オキシダーゼ試験-グラム陰性菌の整理、特に腸内細菌科菌群の検査法として重要

 本記事では、 オキシダーゼ試験(オキシダーゼテスト、シトクロームCオキシダーゼ試験、もしくは、チトクロームCオキシダーゼ試験などの別称あり) とは何か、この試験でわかること、その原理や試験方法(擬陽性などの注意事項含む)、グラム陰性菌で本試験結果が陽性や陰性だった場合の食品衛生学的意義、特に生食用食肉 規格基準に採用されている腸内細菌科菌群の検査法としての重要性、などについて解説する。

オキシダーゼ試験とは

オキシダーゼ試験は、もともと医学の臨床分野において、 患者から分離された細菌がグラム陰性菌の場合、緑膿菌のようなシュードモナス、あるいは淋菌などの可能性があるのか(いずれもオキシダーゼ陽性)、あるいはその他の腸内細菌科の細菌(オキシダーゼ陰性)なのかを区別する簡便法として開発されたものである。

オキシダーゼ試験を開発したコバック博士

 オキシダーゼ試験は、元々は1928年に、淋菌の同定のためにGordon and MLendによって開発されたものであるが、現在行われているTMPD試薬を用いたろ紙上のオキシダーゼ試験は、Kovacs(1956)による。 この試験によって、Kovacs博士は、臨床検査において重要となる緑膿菌(シュードモナス)が紫に変色するのに対して、大腸菌など、その他のグラム陰性菌が変色しないことにより、緑膿菌の迅速判別に用いることができることを見出した。

 実際のところオキシダーゼ試験が開発された医学領域の臨床分野では、OF試験など、培養に1日以上の時間のかかる試験を待っていられない場合が多い。そこで、 患者の血液などから分離した細菌をその場でグラム染色し、 グラム陰性だった場合、ただちにオキシダーゼ試験行う。そして、検出菌が緑膿菌(シュードモナス)なのか、その他のグラム陰性菌(臨床サンプルの場合は多くの場合は腸内細菌科群)であるのかの迅速判定が可能となる。

グラム陰性菌の整理に必要な オキシダーゼ試験

  オキシダーゼ試験の対象となるチトクロームcオキシダーゼ は、好気呼吸における酸素を最終水素受容体とする電子伝達体のユニットである。次のような微生物はこの酵素を持たない。

1)そもそも、クエン酸回路系を持たない乳酸菌

2)クエン酸回路からの電子伝達系を持つが、酸素を受容体としない呼吸鎖を持つ偏性嫌気菌

これらに加えて、酸素を受容体とする電子伝達系を持っているにも関わらず、シトクローム C を持たない細菌群がいる。

1)ほとんど全てのグラム陽性菌

2)グラム陰性菌の中の腸内細菌科菌群

 ただし、これらの細菌は、 シトクローム C は持たないだけであって、 シトクローム C に代わって、電子伝達系で電子を酸素に運搬する別の酵素ユニット持っている。

グラム陰性菌の分類チャート

 以上のことを、食品微生物学の実用的観点で、わかりやすく整理すると次のようになる。

1)オキシダーゼ試験は、グラム陽性菌の試験には使わない(ほとんどすべてが陰性なので、使っても意味がない)

2)グラム陰性菌の中で、特に、腸内細菌科菌群(オキシダーゼ陰性)を他のグラム陰性菌と区別するのに使う。

大まかにはこのように理解しておけば良いだろう。

 上記チャートに示すように、オキシダーゼ試験の目的はすでに OF試験で発酵型(F)とわかっているものに対して行う場合は、ビブリオやアエロモナスのような海水や淡水生物の腸内を主要生息地とする微生物(オキシダーゼ陽性)と大腸菌やサルモネラなどのような陸上動物の腸内を生息地とする微生物の区別判定につかう。

 また後で述べるようにオキシダーゼテストは腸内細菌科菌群の 試験法にも重要な役割を果たす。この件については後で述べる。

オキシダーゼ試験の原理と試験法

 シトクロム C オキシダーゼとは、細菌の好気的呼吸代謝のに必須な酵素である。なぜならば、チトクローム C は、クエン酸回路から生じてくる水素エネルギーを伝達する電子伝達系の構成要素であるからである。チトクローム C のチトクローム C オキシダーゼによる酸化によって、 この電子伝達系における水素の運搬が行われる。そして最終的にこの作用によってクエン酸回路から生じてきた水素エネルギーを最終水素受容体である酸素に引き渡す役目を持っている。

クエン酸回路と電子伝達系

従って微生物分野においてのオキシダーゼテストは、電子伝達体におけるシトクロム C オキシダーゼの存在の有無を確認する試験と言える。

電子伝達系とシトクロームcオキシダーゼ
シトクロームCオキシダーゼ反応

 オキシダーゼ試験においては、発色試薬によって判定をするために、シトクロームの代わりに TMPD (Tetra-methyl-p-phenylenediamine dihydrochloride)を用いる。 TMTPDがシトクロム C オキシダーゼによって酸化されることによって紫色に変色する。この紫色の変化を判定することによって調べた細菌がシトクロム C オキシダーゼ陽性かどうかが判定できる。

オキシダーゼ試験法

つまり TMP D が人工的な電子供与体とな る。TMPD から電子が引き抜かれる、すなわち、酸化されると粉の試薬の色が紫に変化する。

オキシダーゼ試験の実施法と注意点

 実際にオキシダーゼ試験を行う場合は実験マニュアルなどを見て実施して頂きたい。ここでは、実験方法の概要だけを以下に述べる。

1)ろ紙もしくはスライドグラスにTMPD液を垂らす

2)白金耳で調べたい菌をその試薬の上に塗りつける

3)10秒後に塗り付けた菌の色が紫色に変われば陽性、変わらなければ陰性

オキシダーゼ試験への菌のろ紙への接種

留意事項

  • この反応は TMPDの酸化反応であるので、そのまま長期間放置していても自然に空気中の空気により酸化反応がすすむ。したがって実験の判定時間は10秒できっちり観察する。それ以上ダラダラと実験を行っていれば陰性の菌もうっすらと紫に変化し、判定を陽性と誤る。
  • ニクロム線を用いた白金耳を用いない。ニクロム線自身の酸化力で擬陽性になる可能性が高い(白金を用いた白金は大丈夫)。
  • 不慣れな初心者は、オキシダーゼ陽性のシュードモナスやビブリオなどの陽性コントロールと、オキシダーゼ陰性の大腸菌を陰性コントロールとして、判定をおこなうと間違いにくい。

オキシダーゼ試験判定

生食用肉の基準の腸内細菌科群の試験法にも使われるオキシダーゼ試験

 2011年に生食用食肉の規格基準が新たに施行され、成分規格として「腸内細菌科菌群陰性」が設定された。腸内細菌科菌が食品の成分規格に組み込まれたのはこれが初めてであり、2021年現在でもこれが唯一である。

注)腸内細菌科菌群の食品衛生指標菌としての意義は、別記事で紹介予定

 腸内細菌科菌群の詳細な試験法は厚生労働省の通知を見て頂きたい。要点だけの述べると、要するに下記の手順である。

1)ペプトン水などで増菌する

2)VRBG寒天で培養し、典型的なコロニーをピックアップ

3)オキシダーゼ試験とブドウ糖を発酵試験を行う。

 さて、ここで、別記事でその必要性を強調した培地の読解力を応用してみよう。

1)のペプトン水の増菌は、単に損傷菌を回復させるだけのステップなのでここでは説明省。

2)のVRBG寒天平板の培地組成を読解してみよう。

下の図からわかるように、選択剤としてブリリアントグリーンとクリスタルバイオレットを使っている。これらの選択剤の原理やその意味については、下記の別記事で確認してください。

培地成分の読解力の必要性

 さて別記事で確認した後であれば、つまり VRRBG寒天 は、グラム陰性菌だけが増殖できるようにしている 仕組みであるということが分かるだろう。

腸内細菌科菌群

 次に識別の工夫である。ブドウ糖を入れている。つまりこの培地では、ブドウ糖を利用して酸を産生する菌であれば色が、pH指示薬(ニュートラルレッド)によりピンクから紫色になる。この識別は、ある意味 OF試験を平板培地上でやってるようなものだ。ただし、OF試験では嫌気条件での増殖も判定できるので、好気性菌と通性嫌気菌の区別が容易だ。しかし、 VRRBG寒天 でのグルコース発酵性による色変でのだけでは、好気性菌と通性嫌気菌の識別はOF試験ほど明確にはできない。

 ※OF試験の意味については別記事で確認してください
グラム陰性菌の整理に必要なOF試験判定

 要するに、VRBG寒天培地一つで、グラム染色とOF試験の両試験を、簡便法として行っていると理解すればよい。

ここまで理解できれば、この記事の上の説明のチャートと見比べれば、次のステップは自ずと見えてくる。

 すなわちオキシダーゼ試験をすることである。

オキシダーゼマイナスであれば腸内細菌科菌群ということになる。

注) 厚生労働省の示してる公定法ではもちろん、オキシダーゼ試験とともにOF試験での確認を必要としている。 ここではわかりやすく培地の読解力の重要性を強調する意味で、あえて、上記のような説明を試みた。 VRBG寒天培地 上のコロニーの色変のみでは、グルコースを好気的に利用する好気性細菌(シュードモナスやアシネトバクター等)も典型コロニー色として検出されるとの報告も多いので、実際の試験では、もちろん、OF試験は不可欠である。