欧州食品安全機関(EFSA)は食品の高圧処理(HPP)の効果について評価書を発行しました

 食品の高圧処理は、食中毒の原因や食品を腐敗させる微生物を死滅させる非加熱の食品保存技術です。高静水圧処理(HHP)または超高圧処理(UHP)とも呼ばれています。2022年3月8日に欧州食品安全機関(EFSA)は高圧加工食品の安全性と効果、特に、調理済み食品(RTE)中のリステリア菌の減少に使用できるかどうか、生乳の加熱殺菌の代替法として使用できるかどうかについて、評価書を公開しました。

評価書を発行するに至った背景

 EUでは、食品の高圧処理は特に規制されていませんが、動物由来の製品にこの技術を使用する施設は、認可を受ける必要があります。本技術は、EUでは、主に、包装済みのジュース、ソース、ディップ、水産品、肉製品、調理済み食品に適用され、サプライチェーンのさまざまな場面で利用されています。これまでの研究では、味、食感、外観、栄養価への影響はほとんどないとされています。各国当局および産業界へのアンケートによると、欧州では高圧処理の導入に大きなばらつきがあり、多くの施設がある国もあれば、全く導入されていない国もあります。

 このたび、欧州委員会の要請により、生物学的危害に関する科学パネル(BIOHAZ)は、食品の高圧処理(HPP)を適用した場合の有効性と微生物学的および化学的安全性を評価するよう要請されました。特に、次の3点について具体的な評価要請がありました。

  • 高圧処理食品は従来の食品に比べて、化学的および微生物学的食品安全性における潜在的リスクを高める可能性があるか
  • 調理済み食品(RTE)中のリステリア菌の減少に使用できるかどうか
  • 生乳の加熱殺菌の代替法として使用できるかどうか
高圧処理殺菌をイメージする図

評価結果の概要


非加熱HPP処理では芽胞を不活性化できないため、生物の栄養細胞の減少(log10単位)という観点からの影響のみを評価しました。

高圧処理全体に関する見解

文献調査を行った結果、次の結論が得られました。

  • 食品の高圧処理をすることにより高圧処理特有の新たな微生物学的な危害(例えば、細菌芽胞の活性化等)が生じることはないと、99-100%確実(ほぼ確実)と判断されました。
  • マイコトキシンやプロセス汚染物質は、従来の食品と比較して、HPP処理された食品の摂取による懸念が増加することはないと95%以上の確実性で判断されました。
  • 高圧処理された食品の化学的食品安全の追加懸念(例えば、プリオン感染性の可能性等)を生じさせないと結論づけられました。

 

高圧処理によって、新たなリスクが加わることはない
  • 食品の高圧処理の有効性に影響を与える主な要因は、食品の水分活性(aw)とpHであると結論づけられました。
  • 特に、低水分食品は水分含有率が40%以下の場合、微生物の不活性で化が低いため、通常はこの技術で殺菌効果はないと結論づけられました。
低水分食品だと微生物に水圧が伝わりにくい
  • pH(酸性度)に関しては、pHが低下すると高圧処理による微生物の不活性化が進むと結論づけられました。
  • 主な外部要因(すなわち加工関連)は、目標圧力と保持時間であると結論づけられました。

RTE食品におけるリステリア菌の削減

調理済み食品(RTE)中のしてリアの殺菌効果については次のように結論づけられました。

  • 高圧処理は、RTE調理済み食肉製品中のリステリア菌のレベルを低下させる。例えば、600 MPa-2.3 分、550 MPa-3.4 分、および 500 MPa-5.0 分を適用した RTE 調理肉製品では、2 log10 以上の低減が達成される。また、さらに保持時間を延長して、600 MPa-4.7 分、550 MPa-6.9 分、500 MPa-10.1 分を適用すると、5 log10 以上の低減が達成される可能性がある。
  • リステリア菌以外で、RTE 調理肉製品において重要なハザードとして特定されているサルモネラ菌と病原性大腸菌についても高圧処理の効果を検証しました。これら2つの病原体の微生物減少率は、文献検索によって集められたデータから評価しました。これらの病原菌は一般的にリステリア菌よりも高圧処理に対して感受性が高く、66~90%の確率でリステリア菌と同等以上に不活性化されると判断されました。
  • しかし、RTE調理済み食肉製品以外の、ソフトチーズや魚の燻製などの他の種類のRTE食品における高圧処理の効果は、それぞれのRTE調理済み食品が持っている諸要因の相互作用によって変化するため、高圧処理の効果を全体的に一般化して予測することは難しい。したがって、それぞれの食品について検証が必要であるとしました。
リステリア菌リスクに対する高圧処理条件については個別検証が必要

牛乳の殺菌への応用の可能性

 高圧処理は生乳に近い性質を保つことが期待できるため、低温殺菌の代替手段として認める要望が高まっています。今回の評価書では、次のように結論されました。

  • 現在、産業界で使用されている高圧処理での牛乳の病原菌の減少率は、法的要件により定められた加熱殺菌で達成される減少率より低い。
  • しかし、工業的に使用されている最も厳しい高圧処理条件(600MPa、6分)を行えば、黄色ブドウ球菌を除いて、国際標準機関が提唱するパフォーマンス基準(PC)(すなわち、Micobacterium bovisで5桁、リステリア菌、サルモネラ属、カンピロバクター属で8桁の菌数減少)を達成することができる(黄色ブドウ球菌については、この条件でも六桁しか菌数を減少できない)
ミルクの殺菌においてはパスツール殺菌に比べると高圧処理は現状では不十分

 業界では、微生物の不活化に400〜600メガパスカルの圧力が最も頻繁に適用され、一般的な保持時間は1.5分から6分です。

 今回のEFSAの評価書により、食品の高圧処理についてはますます注目が集まってくるでしょう。食品の高圧処理技術の詳細に関しては別記事で詳しく解説しました。下記をご覧ください。

食品の高圧処理殺菌