食中毒菌10種類の覚え方 ③カンピロバクター

住処からドミノ倒しに理解する諸性質

個別の食中毒菌の性質を理解するためには、まず、それぞれの住処を理解することが重要である。住処を理解することによって、その他の性質はドミノ倒しのように連続的に理解できる。

 まず

1. カンピロバクターの住処は鳥類の腸の中である。 腸の中は水が豊富である。

2.従ってカンピロバクターはグラム陰性菌と理解できる。

3.また、グラム陰性菌であれば感染型食中毒菌と理解できる。

4.カンピロバクターが他の感染型食中毒菌と根本的に異なる点は増殖温度である。カンピロバクターの至適温度は42°と高い。最低増殖温度が30°Cである。

5.カンピロバクターは他のグラム陰性細菌と同様乾燥とか高熱などの物理的なストレスに対しては弱い。

6.カンピロバクターは酸素に対する要求性について大きな特徴を持っている。微生物の増殖との酸素の関係については、酸素を増殖に要求する細菌を好気性細菌、酸素があってもなくてもどちらの環境でも増殖できる細菌を通性嫌気性細菌と呼び、酸素がないと環境でのみ増殖できる細菌を偏性嫌気性細菌と呼ぶ。しかし、カンピロバクターはこの3つの分類のいずれにも所属していない。カンピロバクターは空気中の酸素濃度20%では増殖することができない。また一方で、カンピロバクターは真空包装などのような酸素濃度が0%の場合では増殖することもうできない。カンピロバクターは3%から15%の中間的な酸素濃度でのみ増殖することができる。このような酸素要求性の性質を微好気性細菌と定義する。カンピロバクターの増殖と酸素に関する特性は、それが鳥やその他の哺乳動物の腸の中にだけに住んでいることに関係している。


7.カンピロバクターは、上述したように、鶏肉やその加工品など言われる食品中で増殖しない。 従って pH や水分活性や保存料でカンピロバクターの食品中での増殖を抑えるなどという概念は存在しない。

8.また、カンピロバクターはグラム陰性菌なので、選択培地においては、胆汁酸や色素類などの疎水性官能基を持つ化合物を用いることによりグラム陽性菌の増殖を抑えて選択的にカンピロバクターを増殖させることができる。

 以上を、ドミノ倒しのように連続的に理解するとよいだろう。

カンピロバクタ―はらせん菌

 カンピロバクターの形も特徴的である。一般的に細菌は球菌と桿菌の二つに分けることができる。しかしカンピロバクターは球菌でも桿菌でもない。らせん状の形をしている。らせん状の形をしている微生物はそう多くない。カンピロバクターに似ている細菌として胃潰瘍の原因となるヘリコバクターピロリなどがある。元々ヘリコバクターピロリも、カンピロバクターの一つと考えられていた。 しかし、ヘリコバクターピロリは16SリボゾーマルDNAよる分子系統解析にカンピロバクターとは別の属に別れた。

食品流通とカンピロバクター


 

カンピロバクターの最適増殖温度が42°C付近であり、他の食中毒細菌よりも最適増殖温度が高いことを述べた。さらに重要なことは、カンピロバクターの最低増殖温度が30°Cであることである。鶏肉は一般的にはチルド流通されるが、仮に室温で放置されたとしても、熱帯地方は別として、多くの場合室温も温度は30°Cをこえることはない。言い換えると、カンピロバクターは鶏肉やその他の食品の流通においては増殖しない。このことはカンピロバクターの大きな特徴である。腸管出血性大腸菌やサルモネラ菌の最低増殖温度は10°C付近である。従って、食品を室温に放置した場合には、これらの感染型食中毒菌は増殖してしまう。一方、カンピロバクターは、温度管理不備で鶏肉を流通したところでも増殖はしない。また、カンピロバクター、微好気性のため、鶏肉やその他の食品では増殖しない。
 すなわちカンピロバクターの場合には食品中で増殖しないので、冷蔵庫に入れるとか、温度管理を徹底するなどという管理方法は意味を持たない。また食品中のカンピロバクターの増殖を抑えるための抗菌剤の開発などという研究も存在しない。カンピロバクター食中毒を防ぐための最も重要な管理ポイントは、養鶏場における鶏のカンピロバクターの初期汚染レベルをいかに抑制するかということになる。

ギランバレー症候群

 カンピロバクターの症状は比較的軽い。 一般的には2日から5日で回復する。ところが、カンピロバクター食中毒から回復した後10日後に1000人に1人はギランバレー症候群を発症するといわれている。ギランバレー症候群とは何か。この病気になると私たちの 手足の神経が麻痺を起こす。そして、私たちの運動や歩行が困難になる。重症の場合には呼吸困難にもなる。
 ではなぜカンピロバクターの食中毒をかかった後にギランバレー症候群になるか?ギランバレー症候群のメカニズムは、ヒトの免疫細胞が私たち自分自身の神経細胞を攻撃してしまうことにあると言われている。ではなぜヒトの免疫細胞が自身の神経細胞を攻撃してしまうの?その理由は私たちの神経細胞の表層にあるポリサッカライドと、カンピロバクターの外膜にあるそれの構造が似ているからだと考えられている。すなわちカンピロバクター食中毒にかかった場合に、私たちの免疫細胞がカンピロバクターの外膜にあるポリサッカライドを標的として攻撃してしまう。その結果カンピロバクターが免疫細胞により撃退される。しかしカンピロバクターが撃退された後も、人の体内のの免疫細胞は残る。そしてこれらの免疫細胞が、カンピロバクターの外膜にあるポリサッカライドと類似したポリサッカライドを持っている私たちの手足の細胞を攻撃してしまう理由である。このようなことによってギランバレー症候群になる。