■ 食品微生物の基礎講座
大腸菌とは何か、大腸菌群とは何か
本記事では、まずは、大腸菌とは何か、大腸菌群とは何か、 両者の違い、これらの微生物の定義、どこにいるのか、食中毒菌なのか、死滅しやすいのか、体内に入るとどうなるのか、腹痛を起こすのか、 などなどの初心者の疑問が一括して解決できるように説明を加えたい。一方、少し踏み込んで、 環境での生存、検査方法、食品で大腸菌菌群が検出されることの意味、国内と海外の大腸菌や大腸菌群の微生物規格はどう違うのか、食品衛生法上の位置づけや問題点、についても説明する。
食品中の一般生菌数の目安や基準値の理由、データの読み方を理解する
この記事では、食品中の一般生菌数の目安や基準値の理由、データの読み方を理解することを目的とする。新鮮な食品や腐敗した食品、糞便、あるいは空気中にどれぐらいの数の微生物がいるのか?このような私たちの身の回りの微生物数に関する基本的な理解がないと、一般生菌数の測定結果の解釈で、思わぬ落とし穴に落ちる可能性がある。
培地成分の読解力の必要性
本基礎講座では、グラム染色の重要性の一連の記事で、グラム陽性菌は疎水性官能基を持った化合物に弱く、 グラム陰性菌は強い、ということを説明してきた。 この理解は、食品微生物の検査培地の成分の読解力にも関連してくる。 本記 […]
グラム陽性菌と陰性菌の棲家の違い、特徴、覚え方のまとめ
前記事までに、グラム陽性菌とグラム陰性菌の特徴と、これらの食中毒菌としての特性を一つの流れとして理解するために説明をした。グラム陰性菌は物理的ストレスに弱いが化学薬剤には強いこと、グラム陽性菌はその逆で物理ストレスには強いが化学ストレスには弱いことを説明した。また、これまで、感染型食中毒細菌のほとんどはグラム陰性菌であると説明してきた。本記事ではそれらをまとめて整理する。
グラム陽性菌と陰性菌の特徴ー感染型食中毒と毒素型食中毒
グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いは、食中毒菌としての側面でも関連してくる。食中毒菌は毒素型食中毒菌と感染型食中毒菌に2分できる。毒素型食中毒菌とは、菌が作り出す毒素が食品中に蓄積して、ヒトがその毒素を摂食して発症する食中毒である。一方、感染型食中毒菌の場合、ヒトに危害をあたえるのはあくまでも菌自身である。菌自身がヒトの口→胃→腸管へと侵入し、最終的に腸管粘膜上皮細胞から体内に侵入しようとする攻防の結果、発熱や下痢を引き起こす。
グラム陽性菌と陰性菌の特徴ー化学物質に対する耐性の違い
グラム陽性菌と陰性菌の細胞表層構造の違いは、細菌の化学物質に対する耐性の違いにも直結する。大まかに述べると、グラム陽性菌は化学物質に弱く、陰性菌は強い。陰性菌では外膜のリポ多糖がさまざまな化学物質の侵入を防ぐバリアーとして働く。一方、陽性菌の持つ細胞壁は分厚く、物理的には強固であるが、実は、構造上、スカスカであり、化学的バリアーとしては、ほとんど役に立たないといってよい。
グラム陽性菌と陰性菌ー構造の違い
本記事では、グラム陽性菌と陰性菌の細胞構造の特徴と違いについて簡単に述べておきたい。構造の基本的理解が、これら2種類の細菌の生息環境、性質、食品衛生上の管理の観点に密接に関連してくるので、要点だけ簡単の述べておく。厚いペプチドグリカン層の細胞壁を持つグラム陽性菌は、グラム染色液で強く染まる。一方、薄いペプチドグリカン層しか持たず、その代わり、細胞壁の外側が粘膜多糖で覆われているグラム陰性菌はあまり強く染まらない。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いードライとウェットでの生き残りやすさ
グラム陽性菌とグラム陰性菌の特徴や違いのうち、まず最も大きな点について述べる。大腸菌などのグラム陰性菌は乾燥した固体表面が苦手である。基本的に水っぽいところに生息する水生細菌の仲間に近いといってよい。私は時々、大学のトイレのノブに大腸菌の汚染があるかどうかを調査するが、ほとんど大腸菌が検出されることはなく、ドアノブに生存しているのは黄色ブドウ球菌やバチルスなどのグラム陽性菌ばかりである。大腸菌などのグラム陰性菌は、バチルスや黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌と違って、食品工場のラインのゴムやステンレスなどのドライ表面は基本的に苦手な菌と考えてよい。
グラム陽性菌と陰性菌の違いー概略の理解
グラム陽性菌とは何か。グラム陰性菌とは何か。グラム染色の目的・意義、グラム染色でわかること、グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い、種類、細胞壁の構造の違いについて、これから数記事で説明していく。これらの基本を理解しておくと、食品微生物学において、毒素型食中毒菌、感染型食中毒菌の違い、食品製造工場での生残や2次汚染のしやすさ、化学的薬剤への感受性などがドミノ倒しのように理解できるようになる。
食品微生物学の基礎 (このシリーズの目的)
このシリーズ記事は食品微生物学の初心者が食品微生物学の基礎を習得するためのものです。大きな事をまず理解するという観点で、やや大胆に例え話を含めながら行います。私は大学の食品微生物学研究室に30年以上在籍し、 また日本食品微生物学会や国際食品微生物衛生委員会(ICFMH)の公式ジャーナルの編集委員長や編集委員として幅広い知識に触れてきました。これらの経験のエッセンスをこのシリーズで伝授します。