スズメなど野鳥が葉物野菜の腸管出血性大腸菌の汚染源になり得るか?

 葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌が米国で多発しています。その主な汚染経路は畑の近傍の牛の糞の飛沫や、糞で汚染された灌漑水などが推定されています。では、野鳥が腸管出血性大腸菌を畑に持ち込む可能性はないのでしょうか?この記事は、この可能性を調べた論文を紹介します。

N. Navarro-Gonzalez  et al.
Carriage and Subtypes of Foodborne Pathogens Identified in Wild Birds Residing near Agricultural Lands in California: a Repeated Cross-Sectional Study
Appl Environ Microbiol. 2020 Jan 21;86(3):e01678-19.

野鳥が腸管出血性大腸菌の汚染源になるかの疑問を投げかけたイラスト

 畜産業では、野鳥は牛と交じり合う場となります。そして、野鳥は、動物や汚染された環境または飼料から食中毒病原菌を獲得し、その後、畑へ移すシナリオが想定できます。しかし、実際には野鳥がどのぐらいこれらの食中毒病原菌菌を保有しているかについての調査は数少ないのが現状です。

 そこで、カルフォルニア大学のゴンザレス博士らは、カリフォルニア州の農地周辺に生息する野鳥の食中毒病原微生物の保有状況とサブタイプについて広範な調査を行ないました。

調査方法

調査方法の概要は次のとおりです。

  • カリフォルニア州の農地内に生息する鳥類を1年間にわたってサンプリングしました。1ヶ月に2日、2ヶ所の調査地で合計60種の鳥類を捕獲しました。
  • 次の基準に基づいて、カリフォルニア州北部の 2 か所を選択しました。(1) カリフォルニアの主要な農業生産地域内にあること、(2) 表流水と水辺の生息地があること、(3) 肉牛を飼育している放牧地に隣接していること。
  • 捕獲した野鳥の内訳は、スズメ類(n = 273)、イカル類(n = 64)、キビタキ類(n = 58)、タイワンヒタキ(n = 42)、ヒワ(n = 24)、ツグミ(n = 21)、ミミ(n = 14)、ヒヨドリ(n = 14)、ゲーム鳥(n = 11)、グロバキア(n = 10)......。フィンチ(n = 7)、ツバメ(n = 6)、キツツキ(n = 6)、シジュウカラ(n = 6)、ハト(n = 3)、ビレア(n = 2)、ホオジロ(n = 1)、水鳥(n = 1)、タカ(n = 1)およびカワセミ(n = 1)でした。
  • 捕獲した野鳥の糞便、口腔拭き取りサンプル、足・羽拭き取りサンプルから人獣共通感染症であるサルモネラ菌、腸管出血性大腸菌O157:H7、血清型O157以外の腸管出血性大腸菌を培養し,血清型判定とパルスフィールドゲル電気泳動で特徴づけを行いました。

調査結果の概要

調査結果の概要は次のとおりです。

  • 鳥の個体数レベルで見ると、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌 O157:H7 および血清型 O157 以外の腸管出血性大腸菌の陽性率は低かった(陽性率、0.34% ~ 0.50%)
個体数レベルでは腸管出血性大腸菌の汚染率は高くない
  • しかし、鶏の種類別でみると、サンプリングされた60種の鳥類のうち、8種(13.3%、スズメ、イカル、ガン、サシバ、キクイモの鳥類群)がこれらの食中毒病原菌の少なくとも1つに対して陽性でした。
野鳥の種類別でみると13%が腸管出血性大腸菌に汚染している
  • 鳥の部位別でみると、糞便(n = 583)では、0.5%でサルモネラ菌、0.34% で腸管出血性大腸菌 O157:H7、 0.5%で O157 以外の腸管出血性大腸菌が検出されました。また、2羽(0.5%、n = 401)が足や羽に腸管出血性大腸菌を保有していました。一方、口腔拭き取り液(n = 353)からはこれらの病原微生物は検出されませんでした。
腸管出血性大腸菌の汚染部位は糞、羽、脚
  • 検出サンプルからは、Salmonella Enterica serotype Newport、E. coli O157:H7,腸管出血性大腸菌血清型O103およびO26など、公衆衛生上重要ないくつかの血清型が同定されました。
  • 夏の終わりから秋にかけて、同じパルスタイプ注)の腸管出血性大腸菌の血清型O26が異なる鳥類の複数の個体で散発的に検出されました。このパルソタイプは糞便中に排出されるだけでなく、鳥の足や羽にも付着していました。また、同じ場所で1週間おきに採取された同じ種の2羽の鳥で同じ大腸菌O157:H7のパルスタイプが検出されました。

注)パルスフィールドゲル電気泳動で判定される種レベル以上の遺伝子型。わかりやすい説明は下記記事をご覧ください。
パルスフィールドゲル電気泳動(pulsed-field gel electrophoresis: PFGE)

 腸管出血性大腸菌血清型O26が、2つの異なる鳥種が同じパルスタイプを保有していたことから、夏の終わり(9月)までに農産物直売所またはその付近で共通の汚染源が存在したことが示唆されました。また、このパルスタイプは糞便中に排出されるだけでなく、鳥の足や羽にも付着していたことから、例えば農場内の沈殿池などの環境がこの病原菌で汚染されている可能性が考えられました。
 同様に、同じ場所で1週間おきに採取された同じ種の2羽の鳥で同じ大腸菌O157:H7パルスタイプが検出されたことは、環境中の共通の汚染源があることを示唆しています。

複数の鳥が同一血清型の腸管出血性大腸菌に汚染している
  • 放牧牛は、野生のガチョウと腸管出血性大腸菌血清型O26およびO163を共有していました。
牛とガチョウが同一血清型の腸管出血性大腸菌に汚染している

野鳥の腸管出血性大腸菌保有に関するその他の研究

  野鳥に関するその他の類似研究では、デンマークの農場でミストネットにかかった腸管出血性大腸菌の陽性鳥は244羽中4羽(1.6%)だったとの報告があります。また、チェコ共和国とオーストリアでは、多数の場所から1,191羽の野鳥(不特定の歌鳥と水鳥の種)の咽頭をサンプリングしましたが、腸管出血性大腸菌を保有していたのは2羽(0.17%)だけだったとの報告があります。

 野鳥における腸管出血性大腸菌の汚染率の調査事例は限られています。また、その汚染率は野鳥の生息域(牛の放牧農場に近いか否か)に大きく依存すると考えられます。しかし、いずれにしても、野鳥の個体群レベルでは、腸管出血性大腸菌の保有率は1%前後と考えてよさそうです注)

注)牛の放牧場に隣接しない都市部の畑に飛来する鳥の場合はさらに低い腸管出血性大腸菌の汚染率が想定できますが、現時点では、都市部に特化した野鳥の調査レポートは見つけることができませんでした。

まとめ

 この調査研究によって、次のことがわかりました。

  • ほとんどの野鳥、特に水辺の生息地に関連する種は、腸管出血性大腸菌を保有していないこと多い (1% 未満)。

 しかし、たとえ保有率が低くても、鳥類が大きな集団で集まっていたり、大量の糞便を排出していたりすれば、野菜の広範な汚染のリスクになる可能性があります。例えば、ガチョウやその他の群れをなす鳥類の大群が集合して採餌する農産物畑では、特に注意を払う必要があります。

 ゴンザレス博士らは、生産者が葉物野菜のような生の作物への野鳥の侵入による微生物汚染のリスクを最小限に抑えるための最善の対策は、次のことが考えらるとしています。

  • 畑のひどく汚染された部分を収穫しない
  • 鳥の糞や作物の損傷など糞で目に見えて汚染された葉物野菜を収穫しない
鳥の糞で汚れすぎている野菜は要注意

 

 上記の観点で、ゴンザレス博士らは、ベビーほうれん草のような柔らかい青菜の収穫時に、訓練を受けた収穫作業者が自動収穫機の前を歩いて確認することが効果的であるとしています。また、FDAのガイダンスにあるように、家畜や野生動物からの潜在的な微生物汚染リスクに対するモニタリングは、消費者を保護するために重要であるとしています。

なお、葉物野菜における腸管出血性大腸菌汚染の主な原因は、牛の糞の直接的な混入や、灌漑水を通じた汚染と考えられています。このことに関連する記事は、下記の記事をご覧ください。
葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌食中毒の10年間統計(米国およびカナダ )