サルモネラ菌は乾燥食品においても生存可能であり、その中でもドッグフードは特に注意が必要です。アメリカ合衆国をはじめとする世界各国で、ドッグフード由来のサルモネラ食中毒が頻繁に報告されています。日本でも2019年8月にペットフードに汚染したサルモネラ菌による被害により、68匹のペットに嘔吐や下痢、血便、死亡などの症状が発生しています(ヒトの被害は報告されませんでした)。さて、2023年11月9日のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の発表によると、アメリカでドッグフードが原因とされる幼児の食中毒事件が発生しました。本記事では、この事件の背後にある詳細な経緯を解明します。
![](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/image-dog-food-1024x573.jpg)
2023年のサルモネラ食中毒事件:CDCの報告から
11月9日のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の報告によると、事件は次のとうりです。
2023年1月14日から8月19日にかけて、アメリカ合衆国の7つの異なる州で1歳未満の赤ちゃん(7事例のうち6事例は1歳未満の赤ちゃん、残り1事例は65歳以上の高齢者)によるサルモネラ食中毒が報告されました。
アメリカでは食中毒の原因となる菌の全ゲノム配列がPulseNetシステムを使用したデータベースで一括して管理されています。このたび、複数の州にわたる1歳未満の赤ちゃんに発生したサルモネラ食中毒のケースがCDCの職員の注意を引きました。7事例のうち6事例は、1歳未満の赤ちゃんに関連していました。
![データを見て考え込むCDCの職員。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/CDC-staff-pondering-over-the-data-1024x683.jpg)
そこで、これらの臨床株の全ゲノム配列を比較したところ、全ての州での一切未満の赤ちゃんのサルモネラ、臨床株のゲノムがほぼ一致しました。
![パソコンを除いて驚くCDCの職員。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/CDC-worker-surprised-except-for-the-computer-1024x769.jpg)
これらの事実から、同一の食品または汚染源が食中毒の原因である可能性が疑われました。このため、CDCの職員は、これまでの食中毒事例を調査した地方衛生局に連絡を取り、患者の食中毒発生時の詳細な履歴の調査を依頼しました。特に、犬や猫などのペットの飼育状況についての情報も収集するよう求めました。
![電話をかけるCDCの職員。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/CDC-worker-making-a-phone-call-1024x678.jpg)
調査結果によると、面接を受けた5人のうち、全員(100%)が犬と接触した、あるいは家庭内で犬を飼っていると報告していることが明らかになりました。
![アンケートを見て驚くCDCの職員。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/CDC-worker-surprised-to-see-the-questionnaire-1024x633.jpg)
地方衛生当局は、サルモネラ食中毒の患者に対して再度インタビューを実施しました。このインタビューで、どのメーカーのドッグフードを購入していたかを詳細に聞き取りました。その結果、多くの患者の家族がVictorブランドのHi-Pro Plusドライ・ドッグフードの特定ロットを使用していたことが明らかになりました。
![主婦がインタビューに答えている。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/Housewife-being-interviewed-1024x643.jpg)
以前のサウスカロライナ州農務省の定期検査により、一部の小売店から回収されたVictorブランドのHi-Pro Plusドッグフード(ロットコード1000016385)からサルモネラ菌が検出されていました。今回、CDCの全ゲノム配列解析により、このドッグフードから分離されたサルモネラ菌が、アメリカ各州で過去一年間に報告された一歳未満の赤ちゃんの臨床株と一致することが明らかになりました。これにより、これらの赤ちゃんが経験したサルモネラ食中毒は、この特定のドッグフードの汚染が原因であることが確認されました。
![データを報告する女性のCDC職員。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/Female-CDC-worker-reporting-data-1024x623.jpg)
CDCは、犬を飼っている家庭に対し、ドッグフードがサルモネラ菌に汚染される可能性があることを常に意識するよう警告しています。さらに、ドッグフードでサルモネラ菌が確認された場合、CDCは速やかにリコール情報を発信すると述べています。このようなリコール情報が発信された際には、消費者は該当するペットフードを速やかに廃棄することが求められます。
なぜドッグフードがサルモネラ食中毒の原因となるのか?
多くの読者は、1歳未満の赤ちゃんがドッグフードを誤って食べることが原因ではないかと考えるかもしれません。しかし、実際には赤ちゃんがドッグフードを食べるケースは稀です。より一般的な原因は、ドッグフードを食べた犬の唾液や糞便が部屋(毛、床、敷物、おもちゃ、家具等)を汚染し、赤ちゃんがそれらに触れることによってサルモネラ菌に汚染されることです。
![ドッグフードを食べているダックスフンド。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/Dachshund-eating-dog-food-1024x672.jpg)
犬自身も、サルモネラに汚染されたドッグフードを食べて症状が悪化することがありますが、症状を示さない犬もいます。いずれにしても、これらの犬の糞便や唾液にはサルモネラ菌の存在が考えられます。1歳未満の赤ちゃんは、床に触れた手を口に持っていくことが多いため、この行為を制限することは親にとって非常に困難です。
![具合の悪い赤ちゃんを抱いている主婦とその横に居るダックスフンド。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/Housewife-holding-sick-baby-and-dachshund-beside-her-1024x682.jpg)
したがって、一度サルモネラに汚染されたドッグフードが家庭に持ち込まれ、犬がそれを食べてしまうと、サルモネラ食中毒のリスクを防ぐことは難しくなります。このため、リコールや廃棄情報が出された場合は、速やかに対応し、部屋を徹底的に清掃することが最善の対策とされています。
![掃除をしている主婦とその横に居るダックスフンド。](https://foodmicrob.com/wp-content/uploads/2023/11/Housewife-cleaning-and-dachshund-beside-her-1024x729.jpg)
本記事では、ドッグフードにおけるサルモネラ問題を詳しく解説しました。また、乾燥食品(低水分活性食品)に潜むサルモネラのリスクについても、当ブログでは以前より取り上げています。この問題に関心のある方は、以下の関連記事もご覧いただくことをお勧めします。
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