米国で生の小麦粉生地によるサルモネラ食中毒が報告されています。以前、当ブログでは生のクッキー生地による腸管出血性大腸菌食中毒の事例を取り上げましたが、今回はサルモネラが原因となっています。現在のCDCの発表内容をもとに、最新情報をお届けします。

今回のアウトブレークの概要

 2023年3月30日のCDCが発表したところによると、アメリカのカリフォルニア、イリノイ、アイオワ、ミネソタ、ミズーリ、ネブラスカ、ニューヨーク、オハイオ、オレゴン、テネシー、バージニアの各州で、アウトブレイク株のサルモネラ菌に感染した12人が報告されています。最初の報告は2022年12月初頭にさかのぼります。感染者の年齢は12歳から81歳で、中央値は64歳で、92%が女性でした。12人のうち、3人が入院しましたが、現時点で死亡者は報告されていません。

小麦粉の生の記事によるサルモネラ食中毒患者数の米国のマップ(CDCより)

上の図はCDCのホームページからそのまま掲載

 州および地域の公衆衛生担当者は、患者が食中毒になる前の1週間に食べた食品について聞き取り調査を行っています。インタビューを受けた7人のうち、6人(86%)が生の生地や衣を食べたと報告しています。報告された生の生地や衣に含まれる共通の原材料は小麦粉のみでした。 

 えっ、生の生地を食べてしまったの?と疑問に思う日本の読者は多いと思います。実は、小麦粉を用いた生地を生で食べるケースは米国でもこれまでによく起きています(実際の食中毒事例は後述)。

これに関して、2019年に実施された米国(FDAの食品安全・栄養調査:2021年3月版、11月8日公表)によると、次のような興味深い回答結果が得られています。

質問:あなたは、過去12か月間に生のクッキー生地など、調理されていない小麦粉が入ったものを食べたことがありますか?

  • 34%が食べたことがあると回答

 上記米国のアンケートの内容のなかから、特に食品微生物学的にも興味深い点を整理して、本ブログの別記事でまとめていますので、ご覧ください

米国とドイツの食品安全に対する消費者意識基本調査-食品微生物学の視点でピックアップ (ニュース)

今回の食中毒事件も、消費者が、生の小麦粉生地のリスクを十分に認識せずに起こったものと判断できます。

生のクッキーの生地を食べて医者に叱られる米国人女性。

 現在、CDCは、このアウトブレークに関連する特定の小麦粉のブランドを特定するために取り組んでいます。

小麦粉の生の生地では、過去に、腸管出血性大腸菌中毒も起きています

 米国で過去にクッキー生地を生で食べて腸管出血性大腸菌のアウトブレークが発生したことがあります。

 米国で報告された最初のアウトブレークは、2009年3月から9月にかけて、腸管出血性大腸菌O157による食中毒が複数の州で発生し、患者は合計で77人に上りました。 このアウトブレークの詳細については、本ブログの以下の記事でまとめられていますので、ご覧ください。 

腸管出血性大腸菌O157感染症の感染経路として、牛肉とは無関係な事例(クッキーの生地)

  その後も米国では、生の小麦粉による腸管出血性大腸菌やサルモネラの食中毒はたびたび起きています。最近では、2019年に、生の小麦粉に関連する麦大腸菌O26感染症食中毒がおきています。

まとめ

 今回の食中毒事件も含めて、米国では生(生生地もしくは加熱不足の生地)の小麦粉を食べることによる食中毒が後を絶ちません。CDCは小麦粉を用いた生の(焼いていない)生地を食べないように消費者に喚起するページ(Say No to Raw Dough)も設置しています。その要点は次の通りです。

  • 小麦粉は生の食品のようには見えないが、ほとんどの小麦粉は生である。
  • つまり、腸管出血性大腸菌やサルモネラなど、食中毒の原因となる細菌を加熱殺菌処理がされていない。
  • これらの有害な細菌は、畑にある間に穀物を汚染したり、製造中に小麦粉を汚染したりする可能性がる。
  • 穀物をすりつぶしたり、小麦粉を漂白したりしても、これらの微生物は死滅しない。
  • 従って、小麦粉を使った生地やバッターを生のまま食べてはいけない。
小麦粉の製造工程では加熱殺菌工程がないことを示すイラスト。

  

 また、以上のような生の小麦粉によるサルモネラや腸管出血性大腸菌食中毒事件を背景に、米国ではパン工場のHACCPの監査において、これらの微生物を危害微生物に認定するように指導しているようです。詳しくは本ブログの下記の記事をご覧ください。

HACCP管理者が学ぶ米国FDAの警告シリーズ❶:A社(パン製造工場)