リステリア菌は、どのような種類の食品で汚染率が高く、どのような種類の食品で食中毒を起こしているのでしょうか?本記事は、世界および米国で50万サンプル以上の統計をまとめた最新論文から、リステリア菌が多い食品やそのリスク、そして日本の未来予測について解説します。

Sampedro et al.
Quantitative-risk-assessment-Listeria-different^food commodities: A retrospective analysis
International Journal of Food MicrobiologyVolume 383, 16 December 2022, 109932

 この研究は、米国ミネソタ大学のサンペドロ博士らによるものです。

本研究の主な目的は、以下になります。

  • 過去30年間の全世界で約50万サンプル(RTEサラダ、デリミート、ソフトおよびセミソフトチーズ、RTEシーフード、冷凍野菜)におけるリステリア菌(Listeria monocytogenes)の陽性率と濃度レベルの変化の分析を行う
  • 一定レベルの汚染(1、10、100CFU/g)があるロットの公衆衛生上のリスクを推定する

上記のうち、本記事では❶の部分のみの概要を紹介します。

食品におけるリステリア菌汚染率

分析頻度の高い食品

 過去30年間(1990-2020)の食品商品におけるリステリア菌の汚染率を推定するために、本研究で調査した文献中の総試料数は、全世界で約50万サンプル(そのうち、62.5%は米国で収集)でした。

  • デリミート(加熱処理された、またはされていない調理済み鶏肉または肉製品)は、全世界および米国のどちらでも、リステリア菌汚染率 を分析した総サンプル数の 67 % および 87 % を占める最もサンプル数の多いカテゴリーでした。
  • 次いで分析試料数が多かったのが、全世界では、ソフトおよびセミソフトチーズ、米国ではRTEサラダでした。
  • ソフト・セミソフト・チーズは、全世界でにおいて米国の2倍以上の割合で分析されていました。
  • RTE水産食品(スモークサーモン、その他のスモークフィッシュ、塩漬け、缶詰、乾燥、加熱処理及び漬物のシーフード)も、全世界において米国の3倍以上の割合で分析されていました。

 世界では、米国よりもソフトチーズやRTE水産食品の分析頻度が高い理由は、世界、特にEUにおける食習慣が米国と異なることが理由として挙げられます。

過去30年間において、世界と米国でディステリアの汚染を調べた食品の内訳

汚染率の高い食品

 RTE水産食品は、全世界と米国の両方で最もリステリア汚染率が高い食品でした。なお、EFSA報告でも、RTE水産食品を最も高い汚染率と報告しています。

過去30年間、米国と世界で分析された食品中のリステリアの汚染率を示したグラフ。

高濃度汚染食品

100CFU/gを超えるサンプルの割合が最も高かった商品は、以下の通りでした。

  • 世界ではソフト/セミソフトチーズとRTE水産食品
  • 米国では冷凍野菜とデリミート

米国では、RTEサラダ、デリミート、冷凍野菜では、高濃度汚染食品の割合が世界と比較して高く、その他の商品では低いことが分かりました。

過去30年間、世界と米国で高濃度のリステリアが検出された食品の比較

リステリア症の原因となりやすい食品

 米国でのリステリア症患者の90%以上が加工肉製品(デリミート)により感染していました。次いで、5%弱のサラダに続き、ソフト・セミソフト・チーズとread to eat水産食品が0.5〜1.0%を占めていることがわかりました。また、冷凍野菜が0.2~0.3パーセントを占めました。

米国出張してリア感染の90%がデリーミートが原因であることを示すイメージ写真

 以上のように、米国では、デリミートがリステリア食中毒の原因食品として主要な位置を占めているようです。しかし、米国でも、デリミート以外での重大な食中毒も起きてます。また、世界全体では、それぞれの食習慣により、多様な食品でリステリア食中毒が起きています。

日本とリステリア食中毒(未来予測)

 日本において、リステリア菌による食中毒の事例は2001年の北海道でのナチュラルチーズを原因とした集団感染事例に限られます。しかし、厚生労働省は日本でも年間約83件(0.65人/100万人)のリステリア症が発生していると推計しています。本記事で紹介したデリミート、ソフト・セミソフト・チーズやRTE水産食品などは、日本でも消費が増えており、世界的な食品供給チェーンの複雑化により、リステリア菌のリスクから免れられなくなっています。

 日本における最大の問題は、リステリア菌による食中毒が起きていないわけではなく、リステリア菌と食中毒の原因との関連性がまだ十分に解明されていないということです。食品製造業者は、この点に留意する必要があります。本記事で紹介された食品だけでなく、消費者が加熱調理をしなくても食べられるready to eat食品を製造している企業はすべて、リステリア菌の潜在的リスクを常に考慮に入れ、食品製造衛生管理を行う必要があります。

※リステリア菌の基礎事項を確認したい方は下記記事をご覧ください

食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

※世界における過去におけるリステリア食中毒の事例は、下記記事もごらんください。

<米国>

<世界>