前回、ノロウィルスの人工培養が世界で初めての成功例の論文を紹介しました。実は、この論文の前にも、ノロウイルスの培養や感染機構に関して重要な論文があります。今回紹介する論文で用いた細胞は腸管上皮細胞でははく、免疫をつかさどるB細胞です。
※ノロウィルスの基礎事項を確認したい方は、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ⑩ノロウィルス
2014年に、フロリダ大学のジョーズ博士と渡辺真紀⼦博士たちは、ヒトのノロウイルスが免疫細胞であるヒトのB細胞に感染することを突き止めました。そして、感染するには組織血液型抗原を発現する細菌の存在を必要とすることも明らかにしました。
今回はその論文の概要について紹介しておきます。
実験のあらましは以下のとおりです。
まず、博士らは、糞便由来のウィルスと細菌の混在液のB細胞への感染実験で、B細胞にノロウィルスが感染することを世界で初めて明らかにしました。そして、
1)そのヒト糞便由来サンプル液を0.2ミクロンのフィルター(細菌が通過できず、ウィルスのみが通過できる)でろ過するとノロウィルスのヒトB細胞への感染化が低下したこと
2)マウスの実験でマウスの腸内に抗生物質を与えて腸内細菌を殺すとマウスノロウィルスのマウスB細胞への感染力が低下したこと
から、ノロウィルスがB細胞に感染するためには細菌の存在の媒介が必要であることがあきらかとなりました。
つぎに、博士たちはどのようなメカニズムで細菌がノロウィルスのB細胞への感染を手助けするのかについて調べました。その結果、一部の細菌の表面でもヒトと同じように発現しているH型の組織血液型抗原が重要な役割を果たしていることをつきとめました。
つまり
1)ノロウィルスが細菌のH型の組織血液型抗原に結合する
2)ノロウイルスと細菌との複合体は,腸管上皮細胞を通り抜ける。
3)このようにして腸管上皮細胞を通り抜けたノロウィルスのB細胞への感染が成立する。
ということです。
博士たちの用いた B 細胞を用いた培養系は継代培養には成功していませんが、これまで謎だった私たちの血液型の違いとノロウイルスの感染との関係についてのメカニズムが明らかにしました。またノロウィルスの感染機構に細菌の存在が深くかかわっているという興味深い事実も明らかにしました。
ウィルスとヒトの細胞という 2者の関係だけではなく、ウイルスと細菌とヒトの細胞の三者の関係について明らかにしたという点で、この仕事は生物学的にもとてもインパクトのある仕事です。
論文→Enteric bacteria promote human and mouse norovirus infection of B cells
Science. 2014 Nov 7;346(6210):755-9.
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※この記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定メールマガジンで私が執筆した記事を、学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて公開しています。ただし、最新状況を反映して、随時、加筆・修正しています。