呼吸器感染ウイルスは呼吸器系のみで増殖します。しかし、感染者は嘔吐や下痢などの消化器症状を呈することもあります。なぜ、呼吸器系の感染が、腸管でのこのような症状を起こすことがあるのでしょうか?その分子機構は未だ解明されていません。

今回紹介する論文はこの問題の解明に取り組んだカリフォルニア大学ダーリュ博士らの研究です。
 
博士らはインフルエンザマウスモデルを用いて,つぎのことを明らかにしました。

呼吸系感染した際には食中毒にも要注意
  • インフルエンザ肺感染が I 型インターフェロン(IFN-Is)に依存するメカニズムを介して腸内細菌叢を変化させる。すなわち、肺で産生されるインフルエンザ誘発性のI 型インターフェロンは、腸内の偏性嫌気性細菌の減少とプロテオバクテリアの増加を促進し、腸内細菌叢のバランスを乱す。
  • インフルエンザ肺感染時に肺に誘導されたI 型インターフェロンが、サルモネラ感染時の腸内の抗菌・炎症反応を抑制する。
  • 上記の結果、サルモネラの腸内感染を促進する。

 博士らの研究は、インフルエンザ感染がインターフェロン誘導を起こし、それが腸内細菌叢の攪乱とサルモネラの感染しやすさを促進することを、マウスモデルで実験的に示したものです。

 呼吸器感染ウイルスに感染しているとそもそも食欲どころではないと思いますが、普段以上に食中毒菌に感染しやすくなることを示唆しています。そもそも呼吸器感染ウイルスに感染しないことが重要ですが、万一かかった場合、注意が必要なようです。

この論文は2016年に出版され、これまでに136回引用されています( 2022年7月スコーパス調べ)。
Deriu E. et al., PLoS Pathog. May 5;12(5):e1005572. doi(2016)
Influenza virus affects intestinal microbiota and secondary Salmonella infection in the gut through type I Interferons.
この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2021年4月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年経過したので、公開しています。ただし、最新状況を反映して、加筆・修正しています。 。