パリオリンピックがいよいよ開幕しました。猛暑が続く中、ミネラルウォーターの需要が急増しています。フランスをはじめEUで流通するミネラルウォーターは、厳選された清浄な自然環境から採取されたものであり、殺菌処理が禁止されています。しかし、今年2月からフランスでミネラルウォーターに関する大きなスキャンダルが発覚し、国内外で波紋を呼んでいます。本記事では、このスキャンダルの経緯とフランスの衛生管理システムの問題について詳しく解説します。

オリンピック会場でミネラルウオーターを飲む日本人男性

EUでは、ミネラルウォーターを殺菌してはいけない

 日本や米国では、ミネラルウォーターの殺菌が義務付けられています。市場に流通している多くのミネラルウォーターは、UV殺菌などの処理が施されています。

 しかし、EUでは事情が異なります。ヨーロッパでは、ミネラルウォーターの採取環境は厳しい基準を満たしており、そもそも微生物学的な殺菌が不要な場所から採取されるべきだとされています。そのため、EU基準ではミネラルウォーターの「殺菌しないこと」が義務づけられています。

ミネラルウォーターを自慢するパリ市民

ミネラルウォータースキャンダル勃発

 今年2月、多国籍企業Nestlé社やフランスの大手ミネラルウォーター供給企業であるSources ALMA社などが、EU規則を遵守せず、紫外線殺菌違法のろ過処理などを行ったものを天然ミネラルウォーターとして供給していることがが発覚しました。このスキャンダルはフランス全土を騒がせ、殺菌処理が何十年も続けられていた可能性も報道されました。

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ミネラルウォーターの前でびっくりするパリ市民

また、この問題は企業だけでなく、フランスの衛生当局の管理不足にも波及しました。

衛生当局者を詰め寄るパリ市民

 そこで、2024年7月24日に発行されたEU監査報告書では、フランスの公的管理制度は「潜在的な健康リスクを特定し、是正するのに適していない」として、以下のような問題点が指摘されました。

  1. 定期的なリスクベースの公的検査が実施されていない
  2. 中央レベルと地方レベルの管轄当局間および内部の連携が不十分
  3. 公的管理のいくつかの側面における検査官の経験不足

これにより、

  1. 事業者が禁止されている処理を是正できない
  2. ナチュラルミネラルウォーターとして適格でないものが市場に流通することを防げない
  3. 不適合製品の市場からの回収や、流通させた事業者への罰金措置が行われていない

という厳しい結果が明らかになりました。

 この欧州監査報告書は、フランスだけでなく、すべてのEU加盟国の管轄当局に対する重大な警告になっています。この報告書は、多国籍企の免責の風潮を醸成している放任主義的な態度に警告を発するものであり、今後EU全土に影響を及ぼす可能性もあります。食品の安全性を確保するため、各国の衛生管理当局の管理能力向上が求められています。

まとめ

 日本では、ミネラルウォーターの殺菌処理が義務付けられていますが、EUから輸入されるものは無殺菌の自然なものだというイメージがあります。しかし、EU内で実際には殺菌処理が行われていたという事実は驚きです。EUは先進的な規則を作成するものの、それを遵守する管理能力には課題があります。

 一方、日本では規則は先進的ではないかもしれませんが、現場での努力はしっかりしていると期待されています。食品企業に携わる皆様には、引き続き、現場での管理を徹底していただきたいと思います。