米国農務省が2023年4月25日に発表した続報によると、パン粉をまぶした生鶏肉製品において、サルモネラ菌の微生物規格基準が最終的に設定されることを決定しました。この新基準は、2022年8月に発表された方針を基礎とするものです。この基準によれば、鶏肉の詰め物やパン粉付け前に、1cfu/gのサルモネラ菌の陽性反応が出た製品は、店頭に並べられないことになります。また、このような汚染が見つかった製品は回収しなければならなくなります。この重要な規制変更について解説します。
以前、2022年8月の米国農務省発表内容について
まず、本件に関して、2022年8月に米国農務省(USDA)食品安全検査局(FSIS)が発表した方針の詳細や、米国における鶏の生肉とサルモネラの問題の背景については、本ブログの別記事でできるだけ詳しく分かりやすく解説していますので、下記記事を是非ご覧ください!
パン粉をまぶした生鶏肉にサルモネラ菌の微生物規格基準設定(米国)
時間のない方への要約:上記の記事の要点は以下の通りです。
- 米国では、生の鶏肉を原因とするサルモネラ菌やカンピロバクターの食中毒が深刻な問題である。
- しかし、これまでは生の鶏肉に対する微生物基準は設定されていなかった。
- 米国では、消費者団体や弁護士事務所が微生物規格基準の設定を要望しており、今回初めてパン粉をまぶした生鶏肉に対してサルモネラ菌の微生物規格が設定されることになった。
- 世界を見渡すと、EUでは米国に先んじて既に鶏肉に対して厳格な微生物規格が設定されており、日本も今後この問題に取り組む必要があるかもしれない。
今回、2023年4月の米国農務省の発表内容
さて、以下に今回の米国農務省の発表の要約を記します。
- 米国農務省(USDA)食品安全検査局(FSIS)は、パン粉をまぶした生鶏肉製品にサルモネラ菌の微生物規格基準を設定する。
- パン粉付け前に、1cfu/gのサルモネラ菌の陽性反応が出た鶏肉を用いた製品は店頭に並べられない。
- このような汚染が見つかった製品はリコールの対象となる。
上記決定の背景として、CDCによると、サルモネラ感染症は米国で年間約135万件のヒトへの感染と26,500件の入院を引き起こし、そのうち23%以上が鶏肉の摂取によるものである。食品由来サルモネラ感染症の費用は年間41億ドルであり、経済への生産性損失は8800万ドルと推定されている。
とくに、パン粉詰め生鶏肉製品については
- 生の鶏肉にパン粉を詰めた製品は、あらかじめ焼き色が付けられており、調理されたように見えるが、鶏肉は生である。
- 消費者が正確な内部温度を判断することが困難であるため、サルモネラ感染症のリスクがある。
との理由から、今回の規格基準設定の対象とした。
FSISはパブリックコメントを募集しており、提案された判定および検証手順に関するコメントは連邦官報に掲載されてから60日以内に受け付ける必要がある。
全米鶏肉協会から反論
上記農務省の発表にたいして、全米鶏肉協会は4月25日に反論声明を公表しています。その要点を下記に記します。
- この政策変更が公衆衛生を改善することにはつながらず、加工工場の閉鎖や雇用の喪失、安全な食品や便利な製品の撤去をもたらす可能性がある。この提案により年間2億食以上の製品が失われ、500〜1000人の雇用が失われ、産業全体のコストが増加する可能性があると予測している。
- 全米鶏肉協会とその会員企業は、数百万ドルを投資し、10年以上にわたりこれらの製品の安全性向上に取り組んできた。例えば、これらの製品包装の表示改訂や消費者の理解向上の取り組みなど、業界がこれらの製品の安全性向上のために行ってきた。その結果、これらの製品に関連したアウトブレイクは過去7年間で1件のみである。
- 全米鶏肉協会は、今回の農務省の提案が科学的根拠に基づかず、データやリスク評価に基づいていない。
消費者団体から賛成の声
一方、米国の消費者団体であるConsumer Reportsは、2023年4月25日に今回の農務省の方針を支持する声明を発表しました。さらに、この団体は以下のような提案も行っています。
- この提案を広範なサルモネラ汚染に対処するための重要な第一歩と評価する。しかし、さらにサルモネラ菌数の割合を減らし、サルモネラ菌の脅威を減らすため、より積極的な目標の設定と、工場検査の強化をUSDAに要請する。
上記提案の理由として、鶏肉のサルモネラ汚染は鶏肉の飼育環境が不潔で混雑していることが原因の一つであり、Consumer Reportの調査では鶏のひき肉サンプルの約3分の1にサルモネラ菌が検出されている。さらに、毎年約135万人のアメリカ人がサルモネラ菌に感染しており、そのうちの約5分の1が鶏肉や七面鳥からの感染である。
まとめ
生の鶏肉に関しては、EUは、すでに、厳格な微生物規格基準を設定しています。 EUも2010年までは、鶏肉に微生物規格基準が設定されていませんでしたが、 2011年12月に特定の血清型(Salmonella EnteritidisとSalmonella Typhimurium)については25g当たり検出されてはならない(検査試料数n=5)という基準が食品安全基準に組み込まれました。
詳しくは本ブログの下記記事をご確認ください。
パン粉をまぶした生鶏肉にサルモネラ菌の微生物規格基準設定(米国)
養鶏場や食肉処理場において、生の鶏肉へのサルモネラ菌汚染を完全に排除することは、本記事でも触れられているように、業界に大きな負担をかけるものとなります。しかしながら、今後も世界的に、「生鶏肉からのサルモネラ菌汚染を排除する」という目標に向けた取り組みが強化されていくことが予想されます。日本では、現時点で生鶏肉へのサルモネラ菌に関する微生物規格基準設定は行われていませんが、EUや米国での情勢を考慮すると、今後日本でもこの問題に対する意識や議論が高まるものと予想されます。