■ 過去20年間の注目論文
オランダ史上最悪のサルモネラ大規模食中毒の原因食品としてのスモークサーモン(2012年)
サケがサルモネラ食中毒の原因になることは稀です。しかし、オランダでは、過去に記録された最悪のサルモネラ大規模食中毒の原因食品はスモークサーモンでした。2012年にオランダで確認されたサルモネラ食中毒(Salmonella Thompson)の概要を紹介します。推定400万から600万人のオランダ国民がサルモネラ菌に汚染されたスモークサーモンを食べた可能性があり、23,000人がS. Thompsonによる急性胃腸炎を発症したと推定されています。オランダ国立公衆衛生・環境研究所(RIVM)感染症管理センターのフリースマ博士らの報告です。
鶏肉の冷蔵肉や冷凍肉ではカンピロバクターの生存期間はどれくらいなの?
鶏肉を冷蔵や冷凍保存すると、カンピロバクターの生存期間はどれくらいで、どれぐらいの速度で死滅するのでしょうか?この記事では冷蔵庫や冷凍庫に入れた鶏肉中におけるカンピロバクターの死滅の割合を定量的に測定した論文を紹介します。その結果、冷凍や冷蔵した鶏肉もカンピロバクターの重要な感染経路になることが示されました。
周辺環境の生物多様性が皮膚の常在菌とアトピー性皮膚炎に与える影響
アトピー性皮膚炎は、乾燥してバリア機能の低下した皮膚にダニ、ほこりなどの様々なアレルゲンが侵入して起きると考えられています。しかし、詳しい原因はわかっていません。アトピー性皮膚炎の原因の一つとして、私たちの身の回りの生物の多様性の減少に結びつける考え方があります。人々が自然環境や生物多様性と接触する機会が減ることで、人間の常在微生物叢とその免疫調整能力に悪影響を及ぼす可能性があります。本記事では、健常者と比較して、アトピー患者は、自宅周辺の環境の生物多様性が低く、皮膚上の細菌叢の多様性も有意に低いことを示す論文を紹介します。
スズメなど野鳥が葉物野菜の腸管出血性大腸菌の汚染源になり得るか?
葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌が米国で多発しています。その主な汚染経路は畑の近傍の牛の糞の飛沫や、糞で汚染された灌漑水などが推定されています。では、野鳥が腸管出血性大腸菌を畑に持ち込む可能性はないのでしょうか?この記事は、この可能性を調べた論文を紹介します。
葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌食中毒の10年間統計(米国およびカナダ )
葉物野菜は、米国では、腸管出血性大腸菌 O157食中毒の感染経路として、牛ひき肉に次いで、 2 番目に多い感染源食品です。特にロメインレタスを感染経路とする食中毒は、他の種類の葉物野菜よりも頻繁におきています(葉物野菜の中の54%)。また、葉物野菜を感染経路とする腸管出血性大腸菌には季節性があるようです(春と秋に多発)。本記事で紹介する論文は、米国とカナダで 2009~2018 年に発生した葉物野菜に関連する腸管出血性大腸菌食中毒を調査したものです。米国疾病対策予防センター(CDC)、カナダ公衆衛生庁、米国食品医薬品局(FDA)、米国カリフォルニア州公衆衛生局の研究者たちの共同執筆レポートです。
消毒のしすぎ、手荒れに注意ー皮膚の善玉常在菌の表皮ブドウ球菌の役割
黄色ブドウ球菌は皮膚表面で炎症を起こす悪玉菌です。皮膚表面に付着している黄色ブドウ球菌を減らすにはどうしたらよいでしょうか?皮膚表面の常在菌は、この悪玉菌を排除する力を持っているのでしょうか?実は、このことについて、これまで科学的に明確なエビデンスは存在していませんでした。 2017年にカリフォルニア大学サンディエゴ校の中辻博士らによって行われた研究が、このことを科学的に立証しました。表面の常在菌である表皮ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌を攻撃排除していることが明らかになりました。
食品および包材からの新型コロナウイルスの感染リスクについて
食品や包材から新型コロナウイルスが果たして感染するかについては科学的なデータが不足しています。 2022年、食品や包装材料からの新型コロナウイルスの感染に関して、2論文が発表されました。一つは食品や食品包材からの感染伝播の可能性が低いことを示した論文です。もう一つは中国で実際に輸入された冷凍食品から感染が起きた可能性を示唆した論文です。2つの論文からは相反する結論が導き出されています。本記事では、これらの論文の要旨を紹介します。
ウイルス性呼吸器感染がサルモネラの腸内感染を容易にする
呼吸器感染ウイルスは呼吸器系のみで増殖します。しかし、感染者は嘔吐や下痢などの消化器症状を呈することもあります。なぜ、呼吸器系の感染が、腸管でのこのような症状を起こすことがあるのでしょうか?その分子機構は未だ解明されていません。
抗生物質が体から抜けるまでと抜けた後に腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすか?
私たちは、お医者さんから抗生物質を投与されることがあります。処方された抗生物質が体から抜けるまでと、抜けた後に腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすのでしょうか?抗生物質投与中には腸内細菌は全滅してしまうのでしょうか?この記事では、抗生物質(この場合はシプロフロキサシン)に投与する前、投与中、投与後の3人の被験者の腸内細菌叢の組成を経時的に調査した結果を紹介します。