以前、スウェーデンでリステリア食中毒が高齢化社会に伴い増加していることを紹介しました。本記事では、スペインに関しても同様の報告が2024年に出版されていますので紹介します。2001年から2021年までの過去20年間におけるスペインでのリステリア症感染者数およびその患者の内訳について、詳細な統計データが収集されました。その結果、過去20年間でリステリア症患者は増加傾向にあることが確認されました。特に注目すべきは、妊婦や健康な人の患者数に比べて、高齢者および基礎疾患を持つ患者数の増加が顕著である点です。スペインも他のEU諸国と同様に高齢化が進んでおり、高齢化に伴ってリステリア症のリスクがますます高まっているようです。
スペインのUNIR健康科学学校・医療センターのエレナ・バスケス博士らは、過去20年間のスペインにおけるリステリア症を調査しました。
Elena Vázquez et al.
Increased incidence and mortality from Listeria monocytogenes infection in Spain
International Journal of Infectious Diseases Published:May 08, 2024
CC BY-NC-ND license
調査方法
調査方法は以下のとおりです。
- 2000年から2021年までのスペインにおいて、National Registry of Hospital Dischargesに登録されたLMと診断されたすべての入院を調査しました。
結果
その結果、次のことが明らかになりました。
リステリア症患者、入院・総患者数・死亡数が増加(過去20年間)
- リステリア症による入院の割合は、2000年の人口100万人あたり5人から2021年には8.9人に増加しました。
- 合計8,152例のリステリア症による入院確認され、平均入院期間は20.5日、平均年齢は59.5歳でした。
- 6.6%が妊婦、8.4%がアルコール依存症患者、48%基礎疾患者でした。
- リステリア症患者の院内死亡率は全体で16.7%でした。死者数は、2000年の死亡者人口10万人当たり7.8人から、2021年には18人に増加した
※上のグラフは本論文の公開ポリシーCC BY-NC-ND licenseに従いそのまま掲載した。ただし読みやすいように日本語に訳している。
健康な人や妊婦は微増、免疫弱者と高齢者は急増
健康な人や妊婦のリステリア症の増加傾向はそれほど顕著ではないものの、免疫の弱い高齢者や基礎疾患を持つ患者数は著しく増加していることが分かりました。
基礎疾患患者の内訳は、糖尿病(19.4%)、がん患者(14.8%)、白血病患者(9.3%)、慢性腎臓病(9.7%)、自己免疫疾患(7.3%)、肝疾患(5.9%)でした。
ここで注目すべき点は、リステリア症のリスク構造が2000年から2021年にかけて大きく変化していることです。かつて、リステリア症の全症例の約40%が妊婦に関連しており、妊婦が主要なリスクグループとされていました。しかし、このグラフから明らかなように、妊婦の絶対数はほとんど変化がない一方で、基礎疾患を持つ患者や高齢者がこの20年間で著しく増加していることが分かります。この増加は、妊婦の割合が現在ではわずか10%未満にまで低下する結果をもたらしました。
統計的に見ると、妊婦と高齢者・基礎疾患者の間で割合の差が拡大しており、この傾向は2000年から2021年にかけて、まるで「ワニの口」が開いていくような形で進行しています。これは、リステリア症のリスク分布が過去とは大きく異なり、妊婦中心の疾患から高齢者や基礎疾患者が中心となる疾患へと移行していることを意味します。
この変化は、高齢化社会や免疫力低下の広がりが背景にあると考えられ、リステリア症対策を再評価する必要性を示唆しています。食品安全管理やリスク評価においても、このデータが提供する新たな視点を活用することが求められるでしょう。
※上のグラフは本論文の公開ポリシーCC BY-NC-ND licenseに従いそのまま掲載した。ただし読みやすいように日本語に訳している。
博士たちは次のように警告
以上の結果から、博士たちは次のように警告しています。
- スペインでは高齢化が進んでおり、その結果、高齢者や基礎疾患を持つ患者のリステリア症の感染リスクが過去20年間で高まっている。この傾向は、高齢化が進むにつれて、ますます増大することはあっても減少することはないだろう。したがって、リステリア症のリスクに関しては、これまで以上に保健当局が注意を払っていく必要がある。
まとめ
今回の記事もまた、以前紹介したスウェーデンの記事同様、国民の高齢化に伴ってリステリア症のリスクが増大していることを統計データから示したものです。スウェーデンとスペイン以外の国の報告はまだ確認しておりませんが、EUのみならず、他の高齢化社会へ移行している国でも同様の傾向が見られると予想されます。日本も急速に高齢化が進んでいるため、日本でも同様の傾向が見られると考えられます。
スウェーデンにおけるリステリア食中毒と高齢化との関係に関する記事は、下記をご覧ください。