化学物質に対する抵抗性のイメージ理解

 グラム陽性菌と陰性菌の細胞表層構造の違いは、細菌の化学物質に対する耐性の違いにも直結する。大まかに述べると、グラム陽性菌は化学物質に弱く、陰性菌は強い。陰性菌では外膜のリポ多糖がさまざまな化学物質の侵入を防ぐバリアーとして働く。一方、陽性菌の持つ細胞壁は分厚く、物理的には強固であるが、実は、構造上、スカスカであり、化学的バリアーとしては、ほとんど役に立たないといってよい。
 たとえで述べると、グラム陽性菌の細胞壁は鉄骨や鋼で強固に作られているが、まだコンクリートが塗りこまれていないので風通しがいい未完成のビルのようなものである。これに対し、グラム陰性菌は薄くて物理的には強くないが、防水シートのしっかりしたトレンチコート(外膜)を身に着けているようなものと考えればいい。

 したがって、一般的にグラム陽性菌は陰性菌に比べると、抗菌剤などの薬剤で比較的簡単に増殖を抑えることができる。このような性質は大腸菌やサルモネラ菌などの食品からの検出培地にも応用されている。これらの選択培地ではグラム陽性菌が薬剤の弱い性質を利用している。

グラム陽性菌と陰性菌の化学物質に対する抵抗性の違いのイメージ

グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞表層構造の違い

 ここで少し詳しくグラム陰性菌の細胞表層の構造について説明する。上述したように、グラム陰性菌は細胞壁が薄いが、外側にもう一枚細胞膜のような外膜でおおわれている。厳密に言うとこの外膜は、細胞膜のような単なるリン脂質二重膜ではない。外膜の外側の表面に多糖類の鎖がある。グラム陰性菌の外膜は脂質と多糖類で構成されているので、リポポリサッカライド(LPS)と呼ばれる。この多糖類の鎖が親水性の性格をもっている。したがって、LPS は疎水性官能基を持つ化学的薬剤をはねつける役割を持つ。

グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞表層の違い

そもそも、グラム染色からわかること

 以上のようにグラム陰性菌にとってLPSは化学化合物から自分を守るためにとても重要な役割を持っている。そもそもグラム染色において、グラム陰性菌がクリスタルバイオレットで染まりにくいという現象は、とりもなおさず、グラム陰性細菌の外膜がクリスタルバイオレットという化学薬剤の侵入を防いでいることを意味している。したがって、クリスタルバイオレットでグラム陰性菌が染まりにくい事実は、クリスタルバイオレットのように疎水性官能基をもつ化学化合物に対してグラム陰性菌は抵抗力を持つことを意味している。このようにグラム染色性を観察するだけで、化学化合物に対しての二つのタイプの細菌の抵抗性の違いを理解できる。

グラム染色と化学薬剤への抵抗性の関係

・グラム陽性菌とグラム陰性菌の理解については、基礎シリーズでその他に5つの関連記事があります。合わせて読むと、しっかりとグラム陽性菌陰性菌について理解ができると思います。