「サプリメントで食中毒」と聞くと、多くの方は少し意外に感じるかもしれません。食中毒といえば、肉、卵、魚介類、弁当、惣菜、サラダなど、水分が多く、細菌が増えやすい食品を思い浮かべるのが普通でしょう。一方、粉末サプリメントやカプセル製品は乾燥しており、水分活性も低い。微生物が増えにくい食品です。

しかし、2025年秋から2026年にかけて、米国ではモリンガ葉粉末またはモリンガ粉末を含むサプリメントに関連した サルモネラアウトブレークが複数報告されています。これらは同一事件の単なる続報ではなく、FDAおよびCDCは、関与した製品、ブランド、サルモネラ の血清型などに基づいて、別個のアウトブレークとして整理しています。これらは「粉末だから安全」「カプセルだから食中毒とは無縁」とは言えないことを示す事例です。天然由来の植物粉末を原料とする健康食品では、微生物が製品中で増えにくくても、原料段階でサルモネラが混入していれば、摂取時の感染リスクは現実に残ります。

モリンガ葉粉末とは何か

 モリンガは、近年「スーパーフード」として注目されている植物です。葉を乾燥・粉末化し、粉末製品、カプセル、青汁様製品、健康食品原料として利用されます。消費者にとっては、「植物由来」「自然由来」「栄養豊富」という安心感のある素材かもしれません。

 しかし、食品安全の観点では、ここに別の見方が必要です。植物は畑で栽培され、収穫され、乾燥され、粉砕され、保管・流通されます。その過程では、土壌、動物、鳥、昆虫、水、作業環境、乾燥環境、粉砕設備など、さまざまな汚染源と接触する可能性があります。しかもカプセル化された製品は、消費者が加熱せずにそのまま摂取します。つまり、モリンガ葉粉末カプセルは、「天然由来」「低水分」「非加熱摂取」という条件が重なる製品なのです。

モリンガの葉が収穫・乾燥・粉砕・検査・包装され、粉末サプリメントになる工程を示したイラスト。

低水分食品では、サルモネラは増えない。しかし生き残る

 低水分活性食品では、サルモネラは通常増殖できません。水分活性が低いため、細菌が増えるために必要な自由水が不足しているからです。

 しかし、増えないことと、死滅することは別です。サルモネラは乾燥状態でも長期間生残することがあります。低水分活性食品の中で増殖しなくても、生き残った菌を消費者が摂取すれば発症につながる可能性があります。Codexの低水分食品に関する国際規範 CXC 75-2015 でも、低水分活性食品で問題となる主要な病原菌としてサルモネラが重視されています。特に、低水分活性食品関連のアウトブレークの多くがサルモネラによるものであるため、この規範ではサルモネラ管理に焦点が置かれています。

 ここが、低水分活性食品の落とし穴です。水分が多い食品では、「製品中で増えるかどうか」が大きな問題になります。低水分活性食品では、「増えないが、生き残るかどうか」が問題になります。

低水分食品ではサルモネラは増えにくい一方で、生き残ることがあると説明する専門家のイラスト。

モリンガ事例は単発ではない

 2025年10月から2026年にかけて、米国では、モリンガ葉粉末またはモリンガ粉末を含むサプリメントに関連した Salmonella アウトブレークが複数報告されています。これらは同一の事件として一括して扱われているわけではなく、FDAおよびCDCは、製品、ブランド、関与した Salmonella の血清型などに基づいて、別個のアウトブレークとして整理しています。

 まず、2025年10月に公表されたモリンガ葉粉末関連アウトブレークでは、Salmonella Richmond が関与し、モリンガ葉粉末を含む複数の粉末・サプリメント製品がリコール対象となりました。

 次に、2026年1月に公表された別調査では、Salmonella Typhimurium および Salmonella Newport が関与し、モリンガ葉粉末を含む栄養補助食品との関連が示されました。この調査では、FDAがモリンガ葉粉末原料サンプル2件からアウトブレーク株と一致する Salmonella Newport を、開封済み製品サンプル1件から Salmonella Typhimurium を検出しています。

 さらに2026年2月には、Rosabella-brand moringa powder capsules に関連して、広範囲薬剤耐性を持つ Salmonella Newport などのアウトブレークが報告されました。CDCは、この事例が2026年1月のモリンガ葉粉末関連アウトブレークとは別件であると明記しています。

 そして2026年5月には、MOGO-brand Pure Moringa Oleifera capsules に関連した新たな Salmonella Typhimurium アウトブレークが報告されました。FDAによれば、この事例では14州18人の感染者が確認され、7人が入院しました。MOGO Moringa LLC は2026年5月25日に対象2ロットをリコールしています。FDAはこのMOGO事例についても、過去に報告された Salmonella Newport & Kentucky 事例および Salmonella Typhimurium & Newport 事例とは別の新規アウトブレークであると説明しています。

モリンガ関連のサルモネラアウトブレークが2025年10月から2026年5月にかけて複数回発生したことを示すタイムライン図。

 以上から、モリンガ葉粉末関連の事例は、偶発的な単発事例というより、天然由来の植物粉末を乾燥粉末、顆粒、カプセル、錠剤などの形で摂取する健康食品において、サルモネラ 汚染リスクが現実に生じうることを示唆する事例群と考えられます。

一般生菌数や大腸菌群だけでは見えない

 日本の健康食品・サプリメント業界では、粉末・顆粒・錠剤型製品の微生物規格として、「一般生菌数(または総好気性微生物数) 3000/g以下、大腸菌群陰性」という基準がよく見られます。この数値は、食品衛生法における粉末清涼飲料の成分規格と同じ水準です。日本健康・栄養食品協会、いわゆるJHNFA等の業界団体でも、健康食品の製品別規格に同様の数値が多く見られます。この基準自体が直ちにおかしいという話ではありません。一般生菌数や大腸菌群は、原料や製品の一般的な衛生状態を見る上では有用です。

 しかし、この規格体系は、HACCP的に原料ごとの病原菌ハザードを評価して作られたものではなく、HACCP導入以前からの食品別成分規格、すなわち一般生菌数と大腸菌群を用いた一般衛生指標の考え方を引き継いだものと理解するのが妥当です。一般生菌数が低いこと、大腸菌群が陰性であることは、サルモネラが存在しないことを保証しません

一般生菌数や大腸菌群などの指標菌が基準値内でも、モリンガ粉末にサルモネラが存在する場合があることを示すイラスト。

 また、サルモネラは粉体中に均一に分布しているとは限らず、ごく一部に偏って存在することがあります。そのため、サルモネラを標的としたサンプリング検査では見落とす可能性があります。Codex CXC 75-2015でも、微生物検査は有用である一方、検査だけで食品の安全性を保証することはできず、微生物は食品中に均一に分布していない場合があるとされています。

モリンガ葉パウダーの一部にサルモネラ汚染が偏在し、サンプリング検査では見落とす可能性があることを示すイラスト。

検査より先に見るべきもの

 では、すべての天然由来原料でサルモネラ検査を増やせばよいのでしょうか。もちろん、高リスク原料ではサルモネラを検討対象に入れるべきです。採用時、供給者変更時、原産国変更時、工程変更時、異常値発生時、定期的な検証時などにサルモネラを確認することは重要です。

 しかし、検査だけで安全性を保証することはできません。本質的に重要なのは、原料がどこで作られ、どのように収穫され、どのように乾燥され、どのように粉砕され、どのように保管・輸送されたかです。とくに天然由来植物粉末では、乾燥工程の管理、乾燥後の再汚染防止、水分・湿度管理、粉砕設備の衛生状態、殺菌・減菌工程の有無とその妥当性確認が重要になります。つまり、検査結果だけで判断するのではなく、原料から製品化までの工程管理そのものを確認することが重要です。

 これはサルモネラだけの問題ではありません。スパイス、乾燥ハーブ、穀類、種子、発酵素材などでは、原料によってカビ毒微生物由来の有害代謝産物も考える必要があります。一般生菌数や大腸菌群では、これらのリスクは見えません。

サルモネラ陰性の検査結果だけで判断せず、原料の由来や乾燥・粉砕・保管などの工程管理を確認する重要性を示すイラスト。

日本の事業者へのメッセージ

 今回の米国モリンガ葉粉末事例は、日本の健康食品事業者にとっても重要な警鐘です。「一般生菌数(総好気性微生物 )3000/g以下、大腸菌群陰性」という規格は、国内の業界慣行としては理解できます。しかし、それは一般衛生指標であり、天然由来原料における個別の病原菌ハザードを評価した結果ではありません。

 今後必要になるのは、すべての製品に一律に検査項目を増やすことではありません。重要なのは、各製品・各原料ごとに、リスクベースで危害を認定することです。高度に精製された原料と、植物粉末、ハーブ、スパイス、発酵素材、種子・穀類由来原料では、考えるべきハザードが異なります。低リスク原料では、一般生菌数や大腸菌群を中心とした管理で十分な場合もあります。一方、高リスクの天然由来原料では、サルモネラ、セレウス菌、酵母・カビ、カビ毒などを、原料の特性に応じて検討する必要があります。

 そして、検査だけに頼るのではなく、原料サプライヤーの管理、原料の由来、乾燥・粉砕・保管工程、殺菌・減菌工程の有無、乾燥後の再汚染防止などを含め、工程管理の適正性を確認することが重要です。粉末サプリメントは、見た目には乾いていて安全そうに見えます。しかし、低水分活性であることは、病原菌が存在しないことを意味しません。

 米国のモリンガ葉粉末アウトブレークは、天然由来粉末サプリメントの安全性を考える上で、極めて重要な事例だと思います。

低水分の粉末サプリメントでも病原菌が存在しうるため、一般衛生指標に加えて原料ごとのハザード評価と工程管理を行う重要性を説明するイラスト。