米国やEUでは「Ready to Eat」食品全てにリステリア・モノサイトゲネスの規格基準が設定されているのに対し、日本は生ハムやチーズに限定されています。では、北東アジアの隣国、中国はどうなのでしょうか?実は、中国でも2021年までは、肉製品に限定された規格でしたが、2021年の大幅な微生物規格改正により、水産、野菜・果実、飲料など、広範な「Ready to Eat」食品でリステリアに対する微生物規格基準を導入しました。本記事で、その舞台裏を詳しく探ります。

全面改訂を示すイラスト。

肉製品(調理済み肉製品および即食生肉製品)に限定されていた規格基準(2014年)

 中国では、さまざまな食品基準に散在する病原微生物基準を統合した「食品中の病原体制限、細菌の制限」(GB 29921-2013、以下 GB29921)が、2014 年 7 月 1 日に施行されました。GB29921 は、食品全般に関する基準ですが、リステリア菌については、次の食品のみに適用されました。

  • 包装済みready to eat食品の内、肉製品(調理済み肉製品および即食生肉製品)に限定

 具体的基準は次の通りです。

  • n=5、c=0、m=0(/25g):5サンプル分析して、25gあたりにリステリアが検出されてはならない(ゼロトレランス)

上記のn=5、c=0、m=0(/25g)は、国際食品微生物規格委員会(ICMSF)に準拠したものです。本ブログの下記記事にサンプリング法の理解の仕方につてい解説しています。サンプリング法の基礎を学びたい方は下記記事をご覧ください。

国際食品微生物規格委員会(ICMSF)やEUにおける食品微生物検査サンプリングプランをわかりやすく説明します

リステリア菌について肉製品だけを検査する中国の検査官。

大転換:リステリア規格、幅広い"Ready to Eat"対応へ(2021年)

 上記のように2020年までは、中国におけるリステリアの微生物規格は肉製品のみに限定されていましたが、2021年と2022年に、国家衛生委員会と市場監督管理総局(GAMS)が共同で、2つの新しい食品中の微生物規格基準を策定しました。

 この規格改正は、広範な病原微生物にかかる大規模なものであり、リステリア以外の微生物も含みますが、本記事ではリステリアに焦点を絞り解説します。

中国では2021年から全てのready to eat食品にリステリアの規格基準が設定された。

「国家食品安全基準:包装食品中の病原菌に関する規格」(GB 29921-20212021年11月22日に施行

  上述の「食品中の病原体制限、細菌の制限」(GB 29921-2013をもとに発展させたものですが、規格名称が「食品安全病原菌限度値国家標準」から「包装食品安全病原菌限度値国家標準」に変更され、あらたに包装食品に特化した基準に整理されました(後述のばら売り、量り売り食品と区別)。

新たに改訂された基準では、

  • 包装食品については、これまでのように肉製品に限定せず、乳製品、水産物、すぐに食べられる果物・野菜製品、冷凍飲料についても同様の制限値が追加されました。
  • 25g中にリステリア・モノサイトゲネスが検出されてはならない(n=5)注)

   注)水産物のみは、100cfu/g (n=5)までを許容

中国で設定されたリステリアの具体的な基準。

「国家食品安全基準:バラ売り、量り売り食品中の病原菌に関する規格」(GB 31607-20212022年3月7日に施行

 この基準は、包装食品として売られるものではなく、小売店舗でバラ売り、量り売りされるなどのready to eat食品(中国語では、これを散装即食品と呼称、英語ではbulk food)で、なおかつ、Ready to eat食品について基準値を設けたものです。

 2013年に施行されたGB 29921-2013は包装済み食品にのみ適用されていたため、バラ売りとして量り売りされるなどの食品の病原性細菌を制御するための基準がなく、規制ギャップを生じていました。そこで、2022年のGB 31607-2021により、ばら売り、量り売り食品についても微生物規格が設定されることになり、中国で流通するより広範な食品中の病原性細菌に関する規格が設定されたことになります。

バラ売り食品でもリステリアの規制がかかっていることを示す写真イラスト。

非包装調理済み食品(ばら売り、量り売り食品)では、これらを次の3カテゴリーに分けています。

カテゴリー

 製造プロセス中にすべての成分が完全に加熱された後(中心温度が少なくとも70℃に達し、加熱時間が少なくとも1時間以上)後に販売される食品。

例えば、

  • 調理済みの肉とその製品、調理済みの卵とその製品、調理済みの水産物とその製品、調理済みの果物と野菜とその製品、調理済みの米と小麦粉製品、調理済みのナッツとローストした種子とナッツなど。

カテゴリー

 製造工程中に十分に加熱されていない原材料または新鮮な原材料を含む食品

例えば、

  • 冷たい果物や野菜のサラダ、絞りたての果物や野菜のジュース、生の肉、すぐに食べられる生の動物性水産物、新鮮なナッツ、新鮮な果物や野菜、肉、卵、水産物を含む食品など。

カテゴリー❸

 漬け込み、乾燥、発酵などの工程を経て調理されたばら売り調理済み食品、 および上記カテゴリー❶❷に含まれないばら売り調理済み食品。

例えば

  • 水産物の漬物、発酵ワイン、発酵肉製品、野菜の漬物など。

規格基準

 上記のカテゴリーの❶と❷についてのみ、下記の基準が設定されています(カテゴリー❸は適用除外)。

  • 25g中にリステリア・モノサイトゲネスが検出されてはならない(n=5)(ゼロトレランス)

  ただし、外食サービスの食品加工または処理されていない一次農産物には適用されません。

韓国は?

 なお、韓国のリステリア規格基準は、2023年現在、次の通りになっているようです。(出展:식품분야 공전 온라인 서비스

  • 食肉加工品類及び包装肉(殺菌製品またはそのまま摂取する製品に限る)
  • 乳加工品類(チーズ、バター等)
  • 卵加工品(殺菌製品またはそのまま摂取する製品に限る)
  • 氷菓類(アイスクリーム等)
  • 特殊栄養食品(乳児用調製乳類等)

基準は1~5について、すべて以下の通り

  • 25g中にリステリア・モノサイトゲネスが検出されてはならない(n=5)(ゼロトレランス)

 韓国では、卵加工品やアイスクリーム、特殊栄養食品にリステリアの基準を設けており、この点で日本より少し幅広いです。しかし、現時点で、すべての「ready to eat」食品にリステリア規格基準が導入されているわけではないようです。

まとめ

 以上、まとめると、中国でも2020年までは肉製品だけにリステリア基準を設けていましたが、 2021年の改正で、広範なready to eat食品にリステリアの規格基準を導入したということになります。

 既に米国やEUでは、リステリアに関しては、すぐに食べられるready to eat食品全般に規格が設定されています。今回の中国の抜本的な微生物規格基準改正は、この世界のトレンドに合わせたということになりそうです。

さて、日本について現時点で、下記2品目のみがリステリアの基準値が設定されています。

1)ナチュラルチーズ

2)非加熱食肉製品(生ハムなど)

 広範なready to eat食品におけるリステリアのリスクと、世界における微生物規格基準との調和性から考えても、日本のリステリアに関する規格基準もそろそろ改定すべき時に来ているかもしれません。

日本もそろそろリステリアに関する微生物規格基準の制度設計をし直す時であることをイメージする写真。

リステリア菌に関する基礎事項を確認したいた方は、本ブログの下記記事をご覧ください。

食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

また、中国におけるリステリア食中毒の実態については、本ブログの下記記事をご覧ください。

中国における妊婦やその他の人々のリステリア菌食中毒と食べ物の関係

北京の病院で明らかになった妊婦のリステリア症の実態: 2013年~2018年の調査結果

中国でのリステリア症迅速診断に革命!メタゲノム解析の成功事例