レストランで食事をする時、従業員の健康状態を気にしたことはありますか?実は、米国で発生する食中毒の約40%が体調不良の従業員から起きているという事実があります。今回発表されたCDCの調査によると、経営者の92%が従業員に体調不良時の報告義務を課していると回答しましたものの、その方針が明文化されている店舗は66%にとどまります。更に驚くべきは、FDAが推奨する「休職が必要な5つの症状」を全て盛り込んだポリシーを採用している店舗はわずか23%だということです。

 2023年6月2日にCDC米国小売食品施設を起因とする食中毒の原因を解析した報告書を発表しました。25の州および地域の保健所から報告された、2017年から2019年の間に米国のレストランで発生した800件の食中毒を対象としています。

明らかになった主な点は次の通りです。

❶ 病原体が確定または疑われるアウトブレイク(800件中555件[69.4%])のうち、最も多い原因ははノロウイルスとサルモネラで、それぞれアウトブレイクの47.0%および18.6%を占めました。

❷アウトブレイクが発生した事業所の大多数は個人経営で(65.2%)、毎日300食(上限=8,500食)以下の食事を提供していた(60.7%)。ほとんどがレストラン(81.4%)でした。

❸ 2017年から2019年にかけて、原因が判明している食中毒アウトブレイクの約40%が、病気や感染性のある従業員による食品汚染(すなわち、素手によるRTE食品との接触、手袋によるRTE食品との接触、および感染症の疑いがある労働者によるその他の汚染)と関連していました。

体調が悪いにもかかわらず、働こうとするバイトの調理師。

❹ CDCが経営者に従業員の体調管理に関する事業者の対応についてインタビューしたところ、つぎのような結果になりました。

  • 経営者の約92%が、自分の店には食品労働者が体調不良を感じた場合に症状を報告することを義務付ける方針があると回答しました。
  • しかし、これらの方針が文書化してあると回答したレストラン経営者はわずか66%でした。
  • さらに、食品医薬品局(FDA)のガイドラインで管理者に報告することが望ましいとされている仕事を休むべき5つの症状(嘔吐、下痢、膿を持った傷、発熱を伴う喉の痛み、黄疸)をすべて記載した方針があると回答したのはわずか23%でした。
  • また、労働者に有給の病気休暇を提供していると回答した経営者は半数以下(725人中316人[43.6%])でした。

 報告書は、レストランに対し、病気の従業員が症状が出た場合は上司に報告し、体調が悪い場合は有給の病気休暇として自宅待機することを義務付ける方針を策定し、それを文書化し、実施するよう勧告しています。

CDCの担当官に従業員の健康状態が文書化されているかと聞かれて困り果てる経営者。

 報告書は、特に発生頻度の高いノロウィルスについては、レストラン等、小売食品施設は、適切な手指衛生によって食品を汚染から守り、病気や感染症のある従業員を就業から除外することで、食中毒の発生を減らすことができると結論しています。

レストランの従業員の体調を見て不安になる客。

※なお、この報告書では、従業員の健康状態が起因となった要因以外、次のようなことも報告しています。本ブログ記事では、もっとも大きな要因の従業員の健康状態について特に着目して紹介しました。

感染性疾患の疑いがある作業員による汚染以外の他の汚染源としては、以下の通りでした。

  • 汚染された生食品(17.6%)
  • 食材の相互汚染(13.6% )
  • その他の特定されていない汚染源(12.4% )
  • 高温の食品の不適切な冷却または徐冷(10.6%)
  • 調理または加熱処理中の時間または温度不足(6.6%])

ここからはブログ筆者の補足と見解を述べます。

 本報告書はレストランだけを取り扱っていたわけではなく、総菜などの食品を扱う小売事業者すべてに関するものです。このうち、食中毒を起こした大半はレストランであったため、レストランを中心とした記事になりました。しかし、惣菜などを扱うすべての小売事業者が、この問題に関連しますので注意しておく必要があります。

 日本では、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルによると、調理に従事するノロウイルスの感染者、もしくは症状がなくても感染の疑いがある場合には、食品に直接触れる調理作業を控えるなど、適切な措置を取ることが望ましいとされています。ただし、これはあくまで「望ましい」ものであり、法的な義務は定められていません。そのため、そのような事例が生じた際には、責任者が従事者にどのような措置を取るべきかについて、具体的なガイドラインを各事業者が自主的に設定しておく必要があります。食品に直接触れる調理作業から従業員を外す、あるいは一定期間の出勤停止など、具体的な措置を事業者が決定し、さらにそれを文書化しておくべきでしょう。

 また、ノロウイルスの場合は、感染しても症状の出ない無症状者であっても、感染者と同じようにノロウイルスを排便とともに体外に放出することが報告されています。すなわち、感染者の濃厚接触者、あるいはウィルスに感染した人と同じ食品を食べたという自覚がある場合は、たとえ自身は症状がなくても、食品にノロウイルスを汚染してしまう可能性があるという自覚を持っておく必要があります。詳しくは下記の記事をご覧ください。

ノロウィルスの排出期間や感染力は無症状な調理従事者でも感染者と同じなので、うつる可能性あり

夫がノロウィルスになったので、自分ももしかしたらノロウィルスをばら撒くのではないかと心配している妻。