連休中に入ってきた米国のニュースで、乾燥乳粉末に関連するサルモネラ汚染リスクにより、複数の食品リコールや公衆衛生アラートが相次いでいます。

 公式情報で確認できる関連製品には、スナックミックス、ポテトチップ、ポークラインドおよびシーズニング、粉末飲料ミックス、肉・鶏肉製品などがあります。最終製品だけを見ると一見ばらばらに見えますが、その背景には、乾燥乳粉末を含む原料がシーズニングや加工食品に使われ、複数の下流製品へ広がったという共通点があります。

 このような「原料の汚染リスクが下流製品へ波及する」事例は、決して前代未聞の珍事件ではありません。むしろ、食品安全の教科書に出てくるような典型的なリスクです。

 しかし、典型的だからこそ、現場では定期的に思い出す必要があります。

 今回は、米国で起きている乾燥乳粉末関連のサルモネラリコールを例に、低水分食品におけるサルモネラリスクと、原料起点のリコールが下流製品へ連鎖する仕組みについて整理します。

今回、米国で何が起きているのか

 米国FDAのリコール情報によると、2026年春、California Dairies, Inc. による dry milk powder(乾燥乳粉末)の自主回収を受けて、その原料を含むシーズニングを使った複数の食品が回収されています。 FDA: John B. Sanfilippo recall FDA: Utz recall FDA: Pork King Good recall FDA: Ghirardelli recall

 たとえば、John B. Sanfilippo & Son, Inc. は、Fisher、Southern Style Nuts、Squirrel Brand、Good & Gather などのブランドで販売されたスナックミックスを自主回収しました。FDA掲載の会社発表では、対象製品は、第三者サプライヤーが製造したシーズニングで風味付けされており、そのシーズニングにリコール対象の乾燥乳粉末が含まれていたと説明されています。 FDA

 興味深いのは、問題となったシーズニングバッチは使用前にサルモネラ陰性だったものの、リコール対象原料を含んでいたため、予防的に回収された点です。FDA掲載情報では、同社は「使用前検査では陰性だったが、予防的措置として回収する」としています。 FDA

 また、FDA管轄の乾燥乳原料が、USDA/FSIS管轄の肉・鶏肉製品にも関係し、FSISは「FDA規制の乳原料を含む肉・鶏肉製品」に対して公衆衛生アラートを出しています。FSISのアラートは、乾燥乳粉末などの原料リコールが、スナックや粉末食品だけでなく、肉・鶏肉を含む複合食品へも波及しうることを示しています。USDA

つまり、今回の事例は、単一の最終製品だけの問題ではありません。
乾燥乳粉末という上流原料のリスクが、中間原料や加工食品を介して、複数の製品カテゴリーへ広がっている点が重要です。

米国で乾燥乳粉末に関連する問題が連鎖的に広がり、複数の食品回収や公衆衛生アラートが発生していることを示すイメージ。

これは珍しい事件なのか?

今回の事例は、「原料の汚染リスクが下流製品へ広がる」という意味では、特別に珍しいものではありません。

食品業界では、1つの原料が複数の中間原料や加工食品に使われることは珍しくありません。特に、粉末乳、ホエイ、スパイス、シーズニング、ナッツ、ピーナッツ、チョコレート、粉末飲料などの低水分原料は、少量でも多くの製品に使用されます。

そのため、上流の原料で汚染の疑いが生じると、下流の多数の製品が一気にリコール対象になることがあります。

つまり、今回のニュースは「これまで見たことがない異例の事件」というより、低水分原料と複雑なサプライチェーンが組み合わさると、いつでも起こり得る典型的な問題と見るべきです。

ただし、典型的だからといって、重要でないわけではありません。

むしろ、こうした事例は、現場で何度でも確認すべき食品安全の基本を思い出させてくれます。

ポイント1:乾燥食品でもサルモネラは問題になる

サルモネラというと、卵、鶏肉、生肉、生野菜などを思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、これらは重要な食品群です。

しかし、サルモネラは低水分食品でも問題になります。

ここで注意したいのは、「水分が少ない食品ではサルモネラが増えにくい」ことと、「低水分だから安全と言い切れる」ことは別問題だという点です。

低水分食品では、多くの場合、細菌は増殖しにくくなります。しかし、それでも原料段階で病原菌が混入していれば、そのまま最終製品に残る可能性があります。FDAの低水分レディ・トゥ・イート食品に関するガイダンス案でも、低水分食品は重要な管理対象とされ、粉末飲料ミックス、チョコレート、加工ナッツ、ミルクパウダー、スパイス、チップやクラッカーなどが例示されています。また、製品検査だけに頼ることの限界にも言及されています。 FDA

つまり、乾燥食品では、
増えにくいことはあっても、それだけで安全の根拠にはならない。

この点が非常に重要です。

製品の水分活性が低く、保存中に菌が増えないとしても、原料段階でサルモネラが混入していれば、そのまま最終製品に残る可能性があります。特に、その後に十分な加熱殺菌工程がない食品では、低水分であることだけを安全性の根拠にすることはできません。

乾燥食品ではサルモネラが増殖しにくくても、原料に混入していれば生き残る可能性があることを示すイメージ。

ここでは、乾燥乳粉末、粉末飲料、チョコレート、ナッツ、スパイスなど、水分活性の低い食品をまとめて「低水分食品」と呼びます。専門的には「低水分活性食品」と表現した方が正確ですが、本記事では読みやすさを優先して「低水分食品」と表記します。

ポイント2:少量の原料でも、多数の製品に波及する

今回のもう一つの重要なポイントは、原料起点のリコールは、最終製品の見た目以上に広がりやすいということです。

乾燥乳粉末は、単独で消費されるだけではありません。食品工場では、風味、コク、たんぱく質、乳感、粉体特性などを目的に、さまざまな加工食品へ使われます。

さらに、乾燥乳粉末が直接最終製品に入るとは限りません。

たとえば、

乾燥乳粉末
→ シーズニング
→ スナックミックス、ポテトチップ、ポークラインドなど
→ 別ブランドの商品

というように、途中で中間原料を経由することがあります。

この場合、最終製品メーカーから見ると、問題は「乳粉末」ではなく「シーズニング」に見えます。さらに、そのシーズニングが複数の製品、複数のブランド、複数の流通チャネルで使われていれば、回収範囲は一気に広がります。

今回のFDA掲載リコールでも、対象製品はスナックミックスでありながら、原因の起点は乾燥乳粉末にあります。FDA掲載の会社発表では、対象製品が「リコール対象の乾燥乳粉末を含む第三者製造のシーズニング」で風味付けされていたことが説明されています。 FDA

ここに、原料管理の難しさがあります。

最終製品だけを見ていても、リスクの全体像は見えません。
原料だけを見ていても、中間原料を経由した波及範囲は把握できません。

必要なのは、原料、二次原料、三次原料、最終製品を、製品カテゴリーや流通チャネルをまたいで、ロット単位でつなげて確認できる仕組みです。

乾燥乳粉末の汚染リスクがシーズニングなどの中間原料を経由して、スナックミックス、ポテトチップ、粉末飲料、肉・鶏肉製品など複数の下流製品へ広がることを示す図。

ポイント3:「検査で陰性だったから安全」とは限らない

今回の事例で、品質管理担当者にとって特に重要なのは、対象シーズニングバッチが使用前の検査でサルモネラ陰性だったにもかかわらず、予防的な対応が取られた点です。

これは、検査の意味を考えるうえで非常に良い教材です。

食品微生物検査は重要です。
しかし、検査は万能ではありません。

特に、低水分原料や粉体原料では、汚染が均一に分布していないことがあります。いわゆる偏在です。あるサンプルでは陰性でも、別の部分に菌が存在する可能性があります。

そのため、「検査で陰性だった」という事実だけをもって、直ちに安全と判断することはできません。

粉体原料ではサルモネラ汚染が偏在することがあり、一部のサンプル検査で陰性でも安全とは限らないことを示す図。

一方で、ここで注意したいのは、リコール対象原料を含んでいた製品が、常にすべて回収対象になるとは限らないという点です。

判断では、単に「対象原料を含むかどうか」だけでなく、その後の工程や製品の喫食形態を含めて評価する必要があります。

たとえば、次のような点を確認します。

  • その原料ロットがリコール対象に含まれるか
  • その原料がどの中間原料に使われたか
  • その中間原料がどの最終製品に使われたか
  • 最終製品はそのまま食べるRTE食品か
  • その後に有効な加熱殺菌工程や病原菌を低減できる工程があるか
  • その工程がHACCP上、CCPまたは同等の重要管理点として妥当か
  • 工程条件が対象ハザードに対して十分な低減効果を持つか
  • 流通済みか、社内在庫か
  • 対象ロットを明確に切り分けられるか

つまり、重要なのは、検査結果だけで判断しないことです。

「陰性だったから安全」と単純に考えるのも危険ですし、逆に「対象原料が入っていたから全製品を必ず回収」と機械的に考えるのも、必ずしも正確ではありません。

HACCPの考え方で見れば、問うべきなのは、
そのハザードが最終製品で消費者に到達しうるのか
途中の工程で十分に管理・低減されているのか
その根拠を記録とロット情報で説明できるのか
という点です。

たとえば、対象原料を含む中間原料を使用していたとしても、その後に妥当性確認された加熱殺菌工程があり、工程管理記録も適切に残っていれば、最終製品のリスク評価は変わります。

一方で、そのまま喫食されるRTE食品で、使用後に十分な殺菌工程がない場合には、検査陰性であっても予防的な回収が必要になることがあります。

低水分原料、検査陰性、回収判断について、原料から中間原料、最終製品までの工程やロット情報を確認しながらリスク評価している様子。

今回のような事例から学ぶべきことは、
食品安全は最終製品検査だけでは守れない
ということです。

同時に、
回収判断は「原料名」だけで決めるものではなく、製品特性、工程、CCP、ロット情報、流通状況を組み合わせて判断するもの
だという点も、現場では非常に重要です。

今回の事例から学ぶべきこと

今回の乾燥乳粉末関連のサルモネラリコールは、非常に珍しい事件ではありません。

むしろ、食品安全の基本を思い出させる典型事例です。

第一に、乾燥食品でもサルモネラは問題になるということ。
低水分だから増えにくいとしても、生残しないわけではありません。

第二に、原料汚染リスクは下流製品へ広く波及するということ。
特に粉末原料やシーズニングは、多くの製品に横展開されやすく、リコール範囲が広がりやすい原料です。

第三に、検査陰性だけで安心してはいけないということ。
サンプリング検査には限界があります。原料ロット情報、サプライヤー情報、工程情報、流通情報を組み合わせて判断する必要があります。

第四に、だからこそ、トレーサビリティは書類上の仕組みではなく、緊急時に実際に機能する仕組みでなければならないということです。

まとめ

連休明けに入ってきた米国の乾燥乳粉末関連サルモネラリコールは、前代未聞の珍事件ではありません。

しかし、だからこそ重要です。

食品安全では、まったく新しいリスクだけでなく、過去に何度も起きている典型的なリスクを、現場が忘れずに管理し続けることが求められます。

「乾いているから安全」ではありません。
「最終製品検査で陰性だから十分」でもありません。
「自社はその原料を直接買っていないから関係ない」とも限りません。

低水分原料、シーズニング、中間原料、下流製品。
これらがどのようにつながっているかを、ロット単位で追えるか。

今回の事例は、その基本をもう一度確認するよい機会です。

低水分原料の管理、検査陰性だけに頼らない判断、ロット単位の追跡など、食品安全の基本を定期的に確認する重要性を示すイメージ。

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