2026年7月1日、EUにおけるRTE食品のListeria monocytogenes規則の改正施行が、いよいよ目前に迫っている。今回の改正で特に重要なのは、「リステリア菌が増殖可能な食品」について、製造業者が消費期限末までに100 cfu/gを超えないことを科学的に示せない場合、より厳しい25g中不検出の基準が流通・販売段階にも適用される点である。
では、そもそも「リステリア菌が増殖可能な食品」と「増殖を支持しない食品」は、どのように区別されるのだろうか。ここを理解しないままEUの100 cfu/g基準だけを見ると、「EUはリステリアを100 cfu/gまで認めている」という誤解につながりやすい。そこで本記事では、EUの微生物基準の基本規則である Regulation (EC) No 2073/2005 に立ち返り、リステリア菌の増殖を支持しない食品とは何かを、pH、水分活性、保存期間などの観点から整理する。
EU規則 (EC) No 2073/2005 とは?
なお、本記事でいう「保存期間」は、EU規則の原文で用いられている shelf-life に対応する表現である。日本の食品表示実務でいえば、微生物学的な安全性を担保すべき「消費期限」までの期間とほぼ同じ意味で理解してよい。
2005年に制定されたEU規則 (EC) No 2073/2005 は、EUにおける食品の微生物基準を定める中心的な規則である。この規則では、サルモネラ、リステリア菌、大腸菌など、食品ごとに問題となる微生物について、食品安全基準や工程衛生基準が定められている。リステリア菌についても、この規則の中で、RTE食品を「リステリア菌が増殖可能な食品」と「リステリア菌の増殖を支持しない食品」などに分類し、それぞれに異なる基準を設定している。
2026年7月1日から適用される新規則(Regulation (EU) 2024/2895)も、この Regulation (EC) No 2073/2005 のリステリア基準を改正するものである。したがって、今回の改正を理解するためには、まずこの規則がもともとRTE食品をどのように分類しているのかを確認しておく必要がある。本記事では、この規則の中からリステリア菌に関するカテゴリー分類に焦点を当て、pH、水分活性、保存期間などの条件が、どのように「リステリア菌の増殖を支持しない食品」の判断に使われているのかを整理する。

RTE食品におけるリステリア菌のカテゴリー分類
EU規則 (EC) No 2073/2005では、RTE食品における Listeria monocytogenes の基準として、食品を以下の3つのカテゴリーに整理している。この分類は、食品の用途や特性に基づき、リステリア菌が増殖し得るかどうかを判断するうえで重要である。
カテゴリー1.1:特別な医療目的や乳幼児向けのRTE食品
このカテゴリーは、乳幼児向けのRTE食品や、特別な医療目的のために製造されるRTE食品を対象とする。たとえば、完全調理された乳幼児向け食品や、医療・栄養管理を目的として設計された食品などが該当する。
ここで重要なのは、食品の形態そのものではなく、誰を対象に、どのような目的で製造されているかである。一般向けの缶詰、パウチ惣菜、乳飲料、デザート類が、食品の形態だけを理由にカテゴリー1.1に分類されるわけではない。

カテゴリー1.2:リステリア菌の増殖の可能性があるRTE食品
カテゴリー1.2は、保存期間中に Listeria monocytogenes が増殖する可能性のあるRTE食品を対象とする。
代表的には、軟質チーズ、パテ、スモークサーモン、スライス済みまたは調理済みの肉類、惣菜サラダなどが該当する。これらの食品は、そのまま喫食されるうえ、冷蔵保存中にもリステリア菌がゆっくり増殖する可能性があるため、特に注意が必要である。
また、保存期間が5日以上のRTE食品では、製品のpH、水分活性、保存温度、包装条件などを踏まえて、リステリア菌が増殖し得るかどうかを評価する必要がある。単に「5日以上」というだけで自動的にカテゴリー1.2に分類されるわけではないが、保存期間が長いほど、増殖リスクを検討する重要性は高くなる。

カテゴリー1.3:リステリア菌の増殖が起こらないRTE食品
カテゴリー1.3は、食品のpH、水分活性、保存状態などの特性により、Listeria monocytogenes の増殖が起こらないと考えられるRTE食品である。
EU規則では、以下のような条件を満たすRTE食品は、リステリア菌の増殖を支持しない食品として扱われる。
- pHが4.4以下または水分活性(aw)が0.92以下
- pHが5.0以下かつ水分活性が0.94以下
- 冷凍RTE食品(なお、冷凍食品であっても、解凍後に冷蔵状態で一定期間保存される場合には、解凍後の条件を含めて評価する必要がある。)

カテゴリーごとに適用されるリステリア菌の規格基準
ここまで、RTE食品がリステリア菌の増殖を支持するかどうかによって、カテゴリー1.1、1.2、1.3に分類されることを見てきた。
では、それぞれのカテゴリーには、どのような微生物基準が適用されるのだろうか。ここで重要なのは、EUの基準が単に「検出されるかどうか」だけではなく、「その食品でリステリア菌が増殖し得るか」「保存期間中に100 cfu/gを超えないことを示せるか」によって変わる点である。
カテゴリー1.1:特別な医療目的や乳幼児向け食品
基準:
- 25g中 Listeria monocytogenes 不検出(n=10)。
このカテゴリーでは、最も厳しい基準が適用される。乳幼児や特別な医療目的食品の対象者は、リステリア症の影響を受けやすい可能性があるためである。
カテゴリー1.2:リステリア菌の増殖が可能な食品
基準:
- 製造する食品事業者が、保存期間を通じて Listeria monocytogenes が100 cfu/gを超えないことを科学的に示せる場合:100 cfu/g以下(n=5)(※EU規則上は、この科学的根拠は所管当局が妥当と判断できる水準であることが求められる。)
- 上記を科学的に示せない場合:25g中不検出(n=5)
2026年7月1日から適用される改正では、この「示せない場合」の扱いがより明確化される。すなわち、製造業者の管理下を離れた後の流通・販売段階においても、保存期間中に100 cfu/gを超えないことを示せない製品には、25g中不検出基準が適用される。
カテゴリー1.3:リステリア菌の増殖が起こらない食品
基準:保存期間中にリステリア菌が100cfu/g以下であること(n=5)。
このカテゴリーは、食品自体のpH、水分活性、保存条件などにより、リステリア菌の増殖を支持しないことが前提となる。
これらの基準を正確に理解し、製品開発や品質管理に活用することは、食品安全を向上させる鍵となる。
以下のチャートは、このカテゴリー分類と規格基準を視覚的に整理したものである。

リステリア菌の増殖を支持しない食品をどう設計するか
ここまで、EU規則におけるRTE食品のカテゴリー分類と、それぞれに適用されるリステリア菌の基準を見てきた。
ここからは、食品事業者にとって実務上もっとも重要な問い、すなわち、自社のRTE食品を「リステリア菌の増殖を支持しない食品」と説明するためには、何を根拠にすればよいのかを整理する。EU規則が示すpH、水分活性、保存期間、増殖ポテンシャルなどの基準は、この問いに答えるための重要な手がかりとなる。
pHと水分活性による基本条件
EU規則では、以下の条件を満たすRTE食品は、リステリア菌の増殖を支持しない食品として扱われる。
pHが4.4以下、または水分活性(aw)が0.92以下
pHが4.4以下の食品、あるいは水分活性が0.92以下の食品では、リステリア菌の増殖は強く抑制される。
たとえば、酸性度の高い食品や、水分活性の低い食品では、リステリア菌が増殖に必要とする環境が整わない。このため、食品自体の性質によって、リステリア菌の増殖を支持しない食品として扱うことができる。

pHが5.0以下、かつ水分活性が0.94以下
もう一つ重要なのが、pHと水分活性を組み合わせた条件である。
pHが5.0以下、水分活性が0.94以下という条件は、それぞれ単独で見ると、リステリア菌の増殖限界としてはやや緩く見えるかもしれない。しかし、これらが組み合わさることで、リステリア菌にとっては増殖しにくい環境となる。
これは、食品微生物制御における「ハードル理論」の典型的な考え方である。

複数のハードルを組み合わせる考え方
ハードル理論とは、食品中の微生物の増殖や生残を抑えるために、複数の制御要因を組み合わせる考え方である。たとえば、pH、水分活性、塩分濃度、保存温度、包装条件、保存期間などは、それぞれが微生物にとっての「ハードル」となる。ひとつひとつの条件だけでは微生物の増殖を完全に抑えられない場合でも、複数の条件が組み合わさることで、微生物が増殖しにくい環境を作ることができる。
リステリア菌の管理でも、この考え方は非常に重要である。たとえば、発酵食品、塩蔵食品、酸味のある惣菜、低水分活性の食品などでは、pHや水分活性に加えて、塩分、競合微生物、保存温度、保存期間などが組み合わさり、リステリア菌の増殖を抑える方向に働く場合がある。
pH・水分活性だけでは判断できない場合
一方で、すべての食品がpHと水分活性だけで明確に分類できるわけではない。EUのガイダンスでは、以下のような考え方も、リステリア菌の増殖を支持しない食品を判断するうえで重要とされている。
保存期間が短いRTE食品
EUの考え方では、保存期間が5日未満のRTE食品は、リステリア菌の増殖を支持しない食品として扱われる。
これは、リステリア菌が冷蔵温度でも増殖できる菌であっても、保存期間がきわめて短ければ、実際に問題となるレベルまで増殖する時間が十分に確保されない、という考え方に基づいている。
したがって、保存期間が短いRTE食品では、pHや水分活性がカテゴリー1.3の明確な基準を満たしていない場合でも、保存期間の短さそのものが、リステリア菌の増殖を抑える重要な要因となる。
ただし、この基準は「短期間だから衛生管理が不要」という意味ではない。製造環境からの汚染を防ぐための衛生管理や環境モニタリングは、保存期間の長短にかかわらず重要である。

増殖ポテンシャル0.5 log CFU/g以下という考え方
pHや水分活性だけでは判断が難しい食品では、チャレンジテストや保存試験によって、実際の食品中でリステリア菌がどの程度増殖するかを確認する。
このとき重要になるのが、増殖ポテンシャルである。
保存期間中のリステリア菌の増加が0.5 log CFU/g以下であることが確認された食品は、リステリア菌の有意な増殖が起こらない食品、すなわちリステリア菌の増殖を支持しない食品として扱える。

この基準は、pHや水分活性の数値だけでは単純に分類できない食品にとって重要である。たとえば、冷蔵保存される惣菜、サンドイッチ、調理済み肉製品、水産加工品などでは、実際の製品条件下でリステリア菌がどの程度増殖するかを確認することが、期限設定や製品設計の根拠となる。
冷凍食品の場合
冷凍状態では、リステリア菌は通常増殖しない。このため、冷凍RTE食品は、リステリア菌の増殖を支持しない食品として扱われる。
しかし、冷凍食品であっても、解凍後の取り扱いには注意が必要である。解凍後すぐに消費される食品であれば、リステリア菌が増殖する時間は限られる。一方で、解凍後に冷蔵状態で数日間保存される食品では、その解凍後の保存条件を含めてリステリア菌の増殖可能性を評価する必要がある。
したがって、冷凍食品については、冷凍状態だけでなく、解凍後の保存温度、保存期間、喫食方法まで含めて判断することが重要である。

改めて今回の改正ポイント
最後に、今回のEU規則 2024/2895 の改正のポイントについて、改めて整理する。
今回の改正は、事業者に対して「保存期間中の安全性を科学的に証明するか、あるいは製品自体をリステリア菌が増殖しにくい設計に見直すか」の2択を、事実上強く迫る構造になっている。規則のテキストそのものに「二つの選択肢しかない」と書かれているわけではない。しかし、改正された基準を現実の食品製造・流通に当てはめると、実務上はこの方向に行き着くと考えられる。
流通段階全体での「不検出(ゼロトレランス)」の要求
新しい規則の付属書(Annex)では、「リステリア菌の増殖を支持できるそのまま喫食される食品(Ready-to-eat)食品」において、消費期限全体を通じて100 cfu/gを超えないことを証明できない場合、「消費期限内に市場に置かれている製品(Products placed on the market during their shelf-life)」に対して、「25g中に検出されないこと」という基準が適用されると明記された。
実際、Regulation (EU) 2024/2895 の前文第4項では、旧規則の問題点について、次のように述べている。
“Regulation (EC) No 2073/2005 does not provide for a criterion which applies to those foods once they have left the immediate control of the producing food business operator while it is still not possible to ensure that the limit of 100 cfu/g will not be exceeded throughout their shelf-life.”
すなわち、製造業者の直接管理を離れた後で、なお保存期間中100 cfu/g以下を保証できない食品について、旧規則には適用される基準が明確に定められていなかった。
今回の改正のポイントを、保存期間中100 cfu/g以下を示せないカテゴリー1.2食品に絞って整理すると、以下のようになる。
| EU規則 | 出荷時 製造者の直接管理下 | 保存期間中 市場に置かれている期間 |
|---|---|---|
| 2026年7月1日 改正前 | L. monocytogenes 25g中不検出 | 25g中不検出基準 明確な適用なし |
| 改正後 | L. monocytogenes 25g中不検出 | L. monocytogenes 25g中不検出 |
実務上の重さ
この対象となるのは、そもそもリステリア菌の増殖を支持する食品である。出荷時に25g中不検出を確認したとしても、それは検査したサンプルで検出されなかったという意味にすぎない。極めて少量の菌が製品中に存在する可能性を、完全にゼロにすることはできない。
製品がリステリア菌の増殖を支持する性質を持つ以上、保存期間中の温度条件や流通条件によっては、少量の菌が増殖し、保存期間中の検査で検出される可能性がある。したがって、リステリア菌が増殖し得る食品でありながら、保存期間中100 cfu/g以下を科学的に示せない場合に、保存期間中ずっと25g中不検出を前提に管理することは、実務感覚から見ればほとんど不可能に近い要求である。
ここでいう難しさは、単に「陰性基準だから厳しい」という意味ではない。たとえばサルモネラのように冷蔵保存中にほとんど増殖しない菌であれば、出荷時に陰性であることは、その後の通常流通中の安全性をかなり強く示す根拠になる。一方、リステリア菌は冷蔵下でも増殖し得るため、出荷時に25g中不検出であっても、保存期間中ずっと不検出であり続けることを保証するのははるかに難しい。

事業者が迫られる二つの方向
したがって、旧規則の「出荷時だけ不検出ならOK」という運用でしのいでいた事業者は、今回の規則改正によって実質的に以下の2対応を迫られることになる。
- オプションA(100 cfu/gの証明): チャレンジテスト(接種試験)や予測微生物学などを駆使して、流通段階でどんなに菌が増殖しても消費期限の最後まで確実に「100 cfu/g」を超えないことを所轄官庁が納得する形で科学的に証明する。
- オプションB(製品設計の変更): 水分活性やpHを調整したり、保存料を追加したりすることで、製品そのものを「リステリア菌の増殖を支持しない食品」のカテゴリーに変更し、そもそも菌が増殖しない製品を作る。
結論
前文の第5項に「生産から流通までのすべての段階で同等の公衆衛生保護を保証するため」とあるように、EU当局の狙いはまさにそこにある。「出荷時さえゼロなら、流通後の増殖リスクは責任を持たない」という逃げ道を塞ぐことで、結果として事業者に「最後まで100 cfu/g以下に抑え込める確証を持つか、増殖しない製品を作るか」のどちらかの厳格な管理を強制する規則になっていると解釈できる。

本規則改正の詳細に関しては、下記解説記事も合わせてご覧ください
