先週立て続けに、米国FDAとドイツ連邦リスク評価研究所から、食品安全に対する消費者意識基本調査の結果が公表されました。以下に、特に食品微生物学の観点から、サルモネラ、大腸菌、カンピロバクター、リステリアなどの食中毒菌に対する消費者の認知度などを中心に、要点をピックアップします。

 なお、下記記載で、→部分は、私のコメント(感想)部分です。

米国(FDAの食品安全・栄養調査:2021年3月版、11月8日公表)

 調査対象者は、米国50州およびコロンビア特別区に住む、英語またはスペイン語を話す非施設型の成人(18歳以上)。全国的に代表的な世帯を抽出するために、住所ベースのサンプリング。世帯内の回答者は、Hagen-Collierの世帯内サンプリング方式を用いて、成人1名を無作為に抽出。2019年の10月から11月にかけて、合計4,398件の回答を集計。

米国国旗

主な結果

•             消費者は、生の野菜や果物よりも、生の鶏肉や生の牛肉が汚染されていることを気にしている - 生の野菜(9%)や果物(6%)よりも、生の鶏肉(93%)や生の牛肉(66%)の方が、細菌が付着している「可能性が高い」「非常に高い」と考えている回答者が多い。

  • サルモネラ菌(97%)、大腸菌(88%)は認知度が高い。しかし、カンピロバクター(7%)、ビブリオ(4%)は低い。その他は、リステリア(44%)、ノロウィルス(21%)

 →ビブリオの認知が低いのは予想の範囲ですが、カンピロバクターの認知度が低いのは予想外です。後で紹介するドイツでもカンピロバクターの認知度は低いようですが、米国ではビブリオ並みの低さです。

カンピロバクター

食品微生物学関連の視点でピックアップ

その他、米国の消費者の意識を示すものとして、私が注目したものとして、次のようなものがあります。

  • カットメロンで微生物による食中毒になる可能性があるか?

   72%があると考えている

→日本人消費者にはピンとこないかもしれませんが、カットメロンでの米国でのリステリアによる食中毒事件が影響していると考えられます。

  • 袋詰めされたカット済みレタスやサラダで微生物による食中毒になる可能性がある?

   74%があると考えている。

→最近でも、これらの製品ではリステリア菌やサルモネラなどの食中毒やリコールが相次いでいるので比較的意識が高いものと考えられます。

※最近のリコール事件については、先週の本ブログの下記の記事をご覧ください
米国野菜サラダでのリステリア菌の混入によるリコール (ニュース)

  • 過去12か月間に生のクッキー生地など、調理されていない小麦粉が入ったものを食べたことがあるか?

   34%が食べたことがあると回答

→この質問は日本人からすると奇異な感じがするかもしれませんが、これは米国で発生した生のクッキー生地での腸管出血性大腸菌事件の記憶が消費者の中に残っているものと考えられます。

※この食中毒事件の詳細については下記記事をご覧ください
腸管出血性大腸菌O157感染症の感染経路として、牛肉とは無関係な事例(クッキーの生地)

  • 過去12か月間に生の鶏肉を食べたことがあるか?

   食べたことがあると回答したのは1%のみ

→日本人は鳥の生刺を食べるが、米国人にはこの習慣がない。

鶏肉の生食は日本だけ

  • 過去12ヶ月間に生卵を含む食品を食べたか?(生の自家製クッキー生地も含む)

   33%が食べたと回答

→日本人は生卵を食べるのが好きだが、米国人も、上述したように、クッキー生地食べるのが好きなので、生卵を食べている機会があると考えられる。

生卵割卵
  • 過去12か月間に、生乳や低温殺菌されていない牛乳を飲んだことがあるか?

   飲んだことがあると回答は4%に過ぎない。

→米国人はイタリアやスペインなどのヨーロッパ人よりも低温殺菌乳に関しては警戒心をもっていると考えられる。

  • 食品の防腐剤に対してあなたはどの程度気にしていますか?

全く関心がない:      11%
やや不安:         18%
どちらかといえば気になる: 30%
非常に心配:        20%
非常に気になる:      17%

→保存料に対しての消費者の意識は米国でも強いと判断できる。

  • 食品中に含まれている抗生物質に対してあなたはどの程度気にしていますか?

   91%が何らかの心配をもっている

→抗生物質耐性菌出現の問題は、次に示すドイツの消費者意識と同様、米国でも消費者の間でかなり強い意識を持っていると判断できる。

※ 以上は私が食品微生物学の観点から興味のあるものをピックアップしただけでです。この報告書全体はこの他にも膨大なアンケート結果が掲載されているので、興味ある方はぜひ下記をご覧ください。

2019 Food Safety and Nutrition Survey Report

ドイツ(連邦リスク評価研究所 消費者調査第13版、10月29日公表)

ドイツ国旗

 ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、10月29日に、健康リスクの認識に関する消費者モニターの第13版を発行しました。

調査期間:2021年8月16日~20日

回答者の数:1,000人

調査対象:ドイツ連邦共和国の民間世帯における16歳以上のドイツ語話者

サンプリング:固定電話と携帯電話の無作為抽出、性別、学歴、年齢、雇用、都市の規模、ドイツ連邦州(「ランド」)の規模、世帯の規模に応じて重み付け。

調査方法: 食品中の抗菌剤耐性、マイクロプラスチック、サルモネラ菌、アルミニウムなど、あらかじめ設定した質問項目に対して、その認知度について、電話インタビュー

主な結果

  • 食品中のマイクロプラスチック問題は現在、ドイツの消費者の最大の関心事です。半数以上(57%)が、懸念している、または非常に懸念していると回答しました
  • 抗生物質耐性菌問題も48%が懸念していおり、2位となりました。

食品微生物学関連の視点でピックアップ

 食品微生物関連では、次のようなアンケート結果が示されています。

  • 食品中のリステリア菌の問題を聞いたことがあるか?その場合心配か?

 聞いたことがある       48%

   大いに心配である       15%
   やや心配である        15%
   全く心配していない      18%

 リステリア菌を知らない    49%

→上に示したように米国の数字は、44%でしたね。従ってリステリア菌に関しては、米国とドイツの国民の意識はほぼ同じで、国民の半分弱が認識していることになります。もう少し高いかなとも思いましたが、全国民を対象にした場合にはこの程度の数字になるのでしょう。日本の場合も全国民を対象にした場合はどの程度の数字になるか、興味があるところです。確実にこの10年間で数字は上がっているとは思いますが、やはり、全国民を対象にした場合は、この数字よりはるかに低い数字になるでしょうね。この記事を読まれている方はそもそも食品微生物に関心のある方々なので、リステリアのことを知らない国民がいるのか?と疑問に思われるかもしれませんね。全く食品と関係のない友人関係などに無作為に聞いてみると日本国民がどのぐらいリステリアについて知ってるか分かると思います。

※リステリアの基本事項を確認したい方は下記の記事をご覧ください
食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

米国とドイツ国民の半分がリステリアを知っている
  • 食品中のカンピロバクターの問題を聞いたことがあるか?その場合心配か?

 聞いたことがある       23%

   大いに心配である       6%
   やや心配である        7%
   全く心配していない      10%

 カンピロバクターを知らない  76%

→米国ではカンピロバクターの認知度が7%でした。これに比べれば、ドイツでのカンピロバクターの認知度は高いです。しかしそれにしても、23%と、リステリアの半分にしかなりません。たぶん鳥の生刺を食べる傾向のある日本人の方がカンピロバクターへの意識が高いのかもしれません。

※なお、ドイツでのアンケート調査は食中毒菌としてはリステリアとカンピロバクターだけについてアンケートをとっています。したがってその他の食中毒細菌についてはアンケートに含まれていないので不明です。

 ※このレポートの詳細は下記をご覧ください。
Consumer perspective: Majority considers food in Germany to be safe