HACCPに不慣れな中小食品製造事業社のHACCP管理者がHACCP導入の実戦力を養うには、米国食品医薬品局(FDA)が食品製造会社へ送ったHACCP不備に関する警告書を読んでみることも有効です。本ブログでは、これらの警告書のうち、微生物関連に関する不備事例に焦点を当て、その要点をシリーズ(連続ではなく、随時掲載)で紹介していきます。シリーズ第1回の本記事では、パン製造会社Aの実例を紹介します。
![パン工場の写真イメージ](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/bakery-factori-micribial-hazard-1024x529.jpg)
HACCP衛生管理における微生物関連の指摘事項
FDAは、2022年4月4日から22日にかけて、米国のパン製造会社A(下記FDAのサイトでは会社名を実名で公表しています)を査察しました。検査中、FDA調査官は、重大な違反があることを発見しました。FDAの指摘を受けて、製造会社Aは、2022年5月5日、製造会社が実施した是正措置とその計画についての回答書をFDAへ送りました。
本記事は、これらの是正措置に対するさらなるFDAの懸念事項を通知した内容です。
警告のうち、微生物学的な観点の指摘事項要点は下記のとおりです。
HACCP危害要因特定の不備
あなたの施設は、小麦粉を原料とするread to eat (以下、「RTE」)ベーカリー製品、例えばRTE全粒粉サワードウブレッド、小麦ハンバーガーバンズ、全粒粉ベーグル、小麦入り全粒粉クロワッサン、小麦入りブルーベリーマフィンを製造しています。
小麦は、病原性大腸菌やサルモネラ菌などの病原菌と関連しています。したがって、貴社の製造環境下で食品を製造/加工するためには、これらの細菌性病原微生物を予防的管理が必要なHACCP危害要因として認識しなくてはなりません。しかし、貴社はそれを行っていません。
![食品工場でディスカッションする二人の品質管理担当者](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/baker-factory-worker-discussing-1024x604.jpg)
小麦製品に関連した過去の病原性大腸菌食中毒事例については下記記事を参照ください。
CCPの不備
❶ CCPのバリデーション(妥当性確認:validation)注)が不備です。
工程管理には、加熱処理等の作業中のパラメーターの管理を確実にするための手順、工程が含まれなくてはなりません。そして、これらの手順は、バリデーションされなければならない。しかし、貴社は、検査において、オーブンの焼き時間と温度がハザードである病原微生物を適切に殺菌するのに十分であることを示すバリデーションを実施していません。
注)バリデーション(妥当性確認:validation): CCPパラメータや手順の妥当性を確認すること。すなわち、その手順が、確かに機能しているかの科学的検証を行うこと。この検証には、自分で実際に実験データを示すか、あるいは、科学論文の文献データを示すなどが必要。
![パソコンの前で悩む食品会社の品質管理担当者](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/woman-thinking-in-front-of-computer-1024x524.jpg)
❷ オーブンの校正不備
貴社のオーブンの温度計とタイマーが適切に校正されていることを示す精度チェックを実施していません。
![オーブンの温度チェック](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/accuracy-check-temperature-monitoring-1024x497.jpg)
❸ 2次汚染防止の手順整備不備
貴社の施設はRTEベーカリー製品を製造しており、それらは包装前に冷却されスライスされるなど、オーブンから出た後に環境に曝されます。貴社の包装食品は、工程上、包装後にさらなる殺菌処理や、もしくは、病原微生物を著しく減少させる管理手段(病原微生物に致死的な製剤など)がありません。
したがって、この場合には、衛生管理には、従業員の取り扱いによる環境からの微生物2次汚染を有意に最小化又は防止するのに十分な衛生状態に施設が維持されることを保証する手順が必要です。しかし、貴社の手順にはそれらが含まれていません。
![パン工場のオーブンで焼き上がったパン](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/managiment-to-prevent-secondory-conamination-1024x571.jpg)
❹ 環境モニタリングプログラムが設定されていない
また、工場製造環境における微生物汚染によるRTE食品の汚染が予防管理を必要とするハザードである場合、環境モニタリングが必要です。このことに留意した文書もありません。
環境モニタリングプログラムの基礎事項を確認されたい方は下記記事をご覧ください。
食品工場衛生管理における微生物検査ー環境モニタリングの重要性
![食品製造工場の環境微生物モニタリングプログラムを示すイメージ写真](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/environmental-monitoring-programme-food-factory-1024x510.jpg)
その他、一般衛生管理指摘事項
あなたの工場の衛生環境の不備について、2022年4月6日、当調査員は以下を観察しました。
- 受入口のプラスチック製ストリップカーテンは破れ、ひび割れ、黒く粘着性のあるゴミが蓄積していました。従業員が、加工に使用するローリングラックを、ストリップカーテンに接触させながら、施設の内外に移動させているのが観察されました。
![工場のカーテンを通過するキャリア](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/factory-carrier-go-throgh-dirty-curtain-1024x595.jpg)
- クロワッサンルームの手洗いシンクの床排水口が製造フロアに溢れていました
![工場の排水溝の汚れをチェックする職員](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/43f8f82ad8077db2f30bf5a6df217285-1024x626.jpg)
- 施設内の床は、凹みやひび割れがあり、清掃や除菌が困難な状態でした。
![工場の床傷だらけ](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/factory-floor-many-crack-1024x553.jpg)
これに対して、貴社は、2022年5月4日付で、修繕外注企業からの、施設の様々な場所の床材に関する工事の提案書を提出しました。しかし、この契約は最終的なものなのか、床の修理はいつ完了するのか、といった情報が含まれていなかったため、私たちは貴社の回答を十分に評価することができませんでした。
さらに、貴社が提出した工場を清潔で衛生的な状態に保つための「衛生管理プロセス」と題する文書には、以下の事項について詳細な手順が記載さてていません。
- この手順でどのような調理器具/設備を洗浄するのか
- どの洗剤と除菌剤を使用するのか
- 設備を洗浄する頻度、誰が洗浄するのか
- 是正措置、適切な洗浄をどのように確認するのか
![議論する食品工場の職員](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2022/12/food-factory-manager-discussing-HACCP-1024x659.jpg)
これらの是正措置の実施と妥当性については、次回のFDA査察の際に確認します。本書簡の受領後15営業日以内に、違反に対処するために講じた具体的な措置について、書面にてFDAに通知してください。その際、違反の再発を防止するために講じた各措置の説明および関連文書のコピーを添付してください。
まとめ
以上がFDAがこの会社に出した警告書のうち、特に、微生物関連に関しての概要です。大きなポイントをまとめると次のようになります。
- 自社の製品で想定しなくてはならない微生物危害要因を正しく認識できていなかった。
- CCPが何故有効なのかについての妥当性確認が出来ていなかった。
- 工場環境での製品への二次汚染対策についての手順が不備であった。また、環境モニタリングプログラム(EMP)の手順も不備であった。
- 各種手順書に具体的的記述が不足していた。
HACCP計画立案において、どのような点に留意しなくてはならないかのご参考になれば幸いです。なお、この警告書では、上記の他に、害虫やネズミの問題やその他事項も指摘しています(本記事では省略)。
FDAの食品事業者の警告書は、今後、本ブログで、特に微生物関連に関する不備事例に焦点を当て、その要点をシリーズで紹介していきます。ただし、連続ではなく、随時掲載となります。