ノロウィルス感染は、ホテル、病院、クルーズ船、学生寮などの閉鎖的な空間で、1人の感染者から爆発的に拡大することがあります。ノロウィルスの唯一の宿主は人間であり、増殖場所は人の腸内のみですが、吐物や糞便を通じて環境に放出されると、環境中では非常に安定しています。これにより、水、食物、表面、嘔吐物、対人感染など多くの感染経路を通じて広がります。今回の記事では、スペインのリゾートホテルで一人の従業員から爆発的にホテル内に拡散したノロウィルス食中毒の事例を紹介し、その対策について詳しく解説します。

Doménech-Sánchez et al.
Norovirus outbreak causing gastroenteritis in a hotel in Menorca, Spain.
Enferm Infec Microbiol Clin. 2021;39:22–24.
open access

事例紹介:スペインのリゾートホテルでの爆発的感染

 2016年9月、スペインのメノルカ島のリゾートホテルで100人以上がノロウィルスに感染する爆発的な事態が発生しました。ホテルに滞在する観光客123人スタッフ28人が感染しました。従業員の発症率(19.7%)宿泊者の発症率(6.6%)よりも高くなりました(ホテル全体の発症率7.5%)。

リゾートホテルでノロウィルスのアウトブレイク発生

原因究明の結果、9月16日に1人のノロウィルス感染した従業員の出勤が発端となり、ホテル全体に感染が広がったと推定されました。

一人の従業員が気分が悪い状態

 この従業員がどのように感染を広げたかは明確ではありませんが、彼が触れたドアノブやその他のホテル内の物品を通じて、客や他の従業員に感染が広がったと考えられます。

 宿泊客では性別による明確な差は見られませんでしたが(女性56%対男性44%)、従業員では明らかに女性スタッフの方が高い感染率でした(女性78.6%、、男性21.4%)。この理由として、特に客室清掃スタッフに女性が多かったため、感染した客室を清掃する際、表面を触ることで従業員が感染したと考えられます。

ホテルの清掃員たちが会話している

ホテルの対応と対策

 ホテルはノロウィルスの伝播を防ぐために、9月12日に以下の対策を徹底しました:

1. 徹底的な清掃
 客室や従業員が頻繁に触れる箇所を重点的に清掃しました。特に以下のポイントで清掃頻度を強化しています。

共用エリアの清掃頻度を向上
◾ホワイエ
◾ゲームルーム
◾ジム
◾その他、特に手に触れる可能性のある箇所

重点的に清掃された箇所
◾エレベーターや自動販売機のボタン
◾リーフレットが置かれた机
◾広報パンフレット、アクティビティーのリーフレット
◾内部エリアの子どもの手形が貼られた窓

レストラン内の対応
◾入り口に手指消毒剤を設置
◾カトラリーにカバーを設置

客室内の重点清掃箇所
◾ドアの取っ手
◾蛇口
◾電話のキーパッド
◾リモコン

ホテルの清掃箇所

2. 清掃方法の変更:掃除機やほうきを使わず、埃が立たない湿ったモップでの清掃に切り替え。ほうきや掃除機は、空気感染によるウイルスの拡散のリスクを高めるため、モップに取り替えました。また、カーテンやカーペットなどの繊維製品に付着したウイルスを不活化するため、高圧蒸気洗浄機を導入しました。

ホテルの清掃方法を変更する清掃スタッフ

3. 果物提供方法の変更:果物を丸ごと提供するのをやめ、あらかじめカットしてガラスの蓋をして提供。客室のパンと皮をむいていない果物を、あらかじめ用意されカバーがかけられたスライス済みのパンと刻んだ果物に取り替えました。

ホテルのサービス果物を点検する従業員

 これらの対策により、ホテルが管理措置を開始した8日後(9月18日)にはホテル内のノロウィルス感染は収束しました。

まとめ

 今回紹介したホテルでの爆発的感染事例は、1人の感染者が閉鎖空間でウィルスを爆発的に拡散させるリスクを示しています。

ノロウイルス爆弾を抱えた一人の客

 ノロウィルスは食事を介して感染することが多いですが、閉鎖空間では感染者が触れた物品を通じても拡散することが分かります。この事例を通じて、ホテルやクルーズ船などの閉鎖空間での感染対策の重要性が再認識されました。

ドアノブを触ろうとしている手

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