腸管出血性大腸菌が家畜から放出された後、食品流通過程の二次汚染により、まったく無関係の食品を原因として感染経路となる可能性があるのでしょうか?言い換えれば、腸管出血性大腸菌O食品汚染は、原因となる家畜とはまったく無関係の感染経路からどれくらい食品に混入してる可能性があるのでしょうか?

 腸管出血性大腸菌の本来の生息地は牛などの家畜の腸内です。しかし2017年の夏、日本ではポテトサラダを原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒事例がありました。また、2012年に札幌市の高齢者施設で白菜の浅漬けを原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒事例もありました。海外でも、前回の記事に紹介したアメリカのクッキーの生地のように、直接、牛肉など家畜の肉と結びつかない食中毒も起きています。そこで疑問となるのが冒頭の疑問です。

この疑問に対して、ドイツのドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)マーチン博士は興味深いで論文で、おおまかな回答を示してくれています。

マーチン博士らは、さまざまな家畜や食肉製品、乳製品などから分離された合計593株の腸管出血性大腸菌について、 9の病原性遺伝子(stx1, stx1c, stx1d,stx2, stx2b, stx2e, stx2g, E-hly ,eae)の解析を行いました。菌株の分離源となった家畜は、牛、豚、羊、ヤギ、鹿、イノシシ、ウサギです。

解析の詳細は省略しますが、博士らの解析の結果、市販で流通しているこれらの家畜の肉や食肉製品から検出される腸管出血性大腸菌の菌株は、病原遺伝子の保有状況から、元々汚染源の原因となっているその家畜特有の病原遺伝子を持っていることが判明しました。

例えば、牛から分離される腸管出血性大腸菌は、stx1とstx2の両方を持っている場合が多いのですが、博士らの研究でも、この2つの遺伝子の保有状況と牛肉や乳製品と強い相関関係を見出しました。同様に、stx1c(stx1のサブタイプ)とstx2b(stx2のサブタイプ)は、これまでの研究で、羊、ヤギ、鹿から分離される例が多かったのですが、博士らの研究でも、これらの2つの遺伝子を保有している腸管出血性大腸菌がこれらの家畜の食肉製品やこれら家畜の肉を使った食品から分離されています。もう一つ例を挙げますと、stx2e(stx2のサブタイプ)を持っている腸管出血性大腸菌は、豚から分離されることがこれまでの報告で多いのですが、博士らの研究でも、この遺伝子は豚肉や豚肉を用いた食品から主に分離されています。

すなわち、博士らの研究から、腸管出血性大腸菌が食品を汚染するパターンとしては、あくまでも、その腸管出血性大腸菌をもともと持っている家畜の肉が主要ルートであるということがわかりました。言い換えると、腸管出血性大腸菌は、食品の流通過程の中で、二次汚染によりいろいろな経路に拡散したり、元々の発生源である家畜と無関係の品を汚染したり可能性は、それほどには高くないということです。

この論文は、ショートペーパながら、2011年発表後、これまでに110回引用されています(2021年10月Scopus調査で更新)。

Characteristics of Shiga toxin-producing Escherichia coli from meat and milk products of different origins and association with food producing animals as main contamination sources
Int J Food Microbiol.146(1):99-104(2011)

腸管出血性大腸菌O157の二次汚染ルート

腸管出血性大腸菌は、大腸菌の1つです。そして大腸菌はグラム陰性菌です。環境のストレスに対しての耐性については、黄色ブドウ球菌やリステリア菌のようなグラム陽性菌に比べるとやはり弱いものと考えられます。

一方で、先月号で紹介したアメリカのクッキーの生地のように、いったいどこから来たのか分からないような混入が起きているのも事実です。

基本的には、汚染源となる家畜のルートをしっかり絶つということが基本になるのでしょう。

※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。

※腸管出血性大腸菌の基礎事項を確認したい方は、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ①腸管出血性大腸菌