■ 過去20年間の注目論文
胃の役割:食中毒感染を防止するための重要性
胃酸のpHは2.0程度なので、食べ物と一緒に胃の中に入ってくる病原微生物を殺菌する力があります。このことから、胃酸は、ヒトの食中毒菌感染を防ぐのに役に立っていると考えられています。しかし、実はこれを直接的に証明するデータはありません。もちろん、人のボランティア実験は行うことができません。また動物を用いた実験データも実はほとんど存在していません。今回紹介する記事は、確かに胃酸の存在が感染型食中毒の感染防除に役立っているということを実験的に証明した事例です。
病院提供のサンドイッチで低濃度汚染でもリステリア症
リステリア症患者の 92% は、1食あたり 105 cfu を超える摂取量に起因すると推定されています。したがって、1g当たり100cfu以下の低濃度では、健常者はリステリア症にならないと考えられています。しかし、基礎疾患のある人はこの限りではありません、この記事では、病院食として用いられていたサンドイッチに低濃度にリステリア菌が汚染していたため、入院患者がリステリア症になった英国事例を報告します。
HACCP管理者が学ぶ米国FDAの警告シリーズ❶:A社(パン製造工場)
食品製造会社がHACCPの実戦力を養うには、米国食品医薬品局(FDA)が食品製造会社へ送ったHACCP不備に関する警告書を読んでみることが有効です。本ブログでは、これらの警告書のうち、微生物関連に関する不備事例に焦点を当て、その要点をシリーズ(連続ではなく、随時掲載)で紹介していきます。シリーズ第1回の本記事では、パン製造会社Aの実例を紹介します。
乳児の牛乳アレルギーの原因に腸内細菌が関係している
先進国におけるアレルギー患者の増加を説明する一つの仮説として、抗生物質の誤用、食生活の変化などの21世紀の生活習慣が腸内細菌群を変化させているからだと考えられています。今回紹介する論文は、子供の牛乳アレルギーに腸内細菌の存在が密接に関わっていることを明らかにしています。
16S rRNAアンプリコンシーケンスによる粉ミルク工場の細菌叢解析
クロノバクター・サカザキ、サルモネラ菌の粉ミルク汚染は乳児への深刻な健康危害をもたらします。粉ミルク工場では、包装段階前のクロノバクター・サカザキの混入を防ぐことが重要です。その為に、工場環境の細菌叢解析が重要な意味を持ちます。本記事では、16S rRNAアンプリコンシーケンスス技術を用いて、アイルランドの2つの粉ミルク工場の微生物菌叢を2年間にわたりモニタリングした報告を紹介します。本研究は、16S rRNAアンプリコンシーケンス解析を用いて 粉ミルク工場環境の細菌叢を調べた最初の研究です。
ヒトとペットが共有する皮膚の常在菌
ヒト常在菌の差異の要因としては、(遺伝的)血縁関係、食生活、年齢などが考えられています。しかし、私たちの周囲の環境、つまり私たちが交流しているペットもまた、ヒトの常在菌に影響を与えている考えられます。コロラド大学のソング博士らは、60家族の糞便、口腔、皮膚の微生物叢を調査しました。
エノキダケとリステリア食中毒
日本と欧米とでは食生活が異なるのでリステリア食中毒はおきにくいと考えている人も多いと思います。ところが、日本、韓国、中国などの東アジア特有の食文化の食材が海を渡って米国でリステリア食中毒を起こしています。それはエノキダケです。最近では、米国にもこれらの国々から輸出されています。本記事では、米国での輸入エノキダケによる食中毒についてまとめてみました。
腸内細菌叢の多様性が不足するとカンピロバクター腸炎になりやすい
腸内細菌叢が多様なら外来病原菌を駆除する能力があるのではないかと、一般的には推測されています。しかし、このことを実際に科学的な観点からデータを示した報告は多くは存在しません。特にヒトに関しては殆どデータがありません。今回紹介する論文は、このことを科学的なデータで示した例です。カンピロバクター腸炎に関する報告です。ボランティア実験者の腸内細菌を調べた結果、やはり腸内細菌の多様性がある人の方がカンピロバクター腸炎にはなりにくいようです。
ノロウイルスによる65歳以上高齢者の死亡率
ノロウイルスの症状は通常、軽症で、感染者の多くは完治し、長期の後遺症はないとされています。しかし、65歳以上の高齢者の場合は、ノロウイルス感染により、死亡するケースもあります。では、ノロウイルスによってどれぐらいの人数の高齢者がなくなっているのでしょうか?実は、これに関する統計は国際的にあまり存在していません。そこで、英国健康保護局のハリス博士らは、ノロウイルス感染によるを高齢者(65歳以上)の死亡数を推定しました。
ノロウイルス感染力は冷凍で下がるか?
一般に細菌は凍結と誘拐を繰り返すと、細胞損傷を起こし、徐々に死滅していきます。ノロウイルスの場合はどうでしょう?ヒトノロウィルスは培養方法が確立していないこともあり、凍結融解を繰り返した時の死滅や感染力についての評価データは殆ど存在していませんでした。そこで、米国農務省農業研究所のリチャード博士がこれを実験してみました。