基礎講座ー食品微生物学の基礎
グラム陽性菌とグラム陰性菌の違いードライとウェットでの生き残りやすさ

 グラム陽性菌とグラム陰性菌の特徴や違いのうち、まず最も大きな点について述べる。大腸菌などのグラム陰性菌は乾燥した固体表面が苦手である。基本的に水っぽいところに生息する水生細菌の仲間に近いといってよい。私は時々、大学のトイレのノブに大腸菌の汚染があるかどうかを調査するが、ほとんど大腸菌が検出されることはなく、ドアノブに生存しているのは黄色ブドウ球菌やバチルスなどのグラム陽性菌ばかりである。大腸菌などのグラム陰性菌は、バチルスや黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌と違って、食品工場のラインのゴムやステンレスなどのドライ表面は基本的に苦手な菌と考えてよい。

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基礎講座ー食品微生物学の基礎
グラム陽性菌と陰性菌の違いー概略の理解

グラム陽性菌とは何か。グラム陰性菌とは何か。グラム染色の目的・意義、グラム染色でわかること、グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い、種類、細胞壁の構造の違いについて、これから数記事で説明していく。これらの基本を理解しておくと、食品微生物学において、毒素型食中毒菌、感染型食中毒菌の違い、食品製造工場での生残や2次汚染のしやすさ、化学的薬剤への感受性などがドミノ倒しのように理解できるようになる。

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セレウス菌
セレウス菌食中毒の原因の毒素(嘔吐毒)セレウリドの本来の目的はイオノフォアとしての抗生物質

数記事にわたり、人に危害を与える食品由来の病原微生物の病原因子は必ずしも人間を標的として進化してきたのではないということを示す研究例をいくつか紹介してきました。今回は、毒素型食中毒菌のセレウス菌の食中毒の原因の毒素、嘔吐毒であるセレウリドについての研究例を紹介します。この毒素セレウリドもまた、ヒトへの感染経路とは無関係な自然界で、他の細菌を攻撃するイオノフォア系の抗生物質として、本来の役割を果たしている可能性を示す論文です。

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ノロウィルスおよびその他ウィルス関連
新型コロナウイルスの死滅と真夏の太陽光

今回は、このコーナーでは例外的に、最新論文を紹介します。コロナウイルスの論文です。オンライン公開されたのは今年(2020年)の7月23日です。なぜこの論文を紹介したくなったかと言うと、人間の咳から飛沫として飛び出したコロナウイルスが室内と真夏の太陽光の下ではどのぐらい死滅時間が違うのかということに興味があったからです。太陽光の紫外線によってウイルスが死滅することは知られている事実です。しかし、コロナウイルスについて具体的にどのぐらいの太陽光によってどのぐらいの割合で死滅していくかについての定量的なデータはこれまでありませんでした。米国国立バイオディフェンス研究所(米国国土安全保障省科学技術局)のマイケル・シュイト博士らの研究です。

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リステリア
リステリア菌のリステリオリシンO(LLO)も元々は動物腸内や土壌での原生動物からの捕食への対抗手段?

 リステリア菌はヒトに感染すると、腸管上皮細胞に侵入し、免疫機構としてのマクロファージなどのからの捕食でも細胞内寄生により回避するという巧妙な感染メカニズムで人にリステリア菌感染症をおこします。特に妊婦の流産や高齢者の敗血症や髄膜炎などの重篤な症状をおこします。リステリア菌の感染で重要な因子がリステリオリシンO(LLO)です。今回紹介するのは、ロシア医科学アカデミーのプッシュカレバ博士らの研究で、リステリオシンが、もともとは、リステリア菌と自然生態系での細菌の捕食者である繊毛虫テトラヒメナと捕食を巡る関係において進化したことを示す論文です。

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腸管出血性大腸菌
腸管出血性大腸菌(STEC)の ベロ毒素(志賀毒素)は牛の腸内で原生動物からの捕食から逃げ、生存するためにある?

腸管出血性大腸菌のベロ毒素とは何か?腸管出血性大腸菌がヒトへの感染に役割を果たすの遺伝子のひとつがベロ毒素(志賀毒素)の遺伝子stxです。ベロ毒素の作用機序として、ヒトの腸管上皮細胞のリボゾームに結合して細胞を破壊します。その結果、腸から大量の出血が起き、血便となります。さて、そもそも、腸管出血性大腸菌はこのようにヒトを攻撃するためにベロ毒素を作っているのでしょうか?

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ビブリオ
コレラ菌は動物プランクトンにヒトへの感染と同じ因子を使って付着する

コレラ菌はグラム陰性の水生菌で、動物プランクトン(貝類やエビなどの甲殻類の幼生)のキチン質外骨格に付着した環境で多く観察されています。このような動物プランクトンにコレラ菌が付着して生息している理由として、付着表面の環境が多くの栄養素に富んでいるでことと、様々な環境ストレスからコレラ菌を保護する役割の2つが想定されています。 この記事では、コレラ毒素の遺伝子が元々はヒトへの感染経路とは無関係にコレラ菌自体が自然生態系で生き残るために用いている可能性を示す論文を紹介します 。

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ビブリオ
腸炎ビブリオ菌やコレラ菌のヒトへの病原性を特徴づける遺伝子はヒトへの感染経路とは無縁の深海熱水噴出孔で進化した?

病原微生物の人間への病原性とはそもそも、何でしょうか?病原性の遺伝子はヒトに感染させたり、食中毒をおこすために生まれたものでしょうか?本記事では、腸炎ビブリオやコレラ菌のヒトへの病原性の遺伝子が自然界の中で、人間への感染経路とは全く無関係に進化してきたことを示します。

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殺菌法
ブロイラーからのカンピロバクターやサルモネラ菌の除菌剤としての過酢酸製剤

殺菌消毒薬として知られる過酢酸は、日本では2016年10月厚生労働省により「食品添加物」として認可されました。今回紹介するのは、食鳥処理場でのブロイラーの冷却工程の後の除菌液として、過酢酸の効果に注目した論文です。アメリカのオーバーン大学ナゲル博士の実験です。

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殺菌法
野菜や果物の洗浄と除菌方法として注目される超音波洗浄

超音波洗浄の原理を用いた野菜洗浄機が最近注目されています。野菜や果物に付着したサルモネラや腸管出血性大腸菌などの病原微生物を除去するためです。ブラジルのヴィソーザ連邦大学のジョセ博士らは、ミニトマトからのサルモネラ菌の除去の目的で、超音波洗浄機による洗浄に ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素、および過酢酸などの殺菌剤を併用し、その併用効果を検討しました。

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