納豆は、納豆菌による大豆タンパクの発酵により消化が良くなり、健康食品として重宝されています。私も毎日、毎朝納豆を食べています。このように健康食品の納豆ですが、特に免疫の弱い高齢者や基礎疾患がある人、免疫が弱い人にとっては、時にリスクを伴う可能性があります。この記事では、基礎疾患を持つ高齢者が納豆を食べることによって菌血症になった事例を、大分大学医学部附属病院の研究報告を基に紹介します。
はじめに
納豆は、大豆をBacillus subtilis(枯草菌)の亜種であるBacillus subtilis subsp. nattoが発酵させることによって、大豆タンパクが消化されやすくなった非常に健康的な食品です。納豆1gにはおよそ109cfu/gの納豆菌が含まれています。このレベルは、食品が腐敗して嫌な臭いを発するのが107cfu/gレベルであり、それをさらに百倍にしたレベルまで微生物が増えたのが109cfu/gということになります。私も大学で学生と実験を行った際、多種多様な食品を分析しましたが、腐敗している食品は107cfu/g、著しく腐敗している食品では108cfu/gでした。納豆菌は常に109cfu/g程度の高いカウントを示します。これ以上高い菌数が出るのは、おそらく私たちの糞便(1011cfu/gレベル)であり、極めて例外的な存在です。食品においてこれだけ高い菌数が出るケースは稀です。

菌血症の原因としての納豆菌(大分大学医学部附属病院の症例)
Hashimoto et al.
Bacillus subtilis Bacteremia from Gastrointestinal Perforation after Natto Ingestion, Japan
Emerg Infect Dis. Volume 29, Number 10—October 2023
この論文はPubMed Central(PMC)で公開されています
歴史的に見て、このように大量の納豆菌を含む食品を最初に食べた人は非常に勇気が要ったと思われますが、結果として、納豆菌を大量に摂取しても一般的な健康な大人はお腹を壊すことはありません。枯草菌(納豆菌)は病原性は基本的に病原性はないと考えられています。ただし、消化管穿孔や腸管バリア機能の障害、基礎疾患などがある場合には、摂取した納豆菌が腸管から血流へ移行し、まれに菌血症注)を起こすことがあります。
大分大学医学部附属病院の橋本医師らは、65歳の基礎疾患者(転移性大腸癌闘病中)が腹膜炎と菌血症を発症した事例を観察しました。
注)菌血症:血液中に細菌が存在する状態を指します。血液培養によって細菌が検出されることで診断されます。菌血症(血液中に細菌が存在する状態)が進行して全身性の炎症反応を引き起こすと、敗血症(全身的な炎症反応と臓器障害を伴う状態)に発展する可能性があります。

橋本医師らは、その感染している微生物を調べたところ、これがBacillus subtilis subsp. nattoであることが同定されました。

患者は普段から納豆が好きで頻繁に食べていました。そこで、患者が購入して食べている納豆から納豆菌を分離し、患者の菌血症の血液から分離された納豆菌と詳細に比較しました。橋本医師らは、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)によって株レベルまでの識別を行いました。その結果、患者の血液から分離された納豆菌と患者が食べていた納豆に含まれる納豆菌は全く同じ株であると結論付けました。

以上のことから、橋本医師らはこの患者の菌血症はまず患者の消化管に消化管穿孔注)が生じ、それが原因で納豆菌が血液中に入り菌血症が起きたと結論しました。
注)消化管穿孔(gastrointestinal perforation):消化管(食道、胃、小腸、大腸など)の壁に穴が開く状態を指す。即座の治療が必要。高齢者はしばしば消化性潰瘍、虚血性腸炎、憩室炎などの消化管疾患を持っており、これらが穿孔の原因となり得る。また、免疫系が弱い基礎疾患者は、感染症にかかりやすくなり、消化管の炎症や感染が悪化しやすくなります。これにより、穿孔のリスクが増加すると考えられている。
なお、患者は抗生物質療法の末、66日後に退院しました。

橋本医師らはこれらの事例から、日本で納豆菌によるこのような事例があるかどうかも文献を調べました。その結果、海外ではこのような事例はないが、日本では橋本医師らの以前にも数例ほど納豆菌による菌血症が報告されていました。代表的なものは次のとおりです。
- 日本赤十字武蔵野病院、田中医師等の報告(2022):2021年5月、56歳の女性。S状結腸穿孔が確認。手術中に採取した腹水の培養にB. subtilisも他の複数の細菌とともに検出されました。39日間の抗菌療法の後、患者は退院。DNA 分析の結果、分離株はB. subtilis var. natto標準株と 100% 相同であることが判明。患者は、納豆を頻繁に食べていた。
- 東京済生会中央病院、加藤医師等の報告(2022):70歳女性。糖尿病性腎症による末期腎不全のため7か月前に血液透析を開始し、1か月前に症候性多発性骨髄腫と診断。新型コロナウイルス感染症により当院に入院し長期免疫抑制療法を受けていた。治療中、血液培養から枯草菌が検出。入院8日目から患者は、毎日納豆を食べていた。血液培養で検出されたB. subtilisは、次世代シークエンサーを用いて患者が毎日食べていた納豆に含まれるものと同一のB. subtilis var. nattoと同定された。
橋本医師らは、特に免疫力が低下した高齢者や基礎疾患を持つ患者に対して、納豆の摂取が菌血症を引き起こす可能性があるため、臨床医はこのようなリスク群の患者に対し、納豆や枯草菌を含む食品の摂取を避けるよう助言すべきであると結論しています。
最近の研究で見えてきたこと
さらに最近の研究では、納豆菌による菌血症は、これまで考えられていたよりも多い可能性が示されています。2025年、大阪大学と天理よろづ相談所病院の研究グループは、2016~2023年に天理よろづ相談所病院で血液培養から検出された B. subtilis 70株を遺伝子解析した結果、69株(99%)が B. subtilis var. natto と分類され、そのうち25例(36%)が真の菌血症と判断されたと報告しました。個々の症例で納豆摂取との因果関係を直接示した研究ではありませんが、納豆菌による菌血症が従来考えられていたより見逃されている可能性を示す重要な知見です。
まとめ
本記事では、納豆菌による菌血症の事例について、大分大学医学部附属病院の橋本医師らの報告を紹介しました。私も毎日健康のために納豆を食べています。納豆を食べるのは健康に良いことですが、橋本医師らの報告が示すように、基礎疾患を持つ高齢者や免疫が弱い基礎疾患患者が納豆を摂取する際には注意が必要です。
ただし、このような現象は特に納豆菌に限らず、尿路感染や肺炎など、日和見感染注)といわれる現象に共通します。日和見感染とは、通常は全く問題ないが、宿主側の免疫や体力状況が悪化した時に急に感染症を引き起こすことです。これは納豆菌に限らず、一般微生物全般に言えることであり、同じ量の食中毒菌が含まれる食品を食べても健康であれば食中毒になりませんが、主に高齢者や基礎疾患のある人については少量の菌量でも発症することがあります。
注)日本では、市中感染性血流感染症の最も一般的な原因菌はグラム陰性大腸菌であり、グラム陽性桿菌が菌血症を引き起こすことはまれと考えられています
私も健康には十分注意を払い、毎日美味しい納豆食べたいと思っています。

※本記事内で使用されているイメージイラストは、事例の概要を読者の理解を助けるために使用されており、実際の出来事や関係者とは関係ありません。

