1980年代には、家禽製品に関連するSalmonella血清型Enteritidis(SE)によるサルモネラ菌菌感染症パンデミック規模で世界中に広がりました。なぜこの血清型によるアウトブレークが世界中に急速に広がったかについては、科学的には謎でした。本記事紹介する論文はこの謎に答えた論文です。ジョージア大学のリー博士らの研究です。

 

Global spread of Salmonella Enteritidis via centralized sourcing and international trade of poultry breeding stocks
Nature Communications volume 12, Article number: 5109 (2021)

要約は次の通り。

 きっかけとなったのは、米国と南米スリナム共和国で国内で飼育された家禽から「遺伝的にほぼ同一」であるSE株が見つかったことです。両国間の家禽生産システムでは、繁殖用家禽が重複していました。このことに着想を得たリー博士らは、SEに感染した家禽品種の国際取引がSEの世界的な拡散を引き起こしたのではないかとの仮説を立てました。

 そこで博士らは、1949年から2020年の間に98カ国から得られたSEの30,000を超えるゲノムを分析しました。GenomeTrakr プロジェクト(米国の次世代シークエンサーによる食中毒細菌ゲノム解析プロジェクト)やEnteroBaseなどのサルモネラ菌ゲノムデータベースを解析しました。また、国連食糧農業機関、 米国農務省海外農業局、および 経済複雑性観測所から、生きた家禽の数十年分の国際貿易データも収集しました 。これにより、サルモネラ菌菌株の情報と鶏肉の国際貿易の膨大な情報を統合的に解析しました。

 その結果、リー博士らは系統学的な解析(cg-MLST)により、家禽のSEの世界的な分散が単一の起源を持っていることを発見しました。

 リー博士らは、SEパンデミック株の起源はSEに感染した南米(ブラジル)の家禽繁殖株が世界に広がった結果であると結論しました。

車に乗った鶏

 博士らの研究の背景として、過去80年間に鶏肉生産業界の変化を知る必要があります。1948年と1951年、アメリカでは「The Chicken of Tomorrow」(英語の映像ですが当時の状況がわかります)というコンテストが開催されました。これは、より大きく、より良い鶏を飼育するために、鶏の品種改良を目的としたものでした。当時、鶏肉は小さく、主なタンパク源として食べられていませんでした。コンテストの結果、いくつかのブリーダーが誕生し、時間の経過とともにM&Aで統合されていきました。そして、現在では、これらのグループは数社しか残らなくなり、その結果、繁殖株の調達が高度に集中し、大規模な国際取引が行われています。博士らの研究は、家禽繁殖株の集中的な国際取引を介したSEの世界的な規模の拡散を示す証拠を提示しています。