米国は生鶏肉のサルモネラ菌の微生物規格基準設定の検討を開始

 米国農務省(USDA)の食品安全検査局(FSIS)は、生鶏肉中のサルモネラ菌汚染微生物規格基準設定に関しての検討を着手しました。2022年10月14日、鶏肉製品に含まれるサルモネラの制御を検討するための新戦略として「規制の枠組みを検討中」と発表しました。この発表の3基本方針の1つに鶏肉のサルモネラ微生物規格基準の設定が盛り込まれています。生鶏肉中のサルモネラ菌に関しての微生物規格基準を設定することに消極的だったUSDAの画期的な方針転換と言えそうです。

Proposed Regulatory Framework to Reduce Salmonella Illnesses Attributable to Poultry
米国農務省(USDA)食品安全検査局 (FSIS) 2022年10月14日

これまでの経緯

 今回のFSISの方針発表に先駆けて、FSISは 2022年8月1日、パン粉をまぶした生鶏肉製品に含まれるすべてのサルモネラ菌を「検出してされてはならない細菌」として指定することを発表していました。この経緯にや、米国の鶏肉とサルモネラ汚染に関する問題については、下記の記事で述べています。本記事の前に、ご参照ください。

パン粉をまぶした生鶏肉にサルモネラ菌の微生物規格基準設定(米国)

 今回の方針発表は、さらに、規制範囲を生鶏肉全体に広げて、鶏肉でのサルモネラ菌の微生物規格基準設定の方向性を示したものと言えます。

 FSISは現在、生産者にサルモネラ菌の検査を義務付けていますが、一定の基準値を超えた生産者には警告が出されるだけで、その肉の販売は禁止されているわけではありません。

 このようなFSISの鶏肉のサルモネラ菌の基準の甘さに対して、これまで米国の消費者団体などから何度も、もう少し厳しい法的な措置をとるように嘆願書が出されていました。具体的には複数の血清型のサルモネラ菌の陰性とする微生物基準を求めていました。この点についても、上記の記事をご覧ください。

3つの基本方針

 さて、今回のFSISの発表にある今後の検討方針には3つの柱があります。

  • まず、食鳥処理場に入る前の鶏群にサルモネラ菌の検査を要求します。
  • 次に、食鳥処理場の工程管理の監視と FSIS 検証を強化します。
  • 最終的に、鶏肉に対する強制力のあるサルモネラ菌の微生物規格基準を設定します。

基本方針1:食鳥処理場に入る前の鶏群へのサルモネラ菌の検査の義務化

  FSISは、食鳥処理場が養鶏場から鶏を受け入れる際にサルモネラ菌を検査することを施設に義務付けることを検討しています。

 検討中の方針では、食鳥処理場で受け取った各鶏群に、鶏が屠殺前にサルモネラ菌の検査を受けたことを証明し、サルモネラ菌の汚染率や菌数レベル、血清型等を記録した文書を添付する必要があります。FSIS は、定期的な監査で、この文書を検証します。

  • 所定の目標を満たしていない場合

 サルモネラ菌レベルが食鳥処理場の受入時に所定の目標を満たしていない場合、食鳥処理場は、養鶏場に対してサルモネラ負荷を減らし、最終製品基準を満たすために必要な是正措置と追加の介入を要求できるとしています。

 FSIS は、この基本方針で、養鶏業や食鳥処理場に具体的な採否の基準を要求するわけではありません。しかし、業界が鶏肉のサルモネラ汚染を減らすための最も効果的な措置をとるように推奨します。食鳥処理場と養鶏業者が協力して、繁殖施設、孵化場、育成施設、および輸送全体でサルモネラ菌の危険を軽減するためのベストプラクティスを確実に実施するよう奨励します。

基本方針2:施設の工程管理監視と FSISによる査察の強化

 食鳥処理場がその業務全体を通じて効果的にサルモネラ菌を管理していることを確実にするため、食鳥処理場施設内の微生物検査の強化を求めます。

 FSIS は、食鳥処理場が複数の段階で細菌のサンプリングを採用することにより、処理中のサルモネラ菌の監視を強化する必要があるとしています。多点サンプリングよび工程管理への統計的手法の使用を含む、施設モニタリング手順の強化を要求します。この際、施設は指標生物(例えば、一般生菌数と腸内細菌科)の試験が必要になる可能性があります。

基本方針3:鶏肉に微生物規格基準を設定

 鶏肉に対するサルモネラ菌の微生物規格基準の設定を検討しています。

 これらの微生物規格基準は、人の病気に関連する血清型の考慮、感染量、人の病気の重症度、および消費者の典型的な調理方法などを考慮して決定される予定です。

 サルモネラの血清型については、これまで消費者団体がFSISに32血清型のサルモネラ菌を対象に基準を設けるべきだと要求していました。

 今回のFSISの公表では、米国CDCの最近のヒトの病気に関するデータと、鶏肉および七面鳥製品からの FSIS サンプリング結果を分析した結果、次の3 種類の血清型に焦点をしぼって、微生物規格基準が設定される見込みです。

  • 血清型Enteritidis
  • 血清型Typhimurium
  • 血清型Infantis

上記3つの血清型は、合わせてサルモネラ感染症全体の33%の原因となっています。

 なお、鶏肉の規格基準設定を担当する米国食品医薬局(FDA)は、サルモネラ菌の「ゼロトレランス」基準ではなく、定量化に基づく強制力のある最終製品基準を最初に開発することを検討しているようです。

 FSISは、 2022年10月現在、FSIS は、3基本方針に関する利害関係者のパブリックコメントを引き続き求めています。そして、2024 年半ばまでに何らかの規則を最終化することを目標に、この戦略を実施する追加の規則案と政策を 2023 年に公表する予定であるとしています。 

期待される効果

 米国保健社会福祉省では2030年までに達成すべき目標として、サルモネラ感染症の国内患者率を年間10万人当たり11.5人以下にまで削減するとしています。2030年の目標を達成するためには、患者数を25%減少させる必要があります。FSISは、FSIS規制製品に関連するサルモネラ感染症を25%削減することを目標としています。 

 FSISの提案する枠組みでは、鶏肉に含まれるサルモネラ菌による人の病気は25%減少すると見込まれるとしています。

 また、今回公表されたFSISの戦略として考えられる枠組み案の重要なポイントは、業界に問題を解決させることです。

 基本方針1~3の運用により、消費(基本方針3)から川上’(基本方針1)へ順受圧力がかかり、最終的には、養鶏業界は、健康な鶏を食肉処理場に送らなければならない方向へ強くベクトルが向いていくことになります。つまり食鳥処理場に清潔な鳥を受け入れるよう圧力をかけることで、食肉処理場や加工業者が養鶏業者に圧力をかけ、問題が解決されるとFSISは考えているようです。

 なお、すでにEUでは、生の鶏肉に関して微生物規格基準を設定しています。 2011年12月に特定の血清型(Salmonella EnteritidisとSalmonella Typhimurium)については25g当たり検出されてはならない(検査試料数n=5)という基準が食品安全基準に組み込れています。詳しくは下記記事をご覧ください。

すでに鶏生肉に厳しい規制を課しているEU

 今回米国も鶏肉にサルモネラ菌の微生物規格基準を設定する方向に舵を切ったことにより、これまで米国の基準に類似していた中南米や、また、日本、韓国などの東アジア諸国の対応も注目されるところです。