中国では、現時点で、リステリア菌によるアウトブレイクは確認されていません。したがって、リステリア菌と食べ物との関係についてほとんど分かっていません。この状況は日本と似ています。しかし、病院レベルの調査ではリステリア感染患者は、妊婦や高齢者を中心に確認されています。この点も、日本の状況と同様です。このたび、中国人のリステリア菌感染にとって危険な食べ物や食生活習慣の一端が明らかになりました。北京疾病予防管理センターのニウ博士らの報告(2022年2月出版)です。

Risk factors for sporadic listeriosis in Beijing, China: A matched case-control study
Epidemiol Infect;150:1-21( 2022)

調査対象となった妊婦とその他のリステリア症感染患者

 中国北京市衛生委員会が発行した監視計画では、臨床症状を有する患者からリステリア菌(Listeria monocytogenes)が分離された場合、病院は委員会にリステリア症の事例を報告することが義務付けられています。北京の病院におけるリステリア症患者を対象として、食べ物の摂取、食生活に関連するアンケート調査が実施されました。今回の、調査対象となった症例は、この監視システムでディステリア感染症と診断された患者群です。

 2018年12月31日から2020年12月31日までの間に、北京市内の病院での妊婦症例52件と妊婦以外の症例54件を含みます。妊婦は、妊娠中または新生児の患者、および胎児死亡症例を含みます。母親とその新生児または胎児の両方がL. monocytogenesに陽性であった場合は、1つの症例としてカウントしました。妊婦以外の症例の内訳は男性26名、女性28名でした。妊婦症例のうち、40例は妊産婦からの検体の培養によりリステリア菌が同定され、12例は新生児からの検体でした。妊婦母親の年齢は、23±13歳でした。また、非妊婦群は50±25歳でした。

中国におけるリステリア感染症患者数の妊婦とその他の割合

 リステリア症感染患者に対して、食べ物の消費と食品取扱習慣に関連する可能性のある危険因子を調査するために対面インタビューが実施されました。

病院で患者にアンケートを求める医者

 なお、食事調査アンケートを行う際に、リステリア症感染者の対照者(非感染者)も、リテリア症感染者と同数、これらのリステリア症感染者の入院している病院から選択しました。これらの対象者の選別条件としては、リステリア感染患者と性別が一致し、また、年齢が5歳以内である者としました。また、妊婦以外の症例については、対照となる症例と同様の基礎免疫状態を有していることを条件としました。具体的には、臓器移植、腫瘍、腎臓疾患など、特定の疾患による食習慣の変化の影響を軽減するために、症例と対照のペアの免疫低下には類似した原因があることを対象者の選択の条件としました。

食生活アンケート結果を統計しているai

調査した食品と食習慣

 過去の研究でリステリア汚染のリスクが高いとされた11品目の消費について、過去一カ月間の食品と食事習慣について調査を行いました。食品は、生野菜、調理済み肉製品、寿司、果物、アイスクリーム、中華風冷菜、洋風サラダ、生乳、チーズなどです。また、生ものと調理済みの食品をきちんと分けているか、冷蔵庫の掃除の頻度など、8種類の食品の取扱習慣も同時に調査しました。その他、鶏肉の取り扱い、手洗い、鶏肉の取り扱い後のまな板の洗浄、食べ残しの消費、生きた鶏肉との接触、ペットの飼育についても調べました。

結果

過去の食事履歴

  • 妊婦においては中華冷菜などのリスクの高い食べ物はリステリア症に関連付ける結果にはなりませんでしたが、妊婦以外のグループでは、中華冷菜の摂取は感染リスクを3.4倍増加させました。
中華伶菜

 中華料理の冷菜は、中華冷菜は中国でよく消費される食品であり、特にリステリア症のリスクが高い夏場によく選ばれるメニューです。その多くは生野菜と加熱した肉で作られており、製造中や消費前に加熱しないため、食中毒の病原体による汚染を受けやすくなっています。
 本研究の結果、中華冷菜はリステリア症の高リスク食品であることが確認されました。中国の食品のリステリア菌の汚染率に関するこれまでの研究では、平均して、中華冷菜の 3.65% から L. monocytogenes が検出されたと報告されています。

 高リスク食品とあらかじめ推定したその他の食べ物については、妊婦、非妊婦のいずれの症例においても、リステリア症と関連付けられるような有意な統計データを得られませんでした。米国、英国、オーストラリア、ドイツにおけるハイリスク食品に関する同様の研究で抽出されているアイスミルク、調理済み牛肉、スモークフィッシュ、エビ、牛乳、バター、チーズ、ミックスサラダなど様々な西洋食品については、中国では中国の伝統的食習慣によりこれらの食品はほとんど消費されることはないことが理由だと推察しています。

食事習慣

  • 妊婦では、生食品と調理済み食品をよく分離していた場合、感染リスクは95.2%減少しました。

 生肉や鶏肉におけるリステリア菌の汚染率は11%を超えることがあり、これは調理済み肉の汚染率よりもはるかに高い値となっています。加工・保存時に生食品と調理済み食品を分離しないと、リステリア菌による汚染が起こり、ヒトへの感染リスクが高まる可能性があるとしています。さらに、生肉を切った後にまな板を適切に扱うこと、生きている鶏肉を扱わないことなどもリステリア菌感染に対する防御因子して抽出されました。

調理場で生食品と調理済み食品を分離することの重要性
  • 妊婦、非妊婦ともに、冷蔵庫内の食品の整理頻度が高いほど、食品に感染する可能性は低くなることが示されました。
冷蔵庫、長期保存は要注意

 本研究は、中国北京市における散発性リステリア症の初めての症例対照研究です。著者たちは、本研究の限界について、インタビュー対象者が4週間以上前の食物摂取を思い出すことが困難であったため、正確な原因食品の特定できなかったと述べています。しかし、この論文で得られた所見は、中国におけるリステリア菌による感染を防止し、脆弱な集団に対する食品安全性に関する助言の普及を改善するための重要な科学的データの第一歩であると著者たちは述べています。

妊婦や一般国民に対するリスクコミュニケーションの必要性

 リステリア菌に感染しやすい人々に対して、食品の消費および食品取扱習慣に関するエビデンスに基づく健康アドバイスが緊急に必要とされています。ニウ博士らは、食品の安全性に関する公衆衛生教育は非常に有効であるとしています。特に、妊婦や免疫不全者に対しては、中華冷菜などのリスクの高い食品に対する認識を高め、良好な健康習慣を維持することにより、リステリア菌感染を回避するための教育プログラムが、個人防護の重要性に対する理解を深めるために必要であると結論しています。

妊婦がリステリアのことを学んでびっくりしている様子

 中国のリステリア菌リスクについての記事を紹介しました。日本でもリステリア感染は病院では、一定数出ているにもかかわらず注)、原因食品が特定されていないという点は、中国と全く同じ事情です。食文化が異なるので、感染原因食は異なるかもしれませんが、いずれにしても。 Ready to eat食品については最大の注意が必要です。

注)例えば下記論文

血液・髄液培養陰性でPCR 陽性だった早発型リステリア感染症の超早産児例
日本新生児成育医学会雑誌 31(1):124-128;2019

※リステリア菌の基礎事項を確認。されたい方は下記の記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌