アイスクリームによるリステリア食中毒の事例(前記事で紹介)に引き続き、米国でハンバーガーレストランが提供したミルクシェーキによる食中毒が発生しました。2023年8月18日、米国ワシントン州保健局は、レストランのドライブスルーで提供されたミルクシェーキに関連し、6人が感染し、そのうち3人が命を失うという悲劇が起きたことを公表しました。この記事では事件の詳細と背景を解説し、免疫力の低い基礎疾患を抱える感染者たちに焦点を当てます。食品安全に対する懸念が高まる中、我々はこの問題にどう向き合うべきなのでしょうか。
2023年8月米国ワシントン州保健局の発表によれば、ワシントン州内のあるハンバーグレストランが提供したミルクシェーキが原因で、2023年2月27日から7月22日までの期間に、ワシントン州の住民6人(Pierce郡5人、Thurston郡1人)がリステリア菌感染症に感染し、その結果重症化しました。感染者の年齢層は40代から70代で、男性4人、女性2人です。このうち3人が亡くなったとのことです。
事件の経過は以下の通りです。
数ヶ月前から、ワシントン州内で発生したリステリア症により入院していた6人の患者から分離された臨床株が、CDCの職員によって全ゲノム解析され、完全に一致することが判明しました。これにより、これらの患者が同じ原因食品による食中毒であることが示唆されました。6人中3人は既に亡くなっており、残る3人のうち2人はワシントン州タコマの10727 Pacific Ave.S.にあるFrugalsレストランで提供されたミルクセーキを摂取したことを報告しました。
ここで、ワシントン保健当局(タコマ・ピアース郡保健局)の専門家は、2023年8月8日にFrugalsレストランで提供されたミルクセーキからのサンプル、およびアイスクリーム製造機から回収されたアイスクリームのサンプルを分析しました。アイスクリーム製造機の洗浄が適切に行われていなかったことも判明しました。
分析の結果、アイスクリームおよびアイスクリーム製造機からリステリア菌が検出されました。さらに、行われたリステリア菌の全ゲノム解析により、亡くなった患者を含む6人の感染者のリステリア菌がすべて一致することが確認されました。
このことから、これらのリステリア食中毒はこのハンバーグレストランで提供された ミルクシェークが原因とワシントン州保健局は断定しました。
Frugalsレストランの該当店舗でのミルクシェーキの販売は2023年8月25日に中止されました。ただし、同じチェーンの他の店舗には影響が及ぶとは考えられていません。
なお、今回の感染者全員が免疫力に問題のある基礎疾患を抱えていることが報告されいます。
ワシントン保健局は、リステリア症は感染後最大で78日間の潜伏期間があるため、今後も同レストランでミルクシェーキを摂取した人々に対して警戒を促しています。特に高齢者、妊婦、がん患者、糖尿病患者などの免疫力に問題のある人々には、異変があれば即座に報告するよう呼びかけています。
以上が事件の経過です。前回の記事で述べたように、今回もアイスクリームが原因でリステリア症の食中毒が発生しました。なぜアイスクリームが関与したのかについては、以前の記事および関連記事を参照してください。
<以下ブログ執筆者のコメント>
以前の記事で述べた通り、リステリア症のリスクがある"ready to eat"、つまり直接食べることができる食品を扱う企業は、高齢者、妊婦、免疫の低下した基礎疾患患者(例:がん患者や糖尿病患者)が摂取する可能性を常に考慮して、製品管理を徹底する必要があります。
低濃度汚染食品における過去のリステリア食中毒事例の詳細な原因解析については下記の記事をご覧ください。免疫弱者は低濃度のリステリア汚染アイスクリームでも感染する可能性があることを解説しています。
低濃度でリステリア菌に汚染されたアイスクリームは感染を起こすか?
また、下記記事では、過去に発生したアイスクリームによるリステリア食中毒の概要を示しています。
米国で発生中のリステリアのアウトブレイクの原因としてアイスクリームが浮上
また、リステリア菌の基礎事項を学びたい方は下記記事を参照ください。
また、今回の事件では、ミルクシェークの原料であるアイスクリーム製造機械の正しい洗浄が行われていなかったことが問題として指摘されています。具体的な洗浄不足の詳細や正しい手順については、ワシントン保健当局の発表からは明確には分かりません。しかし、食品製造装置の適切な洗浄が極めて重要であることは間違いありません。事前に設定された適切な洗浄プロセスに従い、装置を定期的に清潔に保つことが基本です。特に、分解が必要な複雑な装置の場合は、適切な手順で分解し、時間をかけてでも徹底的に洗浄することが必要です。
ここで、注意が必要なのは、装置の洗浄後ではリステリア菌が検出されないことが多いことです。リステリア菌は、装置の構造によっては隠れた場所に侵入し、バイオフィルムを形成することがあります。そのため、洗浄後にもリステリア菌が再び出現する可能性があるのです。こうした隠れた菌が食品製造ラインで再び現れることがあります。そのため、製造工場では洗浄前後だけでなく、製造中も環境モニタリングを行うことが重要です。
環境モニタリングについての重要性は、以下の記事でも詳しく説明されています。詳細は参考にしていただければと思います。
食品工場衛生管理における微生物検査ー環境モニタリングの重要性
EUにおける食品工場の環境モニタリングのための統一プロトコル(リステリア菌)
※本記事内で使用されているイメージ写真やイラストは、事例の概要を読者の理解を助けるために使用されており、実際の出来事や関係者とは関係ありません。