ある国でのカンピロバクター腸炎の食中毒発生確率は、食鳥処理場でのカンピロバクターの菌数レベルによって決定されます。今回紹介するのは、英国における先進的な取り組み事例です。「カンピロバクターが1gあたり1,000cfuを超える」鶏肉を全体の7%以下に抑えることを目標としています。鶏肉のカンピロバクター汚染率の公表義務により、大手スーパー間で熾烈なカンピロバクター汚染率公表競争が繰り広げられています。一方で、小規模小売店舗の実態についてはあまり知られていません。本記事では、その実態について詳しく紹介します。
日本では発生がとまらないカンピロバクター食中毒
日本国内ではカンピロバクター腸炎による食中毒が相次いでいます。厚生労働省の2020年の食中毒統計によると、カンピロバクターによる食中毒は182件発生しており、これは2位のノロウイルス(99件)や3位のサルモネラ菌(33件)を大きく上回る件数です。
カンピロバクターが原因と特定された食中毒について、ネットニュースのタイトルだけを見ても、2021年11月だけで以下のような事例が報じられています。全国各地で、小規模ながらカンピロバクターによる食中毒が頻繁に発生していることが、これらのニュースタイトルからも伺えます。
11月11日 長崎市内の居酒屋で食中毒 2日間営業停止
11月14日 鹿児島・薩摩川内市の旅館で食中毒発生 2日間の営業停止処分 –
11月17日 湯沢保健所管内で4人が食中毒 家庭内の食事が原因
11月18日 千葉市の居酒屋で食中毒 唐揚げや鶏レバーなど食べた7人に症状
11月18日 三重県鳥焼肉店で食中毒 小中学生ら16人が下痢や発熱
11月29日 宮崎市居酒屋で食事の11人が食中毒 2日間の営業停止処分
11月29日 都留市の飲食店 客3人食中毒 カンピロバクター原因
カンピロバクターによる食中毒の原因は、もちろん鶏肉です。カンピロバクターの最低発育温度は30°Cであるため、流通や販売、調理過程で増殖することはありません。この点で、サルモネラ菌などとは異なります。カンピロバクターの場合、食鳥処理場から市場に流通する鶏肉の初期汚染レベルが唯一重要となるのです。
※カンピロバクターの流通過程における挙動について基礎事項を確認されたい方は、下記の記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ③カンピロバクター
日本でも現在鶏肉のカンピロバクターの汚染レベルの定量的な評価の取り組みが実施され始めています。
英国での小規模小売店舗での鶏肉のカンピロバクター汚染率に関する最新報告
さて、今回紹介するのは英国の先端的取り組み事例です。2021年11月に、英国食品基準庁が、英国で流通している鶏肉のカンピロバクター汚染率に関する最新版(2019年8月から2020年10月までの調査結果)の成績評価報告を発表しました。
英国はもう数年ほど前から、公衆衛生庁の主導により徹底的な市販の鶏肉のカンピロバクターのコントロールをに向けて施策を強化しています。
現在、英国食品基準庁(FSA)は以下の目標を最大許容レベルとして掲げています:
- カンピロバクターが1gあたり1,000cfuを超える鶏肉を全体の7%以下に抑えること

そこで、この目標達成を確認するため、英国公衆衛生庁(Public Health England, PHE)では毎年、小売店舗を対象とした調査を実施しています。
報告書の要点は次の通りです:
- 英国全体で、2019年8月から2020年10月の間に1,008羽の鶏をサンプリング調査しました。調査対象は、小規模小売店舗で販売されている鶏肉です。調査の結果、カンピロバクターは鶏皮サンプルの12.8%で1グラムあたり1,000cfuを超えていました。
- 前年(2018年〜2019年)の調査では10.8%、前々年(2017年〜2018年)の調査では14.7%が1,000cfu/gを超えていました。つまり、この3年間の推移は14.7% → 10.8% → 12.8%となり、改善効果は明確には認められない状況です。
熾烈な英国の大手スーパー、小売りのカンピロバクター汚染公表競争
ただし、今回の調査はあくまでも小規模小売店(お肉屋さんなど)における成績です。一方で、百貨店やスーパーなどの大規模店舗での成績はこれよりもはるかに良好です。
英国では、鶏肉を販売している主要なスーパーマーケットや小売店が、毎年販売されている鶏肉のカンピロバクター汚染割合を公表しています。例えば、以下のような企業が該当します:
以下に示すのは、私がインターネットで調査した範囲で得られた主要スーパーマーケットおよび大型小売店舗における過去5年間の汚染率推移をグラフ化したものです。このグラフから、これらの大型店舗で販売される鶏肉のカンピロバクター汚染率が、国の目標値よりもかなり低く抑えられていることが分かります。
各社は競い合いながら、鶏肉のカンピロバクター汚染率を下げるための取り組みを強化しています。

このような競争の背景について説明します。
英国では数年前から、国内での鶏肉のカンピロバクター汚染率を低減するために、大手小売業者(スーパーマーケットなど)にプレッシャーをかけるという戦略が採用されました。その具体的な戦略とは、これらの大手小売業者に対し、販売される鶏肉のカンピロバクター汚染率を公表させることです。
汚染率の公開により、消費者の目がより厳しくなるため、各小売業者は自社で販売する鶏肉のカンピロバクター汚染率を低下させるべく努力を強化することになりました。

カンピロバクターの鶏肉での汚染率を下げる唯一の手段は、食鳥処理場でのカンピロバクター初期汚染を減らすことです。この点で、サルモネラなど他の感染型食中毒菌とは、食中毒防止対策が異なります。
※ カンピロバクター の食中毒防除対策の基礎事項を確認されたい方は下記の記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ③カンピロバクター
そこで、大手スーパーのバイヤーは取引先の食鳥処理場に対し、カンピロバクターの汚染率を下げるよう圧力をかけることになります。このような仕組みによって、過去数年間、英国の大手小売用スーパーは自社で販売する鶏肉のカンピロバクター汚染率を減少させてきました。また、前述の通り、各社は毎年、自社で販売する鶏肉のカンピロバクター汚染率を公式ホームページで公表しています。
この汚染率は消費者団体や一般消費者から注目されており、成績が悪い場合には企業イメージに直接的な影響を及ぼす可能性があります。

このような背景を踏まえ、過去数年間で英国の大手小売業やスーパーマーケットで販売される鶏肉のカンピロバクター汚染率は、国の目標値である7%をはるかに下回る水準で推移しています。
小規模小売店舗販売の鶏肉の汚染率はなかなか改善していない
ただし、これらの成果は、食鳥処理場などに圧力をかけることができる大手の小売業やスーパーマーケットに限られた話です。今回の調査でも明らかになったように、英国に存在する小規模な小売店舗での鶏肉のカンピロバクター汚染率は依然として改善が見られません。
特に、小規模な小売店舗の中でも、小規模チェーン店舗内に設置された店舗よりも、いわゆる町のお肉屋さんなどで販売される鶏肉の方が、カンピロバクターの高い汚染が認められる場合が多いことが分かりました。

今後の国全体の施策として、このような小規模な小売店舗に鶏肉を提供している食鳥処理場への国としての介入を含む政策を通じて、汚染率を改善していくことが必要であるとされています。