米国では、今年の8月に米国で再びアイスクリームによるリステリア食中毒が発生しました。患者はニューヨーク州とペンシルバニア州と別々の州に在住ですが、同じメーカーのアイスクリームを食べてリステリア症になったと推定されています。この記事では、この事件の概要を説明し、またなぜアイスクリームでリステリア症になるのかについても簡単に解説を加えたいと思います。

アイスクリームのイメージ。

注)上記はアイスクリームのイメージであり、本食中毒を起こしたブランド製品ではありません

2023年8月10日のCDC発表によると、ペンシルバニア州とニューヨーク州でそれぞれリステリア症になったシニアの男性一人と女性一人(年齢中央値は77歳)が、それぞれアイスクリームを食べたことで感染した可能性が高いと考えられています。

事件の詳細は以下の通りです。

 まず、ペンシルバニア州とニューヨーク州の両患者とも入院中ですが、死亡は報告されていません。

 米国では全ゲノムトラッカープロジェクトにより、リステリア菌の全ゲノム解析データが集約されて解析されます。CDCの職員は、ペンシルバニアの患者とニューヨークの患者のゲノムデータが一致していることを確認しました。これは、これら2人の患者が同一の食品から感染した可能性を示唆しています。

二つの州にまたがる臨床株が一致していることを発見したCDCの職員。

CDCの職員は、この2人に病気になる前の1カ月間に食べた食べ物について聞き取り調査を行いました。

その結果、一人の患者は自宅近くの食料品店で「Soft Serve On The Go」ブランドのアイスクリームカップを購入して頻繁に食べていました。もう一人の患者は、住んでいた長期介護施設で提供されていた同じブランドのアイスクリームを食べていたことが判明しました。

患者に聞き取り調査を行っている病院職員。

CDCの職員は、まず患者の自宅の冷蔵庫の中に残っていたアイスクリームを調査しました。このアイスクリームはリステリア症になった後に購入されたものでしたが、同じメーカー、同じフレーバーのものを何度も購入していました。

患者の冷蔵庫からアイスクリームを回収する。FDAの職員。

このアイスクリームのリステリア菌を検査したところ、リステリア菌が検出されました。

さらに、8月22日のCDC発表では、患者が冷凍庫に保管していたアイスクリームから分離されたリステリア菌株が臨床株と全ゲノム解析によって一致したことを発表しました。同時に、リアル・コーシャ・アイスクリームの製造拠点から収集した「ソフト・サーブ・オン・ザ・ゴー」アイスクリーム・カップ5個からリステリア菌が分離され、これも臨床株と一致しました。

以上から、CDCは「Soft Serve On The Go」ブランドのアイスクリームが原因であると断定しました。

アイスクリームからもリステリア菌が分離されたことを発見する検FDAの検査官

これらの商品は全国の食料品店、コンビニエンスストア、食堂で販売されており、長期介護施設、養護施設、学校、キャンプにも供給されていました。さらに、ベルギー、ブラジル、カナダ、メキシコ、英国などの国にも輸出されています。

これらの製品は、2023年8月9日にリコールされました。

店頭からアイスクリームをリコールしている職員。

現時点では患者の臨床株と、このメーカーのアイスクリームから検出されたリステリア菌の全ゲノム解析が進行中です。

CDCは、現時点で2名の患者しか確認されていないものの、実際の患者数はもっと多いと推測しています。健常人は医療を受けずに回復する可能性があり、重篤な症状を呈する人がリステリア症と関連づけられるまで3から4週間かかるため、まだ統計に反映されていない可能性があるとしています。

この食中毒事件の詳細については現在CDCは調査を継続中です。

(以下、ブログ筆者のコメント)

過去にも米国ではリステリアに関連した食中毒が発生しており、アイスクリーム関連のリステリアについては、下記の記事で詳しく解説しています。

リステリア食中毒のリスクに関連して、アイスクリームには以下の4つの特性があります。

  • アイスクリームは調理されずに直接食べる“ready to eat”食品である。
  • アイスクリームは冷凍流通されるので、流通時にリステリア菌は増えない
  • アイスクリームの製造環境、特に乳製品はリステリア菌の汚染がしやすい。
  • アイスクリームは高リスク群の人々が集まる場所、例えば老人ホームや病院で頻繁に提供される。

 リステリア症は、健康な人では1食あたり 105 cfu を超える摂取量が必要(平均的な一人前のサイズを50gと仮定すれば、これは消費時の調理済み食品中のL. monocytogenes濃度が>2000 CFU/gであることに相当)とされています。しかし、過去にはアイスクリームに大量のリステリア菌が存在していなかったにも関わらず、食中毒の事例が報告(下記別記事参照)されています。その主な理由として、感染した患者が高齢者や基礎疾患を持つ入院患者であったことが挙げられます。これらの人々は、健常者に比べてはるかに少ない細胞数でリステリア症を発症するリスクが高まります。したがって、わずかな菌数であっても感染するリスクがあるのが問題です。これに関する事例は、アイスクリームやサンドイッチなどの食品で以前から報告されています(下記記事参照)。

シニアにとっては、たとえ少量乗捨てディアキング汚染の食品であっても危険

 法律の観点から言うと、米国はゼロトレランスポリシーを採用しており、たとえ微量であってもリステリアが検出された場合、合格とは認められません(25g当たり非検出)。それに対して、ヨーロッパではどうでしょうか?ヨーロッパは、コーデックスの第2基準に基づき、リステリアが流通過程で増殖しない食品については100cfu/gまでの存在を許容しています。この基準は、日本の生ハムやチーズでも適用されています。今回の事件に関連するリステリアの濃度については、今後の検査結果を待つ必要がありますが、100cfu/g以下であれば、EUの基準内であり、リコールは必要ないということになります。米国のゼロトレランスに関する議論は、別記事で触れられているように、厳しすぎるのではという意見もあります。しかし、低濃度でも免疫力の低い人々に感染症を引き起こすリスクを考慮すると、米国の立場も理解できます。アイスクリームに関するこの事件は、この問題を再認識させるものです。

日本のアイスクリームにどのような自主基準を設定すべきか悩む日本のアイスクリーム会社。品質管理担当者

 なお、日本ではリステリア菌の規格基準が設けられているのは、ナチュラルチーズと非加熱食肉製品(生ハムなど)の2つだけであり、アイスクリームやサンドイッチなど、その他のすべてのready to eat食品については、自主基準の判断に任せられています。各社の品質管理担当者は、果たしてリステリア菌の検査をそもそも行うべきかどうかを判断する基準に悩んでいると想像します。また、検査した場合の評価基準として、EU基準、あるいは、日本ですでに規格基準が設定されているナチュラルチーズと非加熱食肉製品(生ハムなど)と同様に考えるなら、「流通時に増殖しないなら100cfu/gまで許容」という判断もあるでしょう。しかし、ブログ筆者の個人見解としては、高齢者、妊婦、免疫力の低下した基礎疾患のある人々(糖尿病、がん患者など)による消費を想定するならば、全ての消費者が加熱せずにそのまま食べるready to eat食品に関して、リステリア菌汚染はゼロトレランスを目指して管理すべきであると考えます。 

 低濃度汚染食品における過去のリステリア食中毒事例の詳細な原因解析については下記の記事をご覧ください。免疫弱者は低濃度のリステリア汚染アイスクリームでも感染する可能性があることを解説しています。

低濃度でリステリア菌に汚染されたアイスクリームは感染を起こすか?

病院提供のサンドイッチで低濃度汚染でもリステリア症

 また、下記記事では、2022年に発生したアイスクリームによるリステリア食中毒の概要を示しています。

米国で発生中のリステリアのアウトブレイクの原因としてアイスクリームが浮上

また、リステリア菌の基礎事項を学びたい方は下記記事を参照ください。

食中毒菌10種類の覚え方 ⑧リステリア菌

※本記事内で使用されているイメージ写真やイラストは、事例の概要を読者の理解を助けるために使用されており、実際の出来事や関係者とは関係ありません。