ヒト常在菌の種類の差異の要因としては、遺伝的特性、食生活、年齢などが考えられています。しかし、私たちの周囲の環境、つまり私たちが交流しているペットも、ヒトの常在菌に影響を与えている考えられます。コロラド大学のソング博士らは、60家族の糞便、口腔、皮膚の微生物叢を調査しました。

 その結果は次の通りです。

  • 世帯員、特に夫婦は、異なる世帯の個人よりも多くの種類の常在菌を共有していることが分かりました。
  • また、共同生活による影響は、口腔内や糞便中の微生物よりも皮膚の常在菌の種類に強く反映されていました
  • また。犬を飼っていると、同居している人間の皮膚の常在菌の共有が有意に増加することがわかりました。さらに、犬を飼っている人間は他の犬よりも自分の犬と皮膚の常在菌を共有していることがわかりました。
ペットの犬と抱き合う女性

 これらの共有微生物が、直接接触後の一過性のものなのか、あるいは、人体上でどの程度、常在菌として定着しているかについては不明です。しかし、これらの結果は、人間同士、あるいは、人間とペットなど、同居者との直接的かつ頻繁な接触が、微生物群集の構成を大きく形成している可能性を示唆しました。

 博士らは、ペット動物を含め、誰と一緒に暮らすかによって、人間の様々な体の部位、特に皮膚の部位に生息する微生物の共生集団に影響を与え、人間の代謝や免疫などの生理的特性を変化させることができる可能性に言及しています。

この論文は2013年に出版され、現在までに525回引用されています。

Song JS et al., Elife Apr. 16;2:e00458. doi: 10.7554/eLife.00458 (2013).
Cohabiting family members share microbiota with one another and with their dog.
この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。

 最近の動物モデルを用いた研究で代謝や免疫など、人間の生物学的側面に微生物叢が広く影響を与えていることが明らかになっていることを考えると、ヒト常在菌は興味深いテーマです。以前、下記記事で紹介したように、生物多様性仮説に関連する論文は最近多く出版されています。

周辺環境の生物多様性とアトピー性皮膚炎

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2021年12月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年経過したので、公開しています。ただし、最新状況を反映して、加筆・修正しています。