葉物野菜は、米国では、腸管出血性大腸菌 O157食中毒の感染経路として、牛ひき肉に次いで、 2 番目に多い感染源食品です。特にロメインレタスを感染経路とする食中毒は、他の種類の葉物野菜よりも頻繁におきています(葉物野菜の中の54%)。また、葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌には季節性があるようです(春と秋に多発)。本記事は、米国疾病対策予防センター(CDC)が中心となり、米国とカナダで 2009~2018 年に発生した葉物野菜に関連する腸管出血性大腸菌食中毒事例を解析したものです。

Katherine E Marshall et al.
Lessons Learned from a Decade of Investigations of Shiga Toxin-Producing Escherichia coli Outbreaks Linked to Leafy Greens, United States and Canada
Emerg Infect Dis. 2020 Oct;26(10):2319-2328.

調査の背景

 葉物野菜は、米国とカナダにおける食品由来の腸管出血性大腸菌の アウトブレイクの発生源として、牛ひき肉に次いで 2 番目に多くなっています。

 米国で生産される葉物野菜のほとんど (98%) は、カリフォルニア州とアリゾナ州で栽培されています 。米国で消費される葉物野菜は、主にカリフォルニア州、アリゾナ州、メキシコの砂漠地帯で冬季(11月〜3月)に、カリフォルニア州の中央海岸地帯で春、夏、秋(4月〜10月)に栽培されています。

米国での葉物野菜の栽培の多い二つの州

 カナダで消費される葉物野菜のほとんどは米国から輸入されています。

今回の調査の概要

 米国疾病対策予防センター(CDC)、カナダ公衆衛生庁、米国食品医薬品局(FDA)、米国カリフォルニア州公衆衛生局の研究者らは、米国とカナダで 2009~2018 年に発生した葉物野菜に関連する腸管出血性大腸菌食中毒統計や食中毒報告を精査し、葉物野菜における腸管出血性大腸菌の全体像を明らかにしようとしました。

調査方法

調査方法の概要は次のとおりです。

  • 米国とカナダで 2009~2018 年に発生した葉物野菜に関連する 腸管出血性大腸菌 アウトブレイクを調査しました。
  • 米国とカナダの両方で発生したアウトブレイクは、同時期に発生し、アウトブレイク株が同じであれば、1つのアウトブレイクとしてカウントされた。アウトブレイクは、病人が葉物野菜に曝露された州または県によって分類されました。

調査結果の概要

葉物野菜によるアウトブレイク発生状況

 2009~2018年の間に、葉物野菜が感染経路とする腸管出血性大腸菌感染アウトブレイクが40件確認されました。40 件のアウトブレイクで、1,212 名の感染、420人の入院、77 例の溶血性尿毒症症候群、および 8 名の死亡を確認しました。患者は1歳未満から95歳まで(中央値26歳)、63%が女性です。

サラダを食べて腹痛を起こす若い女性

 また、葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌は、毎年必ず発生しています。毎年、1~9件のアウトブレイクが発生しています。

 31 件のアウトブレイクが米国のみで発生し(複数州 22 件、単一州 9 件)、カナダのみで 4 件(すべて複数州)、カナダと米国の両方で 5 件(複数州と複数州 4 件、単一州と複数州 1 件)発生しています。

 血清型O157:H7は、葉物野菜腸管出血性大腸菌食中毒の最も多い血清型です。40件の腸管出血性大腸菌アウトブレイクのうち、32件(80%)がO157、3件(8%)がO145、2件(5%)がO26、 O111とO126が各1件(3%)、 O26とO157が共に1件でした。

ロメインレタスに関連するアウトブレイクは、他の種類の葉物野菜よりも多い(54%)

  腸管出血性大腸菌アウトブレイク 29 件(73%)のうち、24 件は 1 種類の葉物野菜が原因でした。内訳は、ロメインレタス13件(54%)、ほうれん草4件(17%)、アイスバーグ4件(17%)、キャベツ、グリーンリーフ、ケール各1件(4%)でした。

葉物野菜の中で腸管出血性大腸菌食中毒を起こしやすい種類の円グラフ。

 なぜロメインレタスでの腸管出血性大腸菌が最も多いのかについては、現在のところ、はっきりとはわかっていません。確かに過去10年間、ロメインレタスの人気は上昇中で、生産量や流通量が上がっていることは事実です。しかし、生産や販売量でみると、2009年から2017年の間、毎年ロメインよりもアイスバーグが多く収穫され、販売されていました。したがって、ロメインレタスの葉物野菜より腸管出血性大腸菌のアウトブレイクの感染経路として頻繁に検出される理由については生産量や販売量だけでは説明できません。

 一つの可能性としてレタスの形状が考えられるようです。

 ロメインは背が高く、葉がゆるくまとまっていて上部が開いているのに対し、アイスバーグは小さくて葉が密集しています。ロメインには、その形状が、腸管出血性大腸菌 による汚染を受けやすい特徴がある可能性があります。

ロメインレタスは、アイスバーグよりも腸管出血性大腸菌が中に入り込みやすい

葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌食中毒は、春と秋に多く発生

 葉物野菜に関連するSTECの集団発生は、夏(18%)、冬(10%)よりも春(28%)、秋(45%)に多く発生していました。月別で見ると、10月(23%)と4月(20%)は、他の月よりも多く発生していました。米国では葉物野菜が一年中生産されているにもかかわらず、葉物野菜に関連する腸管出血性大腸菌の アウトブレイクの 73% は春または秋に起きています。

葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌アウトブレイクの季節性(CDCのホームページより)。

上の図は、Emerging Infectious Diseases誌の図表公開方針に従い、原図をそのまま掲載しています。ただし、和訳しています。

 この季節的なパターンの理由も不明です。

 消費量や生産量の季節的な違いも原因としては考えにくいです。なぜなら、米国での葉物野菜の消費量は月によってほとんど変化せず、春と秋に増加が見られないからです。

 発生の季節性をさらに評価するためには、栽培・収穫作業、汚染を受けやすいと考えられる葉物野菜の固有要因、栽培期の気候や特定の気象事象の影響に関するデータを追加する必要があるようです。

汚染原因解析

 4件のアウトブレイクで葉物野菜が加工または栽培されている環境からアウトブレイク株が分離されています。

  • 1件の調査では、牛の飼料飼育施設の上流と下流で採取された用水路水サンプルと、複数のロメインレタス農場周辺から、アウトブレイク株が分離されています。
  • もう1つの調査では、ロメインレタス農場の貯水池の沈殿物からアウトブレイク株が分離されました。
  • 他の2件のアウトブレイク調査では、カリフォルニア州セントラルコースト流域の腸管出血性大腸菌の分布を評価する別のプロジェクトで収集された分離株が PulseNet注) にアップロードされ、アウトブレイク株と一致しました。

注)PulseNet:米国における食中毒菌のゲノムデータベース。もともとはパルスフィールドゲル電気泳動のデータベースだったが、数年前から全ゲノムデータベースにに移行している。

葉物野菜への腸管出血性大腸菌の汚染経路として牛や灌漑水から汚染する経路

まとめ

 葉物野菜に関連する 腸管出血性大腸菌 の集団発生は、米国で過去 10年間にわたって発生し続けています。葉物野菜の保存期間が短いこと(12-16日)、アウトブレイクを特定するのに時間がかかること(22日)などの理由から、腸管出血性大腸菌炎になった患者のインタビューから感染経路を野菜まで突き止めることは、困難な作業となります。

 それでも、今回の調査結果により、いくつかの大まかな傾向が明らかとなりました。

  • アウトブレイクがロメインレタスに偏っている
  • 葉物野菜のアウトブレイクに季節性がある(春と秋に起きやすい)

※実際に腸管出血性大腸菌で葉物野菜におけるアウトブレイク事例については下記の2つの記事もご覧いただくと参考になります。
ウェンディーズのハンバーガーのロメインレタスが腸管出血性大腸菌の広域食中毒の感染経路として浮上(米国)
スーパー販売のミックス野菜サラダで腸管出血性大腸菌O157のアウトブレークが連続発生(米国)

※また、サルモネラ、リステリア、ノロウィルスなども含めて野菜やサラダ関係で米国で起きている食中毒統計については下記の記事をご覧ください。
サラダ及び生野菜による細菌性食中毒統計(米国)