2026年6月30日、EFSA(欧州食品安全機関)がインスタントラーメンを原因食品とするサルモネラの多国間アウトブレイクについて報告書を公表しました。即席麺を原因食品とするサルモネラ食中毒事例は、少なくとも筆者が確認した範囲では過去に前例が見当たりません。加熱調理を前提とする食品でのサルモネラ事例として、整理しておく価値があります。
事案の概要
2025年11月以降、EU・EEA13か国および英国で確定症例106例、うち49人が入院に至っています。罹患者は子どもと若年層に偏っています。原因食品はウクライナの単一製造業者によるフレーバー付き即席麺で、ポーランドの卸売業者を経由してドイツ、リトアニア、デンマークなど複数国に流通していました。
疫学的関連に加え、微生物学的な裏付けも得られています。ドイツおよびリトアニアで採取された「チキン味」「ホットチキン味」の製品からアウトブレイク株のSalmonella Stanley(ST2045)が検出されました。

なぜ「乾燥した即席麺」で食中毒が起きたのか
ここでまず引っかかる方が多いのではないでしょうか。即席麺は乾燥食品であり、水分活性が低く、サルモネラが増殖できる環境ではありません。それなのになぜ食中毒に至ったのか。
答えは、調理方法にありました。EFSAは6月30日の発表後、7月1日に本事件の詳細例パターンを報告書にまとめ発表しています。その報告書によると、ラトビアで確認された3症例(7歳〜11歳(中央値9歳))のうち2人の男子児童が生が、表示通りに熱湯を注がず、乾燥麺と付属の調味料をそのまま摂取していたことが確認されています。ECDCも、この製品が「調理を要する非即食(non-ready-to-eat)食品」であり、表示通りの調理指示に従うことの重要性を強調しています。
つまり本事案は、加熱によって菌を死滅させる工程を経ないまま摂取された結果、生残していたサルモネラがそのまま感染につながったケースです。「増殖できない」ことと「感染を起こさない」ことは別問題であるという、食品微生物学の基本原則がそのまま表れた事例といえます。

低水分活性食品×サルモネラという既知のリスク類型の延長
実はこの原則自体は目新しいものではありません。低水分活性食品において菌が増殖しないまま長期間生残し、少量の摂取でも感染に至る事例は、サラミソーセージ、チョコレート、ピーナッツバター、粉末サプリ、ドックフードなどでこれまでも報告されてきました。
即席麺はこの類型に連なる事例と位置づけられます。従来の該当食品と異なるのは、世界的に流通量が大きく、日本にとっても主要な輸出品目の一つであるという点でしょう。この意味で、業界としても看過しにくい事例といえます。
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二つの要因が重なった可能性
本事案を、先述の消費者側の誤使用のみに帰結させるのは、現時点の情報からは早計です。EFSAの報告書は、汚染源が製造施設側に存在する可能性、および同一ブランドの製品から別のサルモネラ株も検出されている点にも言及しています。したがって本事案は、
- 消費者側の要因:加熱前提食品における非加熱喫食のリスク
- 製造側の要因:製造工程における汚染管理の課題
という二つの要因が重なって生じた可能性が高いと考えられます。いずれか一方のみに原因を求めると、再発防止策の設計を誤ることになります。

RTE(Ready-to-Eat)食品の定義との関係
ここで、近年の欧州の考え方にも少し触れておきます。2025年12月18日に改訂された欧州委員会のガイダンス文書(SANCO/11510/2013)では、RTE食品とnon-RTE食品の分類・表示について、興味深い整理が示されています。同文書のSection 4では、Regulation (EC) No 2073/2005 Article 3.1(b)に基づき、食品事業者は、自社製品が「合理的に予見可能な流通・保管・使用条件」のもとで食品安全基準を満たすよう措置を講じる必要があると説明しています。そのうえで、non-RTE製品、つまり加熱などの調理を前提とする製品についても、消費者が意図された使用法から逸脱して摂取する可能性を評価すべきであるとしています。また、その評価では、国や集団による食習慣・調理方法の違いなど、文化的要因によって消費パターンが変わる可能性も考慮すべきとされています。さらに、その評価結果は、消費者への適切な情報提供を行うための判断材料になるとともに、製品をRTE食品として再分類することを検討すべきかどうかの判断にも関係するとされています。
2025年12月18日に改訂された欧州委員会のガイダンス文書の解説記事はこちらをお読みください。
このガイダンスはListeria monocytogenesを対象としたRTE食品の文書であり、今回のSalmonella Stanleyによる即席麺アウトブレークにそのまま直接適用されるものではありません。しかし、食品安全の考え方としては非常に示唆的です。今回の事例では、一部の子どもが即席麺を調理せず、乾燥したまま、調味料をつけて食べていたことが報告されています。つまり、製造者が「加熱して食べる食品」として設計した製品であっても、実際の消費場面では異なる食べ方が起こり得るということです。

この点は、低水分食品のリスク評価を考えるうえで重要です。食品安全では、表示上の分類だけでなく、消費者が実際にどのように食べるか、どの部分が加熱され、どの部分が加熱されずに口に入る可能性があるかを考える必要があります。このように考えると、加熱を前提とする食品であっても、そのことだけを理由に、消費者の実際の食べ方をハザード分析の外に置くことは難しくなっています。むしろ、製品設計や表示が、合理的に予見可能な使用実態を踏まえたものになっているかどうかが、これまで以上に重要になっているといえます。
まとめ
今回のEUの事案は、以下の三点に整理できます。
- 低水分食品におけるサルモネラの生残というリスク類型が、流通量の大きい主要食品カテゴリーに及んだ事例であること
- 消費者の非加熱喫食と製造工程の汚染管理という、二つの要因が重なって生じた可能性が高いこと
- 2025年12月のEUガイダンス改訂により、「加熱前提だからRTEの議論の対象外」という理解は、規制上も成り立たなくなっていること
では、日本のQC担当者にとって、この事案から何を持ち帰るべきでしょうか。
即席麺を含む多くの加熱前提食品は、日本国内向けだけでなく海外にも輸出されています。日本で一般的な即席麺製造では、めん本体は蒸熱や油揚げ、熱風乾燥などの加熱・乾燥工程を経て製造されています。この点で、今回の事案を日本の即席麺一般の安全性にそのまま重ねる必要はありません。
しかし、輸出先の消費者の食習慣は、必ずしも日本国内の消費者と同じではありません。EUのガイダンス改訂が示すように、今後は「表示通りに調理される」という前提そのものを、輸出先ごとの食習慣を踏まえて再検証することが求められる可能性があります。自社製品が加熱を前提とするものであっても、それのみをもってRTE食品としてのハザード分析から除外してよいとは限りません。表示上の調理指示と、それが実際にどの程度遵守されているか(特に輸出先市場において)を、改めて確認しておく価値があるでしょう。


