食中毒菌10種類の覚え方 ①腸管出血性大腸菌

住処からドミノ倒しに理解する諸性質

これから個別の代表的な食中毒菌について説明を加えていく。まずはそれぞれの住処を理解することが重要である。住処を理解することによって、その他の性質はドミノ倒しのように連続的に理解できる。


 まずはじめに腸管出血性大腸菌は大腸菌の血清型の一種であり、病原性という点においては大腸菌と異なるが、 その他の生理的な性状は大腸菌と同じである。したがってここでは大腸菌と区別せずにその性質を述べていくこととする。


1.腸管出血性大腸菌の住処は牛の腸内である。牛の腸の中は水っぽい環境である。したがってこのような環境に住む腸管出血性大腸菌はグラム陰性菌と理解すれば良いだろう。
2.グラム陰性菌なので感染型食中毒であると理解する。
3.また、腸管出血性大腸菌は牛の腸内という暖かい環境に住んでいるので、8°C以下のような冷蔵庫の環境では増殖できないと理解できる。
4.乾燥や熱に対する耐性についても、基本的にグラム陰性菌はこのようなストレスに対しては強くなく、腸管出血性大腸菌も例外ではない。
5.酸素と増殖との関係についても、腸管出血性大腸菌が住んでいる牛の腸の中では酸素は不足しているので、腸管出血性大腸菌は酸素がなくても増殖できる通性嫌気性細菌となる。


6.酸についての耐性をどうか?一般的に、酸素がない環境でも増殖できる通性嫌気性細菌は酸に対する耐性が強い。その理由は酸素がない環境下では代謝が発酵代謝となり細胞の周りに大量の有機酸を作り出すからである。腸管出血性大腸菌や大腸菌はその例外ではなく、むしろこれらの通性嫌気性菌の中でも特に酸に強い種と言える。大腸菌の検出にEMB 平板培地を用いる。 EMB 平板培地で黄金色に輝くコロニーだけが大腸菌になる。 EMB 平板培地で 黄金に輝かないものは、大腸菌以外の大腸菌群である。このような色の違いも、大腸菌が特に酸に対して特に強いことに関連している。EMB平板培地でできる大腸菌のコロニーの周辺の pH は、他の大腸菌群のコロニーよりも低くなる。その結果、培地に添加されているエオジンYやメチレンブルーが大腸菌のコロニー周辺で凝集起こす。結果として大腸菌のコロニーの周りは黄金色に輝く。


7.薬剤に対する抵抗についても、既に述べてきたように、グラム陰性細菌は外膜があるために抗菌剤に対しては強い耐性を示す。 外膜の親水性の ポリサッカライド部分が疎水性官能基を持った抗菌剤をはねつける。

8.従って、選択培地に胆汁酸やブリリアントグリーンなどの色素化合物など疎水性官能基を持った化合物を加えることによって、グラム陽性菌を排除しながらグラム陰性細菌のみを選択的に増殖させることができる。

 以上を、ドミノ倒しのように連続的に理解するとよい。

血清型について

腸管出血性大腸菌は大腸菌の中の血清型の一つである。大腸菌の中でも大腸菌 O 157や O 26など限られた血清型のみが人に対して病原性を持つ。ここで血清型とはどのようなものなのかについてごく簡単に説明しておく。大腸菌はグラム陰性菌なので、前述したように細胞表層に外膜を持っている。この外膜は、基本的に細胞膜と同様にリン脂質二重膜のような構造である。細胞膜と異なる点は外側に多糖類の鎖を持っている点である。この多糖類の鎖の構造がひとつひとつの大腸菌の血清型で異なっている。血清型を決める場合、この外膜の多糖類の鎖の構造の違いを血清反応で認識させる。 このような抗原抗体反応の極めて特異性の高い性質を利用することにより、大腸菌の中でも特定の血清型を識別することができるようになるわけである。

腸管出血性大腸菌の病原メカニズム

 大腸菌の病原メカニズムの説明の前に、感染型食中毒菌の腸管上皮細胞に対する病原性のメカニズム全般について簡単に触れておく。感染型食中毒細菌は大まかに、さらに2つのタイプに分けることができる。1つ目は、 微生物が腸管上皮細胞の中には侵入しない。その代わり、腸管上皮細胞の表面上で毒素を産生する。このようなタイプのことを感染毒素型と呼ぶ。このようなタイプの代表的なものが大腸菌 O 157や腸炎ビブリオなどである。ただし、これらの細菌を毒素型食中毒菌とは分類はしない。前述したように、毒素型食中毒菌の定義は、微生物が食品中に毒素を作ることである。感染毒素型細菌の細胞は腸管上皮細胞の表面において初めて毒素を産生する。これらの毒素が食品中で分泌されることはない。あくまでも微生物が宿主の中に入った時の感染のメカニズムとして、毒素遺伝子の発現は宿主の体内においてのみ行われる。このような意味で、これらの微生物は感染型食中毒菌と定義される。


 もうひとつのタイプは微生物が腸管上皮細胞の中に入り込んでくるタイプである。このようなタイプの代表的なものがサルモネやリステリア菌である。このようなタイプの細菌を感染侵入型と呼ぶ。それぞれの侵入のメカニズムについてはそれぞれの食中毒菌のところで述べる。

 さて、腸管出血性大腸菌は他の腸管出血性大腸菌に比べると症状も重篤であり、致死率も高い。腸管出血性大腸菌ははベロ毒素という砲弾を腸管上皮細胞に発射することにより、腸管上皮細胞を破壊する。腸管上皮細胞が破壊された結果、大量の血液が腸内に流出する。その結果、大腸菌 O 157の典型的な食中毒の症状は血便となる。

また、腸管出血性大腸菌の大きな特徴として、大人より免疫力が弱い子供が感染した場合に、ベロ毒素は腸管上皮細胞を破壊するだけではなく、血液を伝わって、腎臓にまで達する。そして腎臓の細胞をベロ毒素によって同じメカニズムで破壊する。腎臓は血液中の汚れた物質を浄化する機能を持って行くので、浄化機能を持った腎臓の細胞が破壊さると、尿毒症になる。そして死に至る場合も多い。