■ 過去20年間の注目論文

薬剤耐性菌
薬剤耐性菌(ESBL産生菌)による院内感染が病院食堂の食品からおきた

本シリーズでは薬剤耐性菌問題を、特に食品の摂取との関連の記事を中心に紹介しています。前記事では、市販の鶏肉が市中尿路感染での大腸菌の供給源になっている可能性を示す論文を紹介しました。しかし、前記事の研究はあくまでも臨床株と市販肉分離の大腸菌の遺伝子性状の比較による、間接的な推測でした。今回紹介する事例は、実際に病院の食堂で提供される食品由来の薬剤耐性菌(ESBL産生菌)が入院患者の院内感染の原因となったことを直接的に示したレポートです。

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薬剤耐性菌
シリーズ:薬剤耐性菌問題に食品産業はどのように取り組むべきか?

今記事以降、新型コロナウィルスの次に人類を襲うと心配されているパンデミック問題を、シリーズで扱います。それは薬剤耐性菌の問題です。薬剤耐性菌の問題は感染症の問題にとどまらず、外科手術での事前感染予防対策や、免疫がん療法など、幅広く、甚大な影響を及ぼすと想定されています。2050年頃には薬剤耐性菌による死者数は、現在の癌患者数以上になるとの推計もあります。このように、薬剤耐性菌の問題は極めて深刻であり、食品産業界においても取り組まなくてはならない問題です。したがって、この問題をシリーズ化して扱います。

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一般生菌数や衛生指標菌
ISO基準の一般生菌数(30°C、72時間)検査方法で、低温細菌や変敗・腐敗乳酸菌はどれくらい測定できているのか?

 一般生菌数の測定は、米国(AOAC方式 、35°C48時間 )とEU(ISO方式、30 °C 72時間)に2分されています。ISO方式では米国の方式よりも培養温度を低くして長い時間を培養しています。その理由として、低温細菌をできるだけ拾いたい背景があるからだと別記事で述べました。しかし ISO方式 でも低温細菌は検出には不十分です。 ISO方式 の一般生菌数測定法では、低温細菌や変敗・腐敗乳酸菌を果たしてどれくらい測定できているのでしょうか?

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ノロウィルスおよびその他ウィルス関連
RNAウィルス変異株出現の理由と仕組みー中程度の免疫弱者がウィルスの変異株の出現と拡大原因となりやすい

前記事で、なぜノロウィルスの変異株が出現するのかの仕組みとして、長期感染の免疫弱者に関する論文を紹介しました。しかし、ウイルスの変異株の誕生と変異ウイルスが自然界に拡大する現象は区別して考える必要があります。今回紹介する論文は、RNAウイルスの変異株の出現、およびその後の選択圧(宿主の免疫力)と自然界での拡大の関係を理論的に提示したものです。ウィルス研究者の間で何度も引用をされている重要論文です。

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一般生菌数や衛生指標菌
糞便系大腸菌群は衛生指標菌として信頼できるか?

 今回紹介する論文は、水道水における糞便系大腸菌群の指標菌としての妥当性の是非をめぐる、いくつかの論文での論争です。水道水において糞便系大腸菌の衛生指標としてはたしてどれだけ信頼できるのかについて、数年前に、2つの相反する結論を主張する論文が出版され、注目されました。今回はこの2つの論文を紹介します。

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ノロウィルスおよびその他ウィルス関連
 ウィルスの変異株は免疫力が低下した回復の遅い感染者で出現しやすい

新型コロナウイルスの変異株(オミクロン株、B.1.1.529系統)が南アフリカであらたに出現し、読者の皆様も、気がかりな週末を過ごされたのではないでしょうか。そもそも、ウィルス変異とは何か、ウィルス変異の理由、仕組みとメカニズムの理解が重要です。特に、どのような状況で変異株が出現しやすいのかについて理解しておくことも重要です。

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一般生菌数や衛生指標菌
食品の大腸菌群検査の意義や基準に対して米国でも疑問の声あり

世界の食品微生物分野での大腸菌群の検査は、今後、消えていくかもしれません。現在、日本では、多くの食品の衛生基準に大腸菌群が入っています。国際的な微生物規格基準を設定しているコーデックスでは、確かに伝統的に食品衛生の指標として大腸菌群を用いてきた(コーデックスにおいては、現時点でも大腸菌群の基準が一部の食品において残っている)。しかし、 すでにEUでは食品の検査に大腸菌群は用いられていません。その代わり、大腸菌(Escherichia coli)および、腸内細菌科菌群の検査が採用されています。 日本以外の主な国は、例えば、米国や南米の一部の食品(乳製品等)で大腸菌群の基準があります。また、韓国でも日本と同様に多く食品の衛生基準に大腸菌群が設定されています。しかし、最近、米国やブラジルでも、乳製品業界や大学識者から疑問の声があがっています。本記事では、それらのいくつかの例を紹介します。

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セレウス菌
セレウス菌食中毒の原因の毒素(嘔吐毒)セレウリドの本来の目的はイオノフォアとしての抗生物質

数記事にわたり、人に危害を与える食品由来の病原微生物の病原因子は必ずしも人間を標的として進化してきたのではないということを示す研究例をいくつか紹介してきました。今回は、毒素型食中毒菌のセレウス菌の食中毒の原因の毒素、嘔吐毒であるセレウリドについての研究例を紹介します。この毒素セレウリドもまた、ヒトへの感染経路とは無関係な自然界で、他の細菌を攻撃するイオノフォア系の抗生物質として、本来の役割を果たしている可能性を示す論文です。

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ノロウィルスおよびその他ウィルス関連
新型コロナウイルスの死滅と真夏の太陽光

今回は、このコーナーでは例外的に、最新論文を紹介します。コロナウイルスの論文です。オンライン公開されたのは今年(2020年)の7月23日です。なぜこの論文を紹介したくなったかと言うと、人間の咳から飛沫として飛び出したコロナウイルスが室内と真夏の太陽光の下ではどのぐらい死滅時間が違うのかということに興味があったからです。太陽光の紫外線によってウイルスが死滅することは知られている事実です。しかし、コロナウイルスについて具体的にどのぐらいの太陽光によってどのぐらいの割合で死滅していくかについての定量的なデータはこれまでありませんでした。米国国立バイオディフェンス研究所(米国国土安全保障省科学技術局)のマイケル・シュイト博士らの研究です。

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リステリア
リステリア菌のリステリオリシンO(LLO)も元々は動物腸内や土壌での原生動物からの捕食への対抗手段?

 リステリア菌はヒトに感染すると、腸管上皮細胞に侵入し、免疫機構としてのマクロファージなどのからの捕食でも細胞内寄生により回避するという巧妙な感染メカニズムで人にリステリア菌感染症をおこします。特に妊婦の流産や高齢者の敗血症や髄膜炎などの重篤な症状をおこします。リステリア菌の感染で重要な因子がリステリオリシンO(LLO)です。今回紹介するのは、ロシア医科学アカデミーのプッシュカレバ博士らの研究で、リステリオシンが、もともとは、リステリア菌と自然生態系での細菌の捕食者である繊毛虫テトラヒメナと捕食を巡る関係において進化したことを示す論文です。

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