リステリア症は妊娠中の母親と胎児に重大な健康リスクをもたらすことがありますが、中国での妊婦のリステリア症の発生状況については十分に認識されていません。この記事では、北京産科婦人科病院で2013年から2018年の6年間に確認された妊婦のリステリア症例数について報告した、李博士率いる首都医科大学北京産科婦人科病院の研究チームの論文を紹介します。この研究は、中国でのリステリア症の実態を理解するための重要な一歩となります。

Li et al.
Perinatal listeriosis patients treated at a maternity hospital in Beijing, China, from 2013–2018
Infectious Diseases volume 20, Article number: 601 (2020)

この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。

 妊婦は、胎児を宿すために免疫システムが抑制されるため、感染症に注意が必要です。その中でもリステリア菌による感染症は、流産や胎児死亡などの深刻な結果をもたらすことがあります。妊婦のリステリア症感染リスクは、一般集団の12~20倍と言われています。世界的には、10万人あたり4.3~25例のリステリア症発生率が報告されていますが、中国での実態は不明でした。

 そこで、北京産科婦人科病院の症例をもとに、中国における妊婦のリステリア症の実態を明らかにするため、李博士が調査を行いました。

北京の産婦人科病院。

調査方法

以下が調査方法の概要です。

 北京産科婦人科病院は、年間14,000人以上の出生数を誇ります。博士らは、病院の疾病予防管理・院内感染部門から作成されたリストに基づき、2013年から2018年にかけて同病院で治療された妊娠関連リステリア感染症の臨床データを分析しました。病院の全患者の臨床情報は、2013年から電子データベースに記録されていました。

  調査では、周産期リステリア症を定義するために、妊婦または胎児、死産、生後4週間未満の新生児の臨床的無菌サンプルからListeria monocytogenesが培養法により分離されたことを基準にしました。

感染患者数

 87,644件の分娩から12件の妊娠関連リステリア症が確認され、その発生率は10万人あたり13.7人でした。世界的には、10万人あたり4~25例のリステリア症発生率が報告されており、中国の発生頻度もこの範囲に収まりました。

 母体感染12例と新生児感染14例が含まれます(2人の妊婦は双子出産)。

感染時の初期症状

 母体のリステリア症患者12人のうち11人に出生前の発熱(38〜39.3℃)があり、12人中3人にインフルエンザ様症状が見られましたた。また、5名の患者に消化器症状(下痢、腹痛)がありました。

ディステリアに感染した妊婦の初期感染症状の内訳。

胎児への影響

 12名の妊婦には、胎動低下、子宮内胎児死亡、膜早期破裂、膣出血など様々な産科症状が報告されました。母体患者12名のうち、1名が正常分娩に移行し、5名が胎児死亡、6名が早産でした。

 生存した新生児のうち、6ヶ月間の追跡調査を通じて神経学的後遺症が生じた者はいませんでした。

ディステリアに感染した妊婦分娩状況。

妊娠ステージと感染の影響

 妊娠第2期(妊娠14週目から27週目までの期間)に感染した6人の妊婦の場合は100%の胎児致死率でした。一方、妊娠第3期(妊娠28週目から出産までの期間)に感染した残り6人の妊婦での胎児新生児致死率14.3%に下がりました。

 総合して、妊婦がリステリア症になった場合の胎児新生児致死率は57.1%と算出されました。

妊娠期の段階とリステリア感染による胎児死亡率の関係。

原因食品は?

 リステリア症は典型的な食中毒であり、食品汚染が主な感染源と考えられています。

 北京疾病予防管理センター(CDC)のデータによると、本研究の母体患者12名のうち、患者の台所から採取したサンプルからのL. monocytogenesの同一菌株の培養陽性は、症例5のみでした。しかし、このケースでも、L. monocytogenesの様々な食物源から病原体を追跡し、特定の食物源を特定することは困難でした。

冷蔵庫の前でリステリア菌が分離できないと悩む中国の女子検査員

 中国の食品におけるリステリア菌の汚染率は4.4%であり、北京の小売市場では生の豚肉の15.2%が汚染されていることが判明しています。現在、中国ではリステリア感染予防のための食事ガイドラインが存在していません。したがって、リステリア感染のリスクが高い人々、特に妊婦や免疫不全の人々の間で、関連する食品の安全性に関する意識を向上させる必要性があると博士らは指摘しています。

 具体的には、妊娠中の患者にとって医師は最も信頼できる健康情報源であるため、医師による健康的な食生活の教育(例えば、低温殺菌された乳製品や冷蔵庫に保存された調理済み食品であっても再調理せずに直接食べることを避ける、外食頻度を減らすなど)を伝えるキャンペーンが妊婦に推奨されるとしています。

妊婦にアドバイスをする中国の医者

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