昨年、日本で流しそうめんによるカンピロバクター食中毒事件が発生し、その意外性が注目を集めました。同様に、米国でも昨年暮に、カンピロバクター食中毒の意外な原因食品としてカナダ・ブリティッシュコロンビア産の特定の生ガキによるカンピロバクター食中毒が報告されました。これらのケースは、一見カンピロバクター食中毒の原因と無関係と思える食品からの食中毒リスクを浮き彫りにしています。実は、生ガキによるカンピロバクター食中毒は、新たなケースではなく、2021年にも米国ロードアイランド州で食中毒事件が起こっています。本記事では、これらの生ガキに起因するカンピロバクター食中毒の事例を詳しく探り、その背景と予防策について解説します。

生牡蠣のイラスト。

2023年カナダ産生カキによる米国で発生したカンピロバクター食中毒

 まずは、昨年の暮れに米国で発生したカンピロバクター食中毒について紹介します。2023年12月22日の米国FDAの発表によると、ユタ州(1名)とウィスコンシン州(1名)でカンピロバクター食中毒が発生しました。これらの患者の聞き取り調査から、共通してカナダのブリティッシュコロンビア州(米国に隣接するカナダの太平洋側の大きな州です)で生産された生ガキを食べていたことが判明しました。

 FDAは、現在、 カナダ食品検査庁(CFIA)にこの疾病を通知し、CFIAが調査中です。 FDAは、カナダブリティッシュコロンビア州から輸入された特定のガキのロットについてリコールを実施し、販売と消費を控えるよう警告しています。

医者のインタビューに答える米国人女性。

2021年には米国ロードアイランド産のカキで発生したカンピロバクター食中毒

 さて、生ガキによるカンピロバクター食中毒は、実は2年前に米国でも発生しています。これはカナダから輸入されたカキではなく、米国自身で生産されたカキです。その場所はロードアイランド州で、ロードアイランド州はニューヨーク州よりも北東部の太平洋側にある小さな州です。このロードアイランド州で2021年にカンピロバクターの患者が発生しました。以下にロードアイランド州保健局のカロン博士らが出版した報告論文の概要を示します。

Caron et al.
Campylobacter jejuni Outbreak Linked to Raw Oysters in Rhode Island, 2021
Journal of Food Protection Available online 30 September 2023, 100174
CC BY-NC-ND 4.0 DEED

 患者は8人で、38%は女性(3/8)で、年齢の中央値は53歳(23歳から75歳の範囲)でした。全例が下痢を報告し、症例の88%が発熱、63%が腹部けいれん、63%が吐き気、38%が嘔吐を訴えました。生ガキを食べた後の発病までの潜伏期間の中央値は50.6時間(n=8)で、これは多くのカンピロバクター症例で見られる平均潜伏期間2~5日と一致していました。1人の患者は、感染から約2.5週間後にギラン・バレー症候群を発症し、入院しました。

 8人の患者に聞き取りを行ったところ、全員がロードアイランド州で生産されている生ガキを食べたと報告しました。最終的に生ガキからカンピロバクターが検出され、ロードアイランド州当局は生ガキがカンピロバクター食中毒の原因であると特定しました。

 この際、調査で明らかになったことは、生ガキの処理加工業者の衛生環境等には問題がなく、流通段階においても衛生上の不備はありませんでした。

下記加工工場を査察するFDAの検査職員。

 そこで、衛生当局は実際にロードアイランド州の沿岸で生産されているカキ養殖場を調査したところ、生ガキの生産エリアで既にカンピロバクターの汚染があることが分かりました。さらに観察をすると、このロードアイランド州の生ガキの生産現場には牡蠣かごの浮き具があり、その上に多くの野鳥がとまっていることが確認されました(下写真)。

牡蠣の養殖場に群がる野鳥

 上の写真は本記事引用論文の公開ポリシー(CC BY-NC-ND 4.0 DEED)のもとに論文の写真をそのまま掲載(日本語注挿入)

 このことから、当局はカンピロバクターの汚染源は本菌の自然宿主である野鳥と推定し、鳥による汚染が生ガキに伝わったと考えました。そのため、衛生当局は養殖業者に牡蠣かごの浮き具の撤去と水中でのカキ養殖を指導しました。

 その結果、鳥の飛来が減少し、カンピロバクターの汚染もなくなりました(下写真)。

筏が撤去された牡蠣の養殖場。

 上の写真は本記事引用論文の公開ポリシー(CC BY-NC-ND 4.0 DEED)のもとに論文の写真をそのまま掲載(日本語注挿入)

 一般的にカンピロバクター食中毒の原因として、貝類は考えにくいとされています。CDCの全米アウトブレイク報告システムによると、1970年代以降、米国ではカンピロバクターに起因するアウトブレイクが996件検出されていますが、そのうち12件(1.2%)だけが貝類を感染源とするアウトブレイクです。したがって、患者がカンピロバクター食中毒になった時の質問票のアンケートには、食材として生ガキなどの貝類は含まれていませんでした。

 ロードアイランド州の衛生当局は、以上の経緯から、今後はこれらのアイテムに生ガキも質問事項に入れるように変更すべきであると助言しました。

食中毒質問シートについて議論する2人の職員。

まとめ

 カンピロバクター食中毒は、一般的に鳥肉やその交差汚染が主な原因とされています。これは、鳥類がカンピロバクターの自然宿主であるためです。しかし、野鳥が飛来して糞を落とす場所ではカンピロバクターの汚染が考えられます。たとえば、昨年日本で天然湧き水を使った流しそうめんにおけるカンピロバクター食中毒が発生した例があります。今回紹介した生ガキによるカンピロバクター食中毒も同様のケースです。

 食品を取り扱う環境において、鳥が飛来する環境にはカンピロバクター汚染の注意が必要です。

野鳥について心配する水産業者。

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