本記事は、食品の工場などで長らく生存した細胞、すなわち乾燥に耐えたサルモネラ菌のバイオフィルム細胞が、 熱処理や各種の殺菌剤に対して強い抵抗性を示すが、有機酸では死滅しやすいことを実験的に示した論文を紹介します。イスラエル国立農業研究機構のグルズデブ博士らの実験です。 

※サルモネラの基礎を知りたい方は、まず、下記記事をご覧ください。
食中毒菌10種類の覚え方 ②サルモネラ菌

※バイオフィルムの基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
食品工場-バイオフイルムについて

 まずは、 博士らの実験の前ですでにわかっていたことを記します。これまでにも、乾燥サルモネラ菌細胞は熱処理とエタノールに対して高い耐性を獲得することは報告されていました。そこで博士らは、脱水が他のストレスに対する耐性も誘導するかどうかを調べるために、乾燥サルモネラ菌・エンテリカ(S. enterica)血清型Typhimurium細胞を複数のストレスにさらし、その生存率を評価しました。

 その結果、乾燥したS. Typhimuriumは、非乾燥細胞よりも複数のストレスに対して高い耐性を獲得しました。乾燥細胞は、エタノール(10〜30%、5分)、次亜塩素酸ナトリウム(10〜100 ppm、10分)、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド(DDAC)(0.05〜0.25%、5分)、乾熱(100°C、1時間)、UV照射(125 W / cm2、25分)など、ほとんどのストレッサーに対して著しく耐性がありました。

各種ストレスをサルモネラに与えているイラスト

 対照的に、酢酸およびクエン酸へのサルモネラ菌の曝露させると、乾燥細胞の減少率(1.5 log)の方がむしろ非乾燥細胞の生存率(0.5 log)よりも高い結果となりました。 すなわち乾燥したサルモネラ菌細胞は、 多くのストレスに対して耐性を示すのにも関わらず、有機酸に対してのみは通常の細胞よりも弱い耐性しか持っていないという結果となりました。

また、他の3つのS. enterica血清型、S.Enteritidis、S.Newport、およびS.Infantisは、S.Typhimuriumと同様のストレス反応を示しました。

有機酸に弱いサルモネラ

博士たちの研究結果は、乾燥がサルモネラ菌の複数のストレスに対する交差耐性を誘発することを示しています。また、食品工場でのこれらのしぶといサルモネラ菌を駆除するための殺菌剤として、有機酸が有効であることも示しています。 

注:DDACは塩化ベンザルコニウムと同じく、「第4級アンモニウム塩」として表示されている物質で、塩化ベンザルコニウムよりも効果が高い殺菌剤。

Effect of desiccation on tolerance of Salmonella enterica to multiple stresses
APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, Mar. 2011, p. 1667–1673https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3067256/
この論文はPubMed Central(PMC)で無料公開されています。

※このの記事は公益社団法人日本食品衛生学会の会員限定のメールマガジンでの私が執筆した記事の再掲です。食品衛生学会の許可を得て、メルマガ発行以後1年以上経ったものについて、アーカイブ記事を私のブログで公開しています。

本記事に関連する各種殺菌剤に関する基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。

※微生物の熱処理と乾燥の関係の基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
食品の殺菌-まず加熱殺菌の基礎理解

※エタノール殺菌の基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
エタノール殺菌とその殺菌メカニズム

※次亜塩素酸ナトリウム殺菌の基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
食品工場-次亜塩素酸ナトリウム

※塩化ベンザルコニウム の基礎を知りたい方は、下記記事をご覧ください。
食品工場-第4級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム)