人間や建築物の環境に生息する常在菌についての研究は、驚くほど少ないのが実情です。シカゴ大学のラックス博士らは、家庭環境に関連する常在菌の集中的な縦断的分析を行い、2014年にScience誌にその成果を発表しました。家庭環境の常在菌は各家庭で大きく異なり、家の住人である人の手の皮膚の常在菌によって影響されていることがわかりました。
この論文は2014年に出版され、現在までに529回引用されています(2022年11月scopus調べ)。
Lax et al.,
Longitudinal analysis of microbial interaction between humans and the indoor environment
Science. 29; 345(6200): 1048-1052 (2014)
この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。
シカゴ大学のラックス博士らは、家庭環境に関連する常在菌の集中的な縦断的分析を行い、ヒト、家庭、ペットの微生物群集間の実質的な相互作用を明らかにしようとしました。引越しをした3家族を含め、7家族とその家に6週間にわたって関連する微生物群集を評価しました。
その結果、おおむね次のことが明らかとなりました。
- 常在菌は各家庭で大きく異なり、家庭内の常在菌は主に家の住人からもたらされている
- 各家庭の常在菌は、家族ごとに識別可能
- 統計解析により、個人の手の皮膚の常在菌と住居の細菌叢が有意に一致
- キッチンカウンターで採取さらた病原菌のゲノム配列は、居住者の手から分離された病原菌と一致
- 家族の引っ越し後の新居の常在菌は、居住者の旧居の常在菌に急速に類似した状態になる。

博士らの研究により、
1) 家庭には居住者が予測できる独自の微生物フィンガープリントが存在すること
2) 各家庭間の独自の常在菌の差異は家庭内の各箇所の差異に勝るものであること
が明らかになりました。このことは、人間の集団が居住空間の微生物の多様性に影響を与える速さと程度が予想以上に大きいことを示しています。

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が2021年10月1日号に執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年経過したので、公開しています。ただし、最新状況を反映して、加筆・修正しています。
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