください。
食品工場-バイオフイルムについて
一方、医療現場におけるバイオフィルムとは、移植された医療機器や損傷した組織に付着した細菌がバイオフィルムを形成し慢性的な感染症の原因となることで知られている。 このように医療現場で付着したバイオフィルムは食品業界以上に深刻な問題である。 なぜならばこのようにして形成してバイオフィルムの細菌は通常の抗菌剤の100倍以上の濃度でも殺菌できない場合が多いからである。このようなバイオフィルムへの殺菌効果に対してもナイシンの利用が検討されて効果が認められる報告がされている。
またナイシンは局所的な感染症の治療に対しての検討もされている。 例えば乳房炎、、消化器感染症、皮膚感染症に対するナイシンの抗菌効果が報告されている。 またウィルス性の呼吸器系感染症においても細菌による二次感染症を防ぐ効果としてナイシンの活用も期待されている。さらにナイシンは歯科分野でも注目されており、歯周病などの予防にも効果があるという報告が最近増えている。ナイシンを含んだ口をゆすぐリンス液などの開発が期待されている。その他、人体の免疫作用にも有効に働くことも報告されている。 あるいは、ナイシンが癌細胞の増殖を特異的に抑制するなどという報告も増えている。
このようにナイシンは現在食品の保存料としての役割をはるかに超えて、広範な医療領域での応用が期待されている。ナイシンというキーワードでどれぐらい論文が出ているかを検索してみると、上の図に示すように過去10年間で飛躍的に1年間の論文数が増えていることがわかる
「保存料不使用」の影響を受けている日本でのナイシンの扱われ方
ナイシンは日本では2009年に食品添加物として認可された。ただし「保存料」表示義務のある添加物という整理になっている。前記事で 、「保存料」表示の義務のある食品添加物が消費者に受け入れられにくい日本の現状を解説した。
「保存料」表示の義務のある食品添加物をめぐる日本の現状 を確認したい方は下記記事の該当箇所をご覧ください。
有機酸以外の保存料、日持ち向上剤について
→目次:保存料は体に悪いのか?「保存料不使用」のイメージについて
ナイシンもその例外ではない。認可されて10年以上たった現在でも、欧米諸国に比べると日本でのナイシンの使用の広がりはかなり限定されている。
民間企業の食品の開発者と日持ち向上をさせるためのご相談を受けている際に、そのほとんどの場合で、保存料の選択肢はないという前提の相談となる。例えば今年もある民間企業の食品開発者から、チルド食品での変敗乳酸菌の制御方法に関する相談を受けた。乳酸菌を制御することは極めて難しく、現状では、国際的に見ても、やなりナイシンを使用するのがベストであるとの回答をした。しかし、相談者は、やはり、国内では、「保存料」表示義務のある食品添加物は使用を控えたいとのことだった。
※乳酸菌の腐敗の問題についての基礎事項についてはこちらの記事をご覧ください。
食品関連代表的グラム陽性菌 乳酸菌
このように、微生物増殖制御のことに関して民間企業とお話をしている場合、このようにケースは枚挙にいとまがない。
つまり、国内では、ナイシンは「保存料」表示義務が入るので、食品製造者側でも使いたくないとの心理が強い。日本全体を覆う「保存料=消費者に嫌われる=使うのは控えておいた方が賢明」と言う考えに支配されているように思える。
この記事を執筆中に、Netflix で「フランスでは有名」という作品を見た。フランスでは国民的スターのコメディアンが、既に離婚したアメリカ人女性との間に生まれた10代の息子に会いに米国西海岸にやってくるというストーリーである。フランスでは人気のコメディアンもアメリカのロスの空港に降り立ったとたん、ぞんざいに扱われる。アメリカでは自分が無名であることに気づかされる。
この作品を観て、執筆中のナイシンを思い出した。しらこやポリリジンなど、主に日本やアジアで使われている製品はともかくも、ナイシンのように世界的に幅広く使われているものも、「保存料」という枠組みの中で、日本では敬遠されている。
この記事と前期時で述べてきたようにナイシンは効果的な抗菌作用を持っており、なおかつ、世界的に認知されてる天然の抗菌剤である。ナイシンは、日本国内で、もう少し市民権を持っても良いだろう。
なぜ、変敗乳酸菌の増殖制御にはナイシンがベスト候補なのか?
上述したように最近、変敗乳酸菌の増殖制御に関する相談が多い。そもそも乳酸菌に対して抗菌作用を持つ抗菌物質としては、近縁の乳酸菌が産生する細菌のナイシンが最も可能性が高い。逆に言えば他の可能性を探しても遠回りになる可能性が高く、ナイシンを検討するのが最も近道だということだ。この理由について、少し生物学的に説明を補足しておきたい。
以下はよく私が学生に投げかける質問である。
- 質問:もし私が君が研究室に入ってきた時に、研究テーマとして、黄色ブドウ球菌をやっつけるシュードモナスの研究をしてみないかと言ったらどうするか?
ほとんどの場合学生はこの質問に対して、 Yes とも No とも答えられずなんとも怪訝な顔をする。なぜ私がこの質問をするかと言うと、バクテリオシンという抗菌作用の自然界での役割をしっかりとまず理解してほしいからだ。
上のの質問に対する答えは、このようなテーマはナンセンスなのでやらない方が良い、ということになる。なぜナンセンスなのか?その答えは、 シュードモナスは黄色ブドウ球菌に抗菌作用を示す抗菌物質を出す必要性がないからである。具体的には、例えば人間の世界で100 M 走をしていると考えよう。1位になれば1億円貰えるが、2位以下は賞金がゼロだとしよう。下の図では、ダントツに速い選手がいる。この選手は1位になることを確信しているので、他の選手など気にせずに、眼中になく走り抜けるだけで良い。
一方、下記の図は、1位の選手に拮抗し、場合によっては1位の選手よりも速くなる可能性のある選手が存在する場合だ。この場合は、 やや物騒な話であるが一位の選手の心は穏やかではない。場合によってはピストルを持ち出して 2位の選手を殺してしまう可能性も出てくる。
以上の説明を見生物の世界で例えると、ある環境において簡単に微生物が他の生物に勝ち抜ける場合には、その微生物はその他の微生物に抗菌作用を示す抗菌物質を出す意味がない。上の質問ではシュードモナスは、 酸素が豊富な水っぽい環境で圧倒的な力を発揮する腐敗細菌である。一方黄色ブドウ球菌は塩分がたくさんあり乾燥しているところでじっくりとゆっくりと増殖する微生物である。シュードモナスが増殖している際に黄色ブドウ球菌ぐやつける必要などまるでない。 仮にシュードモナスが抗菌物質を作るとした場合にはシュードモナス同士のきわめて類似の主に対して効く抗菌物質を出す可能性はある。
以上の理由から、 一般的に生物が抗菌物質を出す場合には近縁の微生物同士が殺し合う抗菌物質を出すのが一般的である。この記事で説明しているナイシンも、本来は、同じ環境で同じように生き抜く乳酸菌同士の殺し合いのために使われる抗菌物質である。まずはこのような抗菌物質の生態学的な理解をしっかりと押さえておくと良い。
ナイシン以外で、現在日本で使用されている主な保存料や日持ち向上剤については、下記の記事もご覧ください。
有機酸以外の保存料、日持ち向上剤について